農業におけるマーケティングとは?
マーケティングと聞くと、つい難しく考え過ぎてしまうかもしれません。しかし、大切なことは「相手」について考えることだと、井上さんは話します。
「農業におけるマーケティングでは、『誰に買ってもらいたいか』について考えることが大切です。今、目の前のことももちろん大事ですが、作物を育てて収穫し、納めたら終了、という考え方になってしまうと、『一つの面積でどれだけたくさんの量を作ることができるか』が目的となってしまいます。それよりも、農業を持続していくためのマーケティングにおいては、誰にどのように買ってもらいたいか、買いたくなる『付加価値』を付けるにはどうしたらいいかについて考える必要があります」
生産者側にとって、作物に付加価値が付くことは利益につながります。自分で販路を考えたり、ターゲット(消費者像)を明確にすることにより、自分が作る作物の強みを引き出すことができます。例えばフルーツなら糖度や食べやすさにこだわったり、野菜ならよりおいしく食べられる食べ方を提案したり、作物に込められた思いや作る過程の背景を消費者に伝えることがマーケティング拡大へとつながっていきます。
実際の成功例などを知った上で、オリジナリティを見つける
「もっと高い糖度の果物を作ることができないか?」という生産者への問い合わせがきっかけとなり、株式会社食文化は農業マーケティングの提案を始めるようになったといいます。
「農業マーケティングでは、まずは情報を集めることから始まります。道の駅やスーパーなど、自分が販売を考えている売り場を実際に見て、そこではどんなものが売れているのかを調べたり、農業の専門誌やネットを見たりすることで、どのような食のトレンドがあるのかをリサーチすることが最初の一歩となります。また、他の生産者がどこに注力して実績を上げているのかをリサーチすることも、作物を作り販売していく上で、どのような強みを生かしていけばよいか考えるきっかけになります。まずは他の生産者の成功例を知った上で、オリジナリティを見つけていくのです」
株式会社食文化が手掛けた農業マーケティングの事例を見てみると、例えば、福島県の古山果樹園とともに「世界一の桃を作ろう」と取り組んできたプロジェクトでは、暁星(ぎょうせい)という品種に着目。果樹園に約230本ある桃の木のうち13本ある暁星の木の中で、特に甘い果実を付ける優れた3本の木に限定して収穫し販売しました。その結果、糖度や香り、大きさに優れた桃“古山果樹園の暁星”を大ヒットさせました。ほかにも同社は、小玉であるために市場から敬遠されていたリンゴ「こみつ」の香りと蜜の多さに着目。「究極の蜜入りりんご」と銘打つなど販売及びプロモーションを工夫し、その取り組みはメディアでも取り上げられ、今では高いリピーター率を誇るまでに市場価値を上げました。
作る過程に工夫を凝らすことでその付加価値を上げ、作物の魅力を消費者に知ってもらうことも、マーケティングにおいて重要なポイントです。
情報を得るための行動力が、マーケティング成功のきっかけになる
農業マーケティングを成功させるためには、何より「素直さ」が大切だと井上さんは話します。
「農業マーケティングでは、自分が何をしたいかを理解するために、なぜ農業をやりたいと思ったのかなど、素直な視点が大事です。その『なぜ』について考え、分からないことは聞くこと。商談会や勉強会などが定期的に開催されていますので、積極的に参加し、人とかかわり仲間を増やしていくことで自分の方法が見えてくるはずです。新規就農者の場合は、まずは従来の方法で農業を始めてみてください。そこから今までよりもおいしく、よりたくさんの人に食べてもらうにはどうすればいいかを追求していきましょう」
まずは近くの道の駅へ行ってみたり、地元の農家とのかかわりを持ったり、情報を得るための行動を起こすことが農業マーケティング成功のきっかけになるようです。
生産者にとって農業マーケティングは、リサーチすることはもちろん、農業に対する自分の気持ちと素直に向き合い、「自分が何をしたいのか」を明確にすることが大切である、ということが井上さんのお話から分かりました。まずは「やってみる」こと。それが農業マーケティングを成功させる大きな一歩となるはずです。