夏の期間が4カ月になる!?
「深刻な気候影響を避けるためには、産業革命の前と比べて、気温の上昇を2度以内に抑えることが必要なんです」(増冨氏)
気温が2度上昇すると、どのくらい暑く感じるのでしょうか。増冨氏曰く、「日本人が『夏だ』と感じている期間は7月~9月の約3カ月ですが、気温が2度上昇すると、それが6月~9月の4カ月に延びる感じですね。一方、『冬だ』と感じる期間は12月~2月の約3カ月から2カ月に短縮されます。つまり、四季が変わるくらいの大きな変化です」
猛暑は、熱中症など人体におよぼす影響もありますが、人間であれば健康管理をし、空調が管理された部屋に移動することもできます。しかし農作物はそうはいきません。過酷な猛暑にさらされた田んぼや果樹園では、米粒の品質の低下や果樹が日焼けしてしまう等の影響がではじめています。
2018年6月には「気候変動適応法」が参院本会議で可決され、成立しました。
これは地球温暖化に伴う農作物被害や気象災害の影響などを軽減するため、自治体等に適切な計画の策定を求める法律です。
「対策」から「適応」の時代へ
気候の変動を可能な限り食い止めるだけでなく、ある程度の変化に対して“適応”していくことも考えなければいけません。
「人間の健康状態に例えるなら、風邪をひかないようにするのが『対応策』。手洗いやうがいをすることです。ところが風邪をひいてしまったら、症状を和らげたり、菌を消すために薬を飲むなどの適切な対処、つまり『適応策』が必要となります。
私たちは温暖化を抑制するために、『京都議定書』や『パリ協定』に基づいた取り組みを進めていますが、そうした『対応策』を進めても、今後もある程度の気温の上昇は避けられません。
もちろん取り組みは引き続き必要なことですが、すでに現れている影響や、目の前に差し迫った危機には適切に対応していく必要があります。農業界も気候変動の現実にどう向き合っていくのか、考えていく必要があります」(増冨氏)
風邪の種類や人の健康状態にあわせて薬が変わるのと同じく、地域や作物、受けている被害によって、求められる対処も千差万別です。
では、日本の農業はどう適応していけば良いのでしょうか。
日本はどう適応すべきか
農作物の深刻な影響のひとつに、リンゴやぶどうなど果実の日焼けが挙げられます。葉摘みの時期をずらすことや、日焼け軽減のために袋がけ、笠かけをおこなう等、各地で対応策がとられています。それでも日焼けしてしまった果実は出荷できないものや、価値が下がってしまうものも数多くあるそうです。
この状況に適応するためには、「色が均一でかたちの整ったものが良い果実である」という固定観念を崩し、日焼けした果実のニーズを探ることかもしれません。
一方、稲作の現場でも深刻な影響が出てきています。穀物の種子が発育・肥大する登熟(とうじゅく)の期間に高温や日照不足にさらされると、お米が白濁してしまう、「白未熟粒(しろみじゅくりゅう)」が増加します。
白未熟粒の割合はコメの評価そのものに直結するため、コメの等級が落ちてしまうなど、生産者の家計も圧迫する深刻な影響が生じます。
そうした事態に対応していくためには、白未熟粒の発生を防ぐような栽培技術や品種を開発し、実践していくという適応策が考えられます。
現在茨城大学農学部は、地元のJAと連携して、そうした技術の調査・研究を進めています。調査をするなかで、気温や日射量がほぼ同じ地域であっても、田んぼや生産者によって白未熟粒の発生率に差があることがわかったそうです。
本セミナーに参加し、農家が受けている影響の大きさと共に、既に研究や技術開発が進んでいることもわかりました。
一方、適応策においては、研究者と生産者が創意工夫して作った作物が、消費者に受け入れられるかどうかも重要になります。
消費者は、今までの作物に対する価値観や認識をいま一度見直し、地球の未来を考えて何を選ぶべきかを考え直す時期かもしれません。