先進的な研究開発
愛知県農業総合試験場の10大成果

中央研究棟ロビーに展示された「カエル脱出装置(網)」。吸盤がないカエルでもポリエチレン製ネットにより登れる
愛知県農業総合試験場では毎年、その年の「10大成果」を公開しています。これは大学教授、民間研究所、マスコミ関係者、消費コンサルタントなど外部からの選定委員が協議して選出するという他県ではあまり例のないユニークなもので、ネット上でも閲覧できます。
2017年は、花びらを華やかな形にした輪ぎく、大型の肉用名古屋コーチン、病害に強い稲など新品種開発の研究成果のほか、小麦の生育予測技術や獣害対策技術、農業水路に転落したカエルの脱出網など環境保全系の研究開発まで、バラエティに富んだ農業支援技術が選ばれました。
この10大成果を見るだけでも同試験場の研究開発力の高さ・幅広さがうかがい知れます。
歴史と研究分野の概要
歴史をたどると、名古屋市内で農事試験場として発足したのは1893年。その後、県内各地に分散していた園芸、肉畜、養鶏、蚕業の試験場を統合し「農業総合試験場」として長久手を拠点としたのが1966年で、そこから数えてもすでに半世紀以上。
現在、研究分野は大きく分けて、作物・園芸・畜産・茶業・環境基盤・経営の6つとなっており、合わせて22の研究室が置かれています。
研究課題と開発期間
研究テーマは毎年、生産者の要望をくんだ課題が県から提示され、そこから採択します。近年は常時およそ150の研究課題が動いており、それを137人(2018年度)の研究員が複数かけもちして取り組みます。
開発期間・担当者数などは課題によってまちまちですが、品種改良は長期化することが多く、「夕焼け姫」という柑橘(かんきつ)は、のべ10人の研究員が20年以上をかけて完成させました。
日本の農業全体に貢献する成果の数々

地鶏のナンバー1ブランド「名古屋コーチン」(写真提供:愛知県農業総合試験場)
昭和の米と名古屋コーチン
2016年に開場50年を迎えた際まとめられた「20大成果」からは、同試験場の研究開発が愛知県だけでなく全国的に普及、もしくは影響を与えていることが見て取れます。
たとえばササニシキやコシヒカリなどのブランド米が普及する以前、1970年から78年まで栽培面積日本一を誇った米は、同試験場から生まれた「日本晴(にっぽんばれ)」でした。
同じく1970年代に改良され、復活した「名古屋コーチン」は、全国の地鶏ブームの先駆けになりました。
また、水田に直接種をまく“直播栽培”の難点(鳥に種を食べられる、苗が倒れやすい)を克服した「水稲不耕起V溝直播」は、米づくりの省力化と経費削減を実現しました。
「名古屋めし」を支える小麦と病害虫の遺伝子診断技術
2000年から09年にかけて開発され、11年に品種登録された「きぬあかり」は、日本の麺類に適した小麦の新品種です。病気に強く生育が早いため、梅雨になる前に収穫できるというメリットがあり、すでに愛知県の小麦栽培面積の8割以上で栽培されています。
名古屋の食文化、いわゆる“名古屋めし”の中で、きしめん・味噌煮込みうどんといった麺類の原料として使われています。
また、バイオテクノロジーの分野でも、「LAMP法」(遺伝子増幅法)を利用した病害虫の遺伝子診断技術を、農業分野では世界で初めて開発しました。これにより、素早く、簡単に、高い精度で、作物を荒らす病害虫がどんな虫かを特定でき、しかるべき防除措置が取れるようになりました。
これらの品種や技術の、日本の農業全体に対する貢献度はかなり高いと言えるでしょう。
ネクストステージ

愛知県農業総合試験場・企画普及部企画調整室の、主任研究員・中村明弘(なかむら・あきひろ)さん(左)と室長・小出直哉(こいで・なおや)さん(右)
最低限の投資で実現できる「あいち型植物工場」
近年、同試験場では生産者の所得向上を目標に、経営改善を図る研究開発に力を入れています。
その先駆けとなった事例が2015年に発表された「あいち型植物工場」(JAあいち経済連・トヨタネ株式会社との共同研究)。これは既存の栽培用ハウスに新しい環境制御機器を導入し、ハウス内の二酸化炭素や温度・湿度をコントロールして農作物を育てるシステムです。ICTを活用することにより、生産者が大きな投資をするリスクを冒さずに生産力を上げることができます。
あぐりログをプラスした進化形
さらにこの「あいち型植物工場」に環境モニタリングシステム「あぐりログ」を導入することによって、栽培環境のデータをクラウドで保存、それをメンバー(地域の生産者)間で共有し、他のハウスの状況を参考に自分のハウスの環境を調節するといったことも可能にしました。
さらに今後はAIを使って、作物の生育状況に応じて肥料のやり方を変えるといった自動化システムも開発していく予定です。
IT企業と共同で農業経営力を高める研究を
このように同試験場では現在、ソフト開発やデータ解析などを専門とする民間企業と協力して、ICT、IoT、AI、ロボット、ドローンなどを活用した技術を追求。省力化と収益増加を促し、愛知県の、ひいては日本の農業の生産力アップを目指しています。
現場解決型研究に大きな期待
愛知県農業総合試験場の強みは、農作物や家畜の生理生態データを蓄積していること。そして、生産の現場に寄り添い、生産者の声を聞き、つねに現場解決型研究を心がけていることに集約できるでしょう。
あまたの実績をもとに日本の農業の新しいステージを開く原動力として、今後の研究開発にますます期待が高まります。