有機農業とは?
有機農業とは、天然の有機物を用いた肥料や有機資材を使用し、化学的に合成された肥料や農薬を使用しない栽培方法のことです。日本では、2006年に「有機農業の推進に関する法律」によって、有機農業の基本的な定義が定められました。
有機農業においては、微生物の働きによって土壌の保水性が向上し、根が発達しやすくなります。野菜の味や栄養価が高いことが特徴で、日持ちも良いです。また、必要に応じて肥料を与えるため、作物の成長を促すことができます。
有機農業と似ている言葉として「自然農法」や「無農薬栽培」があります。
自然農法は農薬や化学肥料を一切使わない栽培方法で、無農薬栽培は農薬を使用しない栽培方法のことを意味します。有機農業は、天然由来の物質であれば、肥料や農薬を許容する点でこれらの栽培方法とは異なっています。
肥料や農薬を用いることから、有機農業は無農薬栽培よりも安全性に劣っていると感じる人もいるかもしれません。
しかし、有機農業は農林水産省の認定機関によって認められてはじめて掲げることができる一方、無農薬栽培は認定がないため、有機農業のほうが信頼性が高いとされています。
自然農法と有機農法の違いは?
一般的に普及している慣行農法は、農薬を使用して作物の病気・虫食いを抑制したり、化学肥料で成長を促したりします。対して、より安全性の高い作物を作るために生まれた農法が、農薬や化学肥料を使用しない自然農法や、認められた有機資材を使用する有機栽培なのです。
農法の始まりと決まりの違い
自然農法には二人の代表的な提唱者がいます。その一人である岡田茂吉氏(おかだ・もきち)は、1935年に無農薬・無肥料で育てる自然農法の基本となる理論を構築し、もう一人の提唱者である福岡正信氏(ふくおか・まさのぶ)は、不耕起・無農薬・無肥料・無除草というなるべく人の手を加えずに育てる自然農法を掲げています。
有機農法の場合、化学的に合成された肥料と農薬を使用しない代わりに、天然の有機物を用いた肥料である有機資材を用いて農業を行います。農林水産省では2006年に、化学的に合成された肥料や農薬を使用しないこと、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本とした有機農法の定義を「有機農業の推進に関する法律」で定めています。
また、収穫した農作物を有機栽培やオーガニックの商品として表記する場合には、農林水産省が定めた「有機JAS規格」の認定を受けることが法律で定められています。有機JAS規格の認定には、登録認定機関の検査を通過する必要があります。
農作物の違い
自然農法は、農薬や化学肥料などを使用しないため作物にえぐみが出にくく、栄養分の多い皮も一緒に食べられます。作物本来の味が楽しめますが、虫がつきやすいのがデメリットでもあります。
一方、有機農法は有機資材により使う肥料に準じて必要な栄養分を与えることができます。微生物の働きによって土壌の保水性が良くなり、水を求めることにより根が発達します。ゆっくりと栄養を供給する堆肥などを使うことで、じっくりと吸収して育てられるため、野菜本来の味が感じられて栄養価の高い作物が出来上がるそうです。他にも、日持ちが良いなどの特徴もあります。
成長スピードの違い
自然農法は、自然のサイクルに任せて作物の成長を待つため早いとはいえません。同じ土壌で育てていても、個体によって成長スピードが異なりますが長期間楽しめるのも特徴です。
一方で有機農法は、その時々に必要な肥料を使用できるため成長を促すことができるでしょう。
手間のかかり方の違い
自然農法の基本である「不耕起・無農薬・無肥料・無除草」すべてを守った場合、手間は軽減できるといえます。土を耕したり水をやったり、除草剤を使用しない場合は、自ら除草しなければいけません。
有機農法では、土を耕したり除草をする他にも適した肥料を施したり水やりをする必要があります。
有機農業のメリットは?
消費者からの信頼
有機JAS認証を受けていない農産物は、どの程度の農薬や化学肥料が用いられているか、消費者は判断することができません。その一方、有機農業は有機JAS認証を受けることによって、安全性が保証されます。有機JAS認証は生産者にとってアピールに繋がるだけではなく、消費者が安心して農産物を手に取る手がかりにもなるのです。
農作物本来の美味しさ
有機農業では、農産物本来の美味しさを引き出すことができます。化学肥料などにより、人工的に成長を早められた農産物は、風味が薄くなってしまうことがあります。
有機農業は、通常の栽培方法と比べて生産コストや時間はかかりますが、本来の成長速度で農産物を育てることができるため、農産物が本来の味を蓄えることができます。これにより、従来よりも味が濃く旨味の強い農産物を生産することができます。
環境への配慮
化学肥料は、土壌の有機物のバランスを変化させ、土の性質を変えてしまうことがあります。結果として、その土壌に生息している微生物や昆虫などを減らし、生態系の破壊に繋がる恐れがあるのです。
有機農業は、土壌に急激な変化をもたらすことがなく、環境や生態系に配慮しながら農産物を栽培することができます。また、化学農薬や化学肥料などの化学物質の使用を制限することによって、農業に伴う環境汚染も軽減することが可能です。
このことは、将来にわたって持続的な農業を行っていく点で重要となってきます。
有機農業のデメリットは?
収穫量が少ない
有機農業は、化学肥料を使わないため、生育速度が通常の農業よりも遅くなっています。そのため、収穫量は少ない傾向にあります。また、収穫された農産物は選別された上で市場に出回るので、流通量はさらに少なくなります。これらの理由から、有機農業では消費者に農産物が行き渡りにくい上に、一般的な農産物よりも価格が高くなってしまいます。
コストがかかる
有機農業は化学的に合成された肥料や農薬を使うことができないため、雑草や害虫の対策により多くのコストがかかります。例えば、手作業で農地の手入れをする場合、人件費も考慮しなければいけません。また、有機JAS認証を取得するための費用も必要です。認定された後も、有機JASマークをパッケージに表示するための費用がかかります。
病害虫に弱い
有機農産物は、化学農薬を用いて作られた農産物に比べて、病害虫に対して抵抗力の弱い傾向があります。このため、作物が病気にかかったり、害虫の被害にあったりして、作物の見栄えが悪くなりやすくなってしまいます。
有機JAS認証とは?
有機JAS認証とは、農林水産省が設けた基準をクリアした農産物を消費者に提供するための制度であり、JAS規格に基づく検査により認証された生産者にのみ付与されるマークです。有機JASマークのついた農産物は「有機野菜」として販売されています。
有機JAS認証を受けるためには、化学肥料や禁止農薬、遺伝子組換え技術を使用していないこと、過去2年以上に禁止された化学肥料や農薬を使用していない健康な水田や畑で農産物を生産していること、栽培から出荷までの記録を取り生産過程の確認ができることなどが条件となります。
また、年次調査を受けなければ、有機JAS認証を受けた事業者として継続することができません。
有機JAS認証が設けられた背景には、消費者の食品の安全に対する意識が高まり、有機農業が一般化したことがあります。有機JAS認証は、混乱した表示方法を是正するために、基準を設け、消費者が求める有機農産物を見分けやすくするために設立されました。
グローバルGAPとは?
国内の農産物の安全性を保証する基準として設けられている有機JAS認証に対して、海外の農産物の安全性について設けられている基準が「グローバルGAP」です。
有機JAS認証が農産物に対して付与される一方で、グローバルGAPは持続的な生産活動を実践している企業に与えられます。持続的な生産活動とは、農業生産の環境や社会を、より良い状態で持続させていきながら行われる生産活動のことを指します。
このことから、グローバルGAP認証を受けるには、農産物の安全性のみならず、労働環境や自然環境の保全に対する取り組みもチェックされます。グローバルGAPは国連食糧農業機関により認証され、この認証により企業の生産した農産物の安全性は証明されます。
グローバルGAPは有機JAS認証よりも基準が広くなっています。このため、グローバルGAPの認証を受けることによって、海外での事業の拡大に繋がるだけではなく、農業経営の質の向上も目指すことができます。
選ぶ農法によって作物の出来や手間が異なる
自然農法と有機農法の特徴や違いについて紹介しました。農作物の見た目や、手間のかかり方など、何を重視するかによっても農法の選び方は変わるでしょう。それぞれの農法の特徴を正しく理解し、最適な農法を実践することが大切です。