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「半農半芸」を実践 畑仕事と芸術創造が交わる高須ハウス(後編)

「半農半芸」を実践 畑仕事と芸術創造が交わる高須ハウス(後編)

最終更新日:2018年08月21日

茨城県取手市と市民と東京藝術大学の三者共同で展開する「取手アートプロジェクト」。その主要事業である「半農半芸」の活動拠点が、市内高須地域にある「高須ハウス」です。ここでは、若手アーティストたちが農作業を行いながら、自身の創作活動を探求しています。
農や地域に関わることで、作品がどう変化していくのか。そして、半農半芸プロジェクトが見据える次の取り組みとは何か。後編は、高須ハウスで活動している若手アーティストの具体的な取り組みなどについて紹介します。

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地域の特徴を作品や研究のテーマに

農に触れながら創作活動

茨城県取手市にある高須ハウスでは若手アーティストたちが、野菜や果物を育てながら創作や研究活動に励んでいます。
2018年7月上旬に訪れた時、ここで過ごしながら制作や調査をしていたのは、東京藝術大学大学院1年生の秋良美有(あきら・みゆ)さんと同2年生の幅谷真理(はばや・まり)さんです。

子供たちの心の中の動きを表現

秋良美有さん

作家である秋良さんは、2017年夏期に高須ハウスで実施された、アーティスト・イン・レジデンス・プログラムに参加し、“アートをきっかけに対話が生まれる展示”に挑戦しました。
「アーティスト・イン・レジデンス」とは、ある土地にアーティストを招き、滞在中の作品制作を支援するという事業です。
高須ハウスでのアーティスト・イン・レジデンスは、高須という農と地続きの環境での滞在制作やリサーチの機会を若手アーティストに提供し、表現活動・活動発信の支援を行っています。
作品をつくる過程では、高須地区や近隣地域から生徒が通う取手市立藤代南中学校の美術部や、地域の小学生にインタビューを重ねました。滞在の成果発表で秋良さんは、現代の学生が抱えている、個人と他者の関係とそこから生まれる意識のズレや葛藤をテーマに屋外作品とインスタレーション(※)の作品を発表しました。2018年、再び高須ハウスを訪れる機会を得た彼女は、またも果敢に新たなる活動を続けています。

※ 特定の空間に素材や映像などを配置して、その空間全体を作品として鑑賞者に体験させる芸術作品の表現手法。秋良さんは高須ハウスの2階と屋上を使って、映像や立体物を組み合わせた作品を発表しました。

農業とアートとの仲立ちとして

幅谷真理さん

一方、作家と鑑賞者との橋渡し役とも言えるアートディレクター志望の幅谷さんは、アートが作り出す、作家と鑑賞者とが立場に関係なく過ごせる場について研究しており、地域の人たちからの聞き取り調査をベースに大学院の修了論文をまとめています。
このまとめとして、9月30日(日)に高須ハウスで、新たな“場”作りを試みる予定です。

すれちがうコミュニティ

二人が共通して見据えている「コミュニティのすれちがい」というテーマは、郊外に位置する地域が抱える問題の大きな特徴となっています。
この地域には二つのコミュニティが存在します。昔から農業を営みながらこの土地で暮らしてきた住民のコミュニティと、宅地開発を契機に移住してきた新しい住民のコミュニティです。
両者はけっして対立・反目しているわけではないのですが、幅谷さんは「農家とそうでない人たちとは異なるリズムで生きているので交わることがなく、互いのことがずっとわからない状態になっている」と評します。

アートがどんな変化を起こせるのか

幅谷さんは、そんなどこまで行っても交わらないように見える平行線の間にアートを置くとどうなるかを試したいと言います。
秋良さんも、日常の風景の中に、異なる視点でつくったアートが出現することで、人々の心に変化を起こせるのではないか、と期待と興味を抱いています。

人間と人間が出会える場に

農業と芸術、それぞれの持っている可能性を信じ、半農半芸プロジェクトに勤しむ二人にとって、この地域で起こっている生活リズムの小さなすれちがいは、現代社会が抱える大きな問題「経済効率の追求による専門化」と重なり合います。
「農家という農業専門の職業ができ、食べる物についてはそこに任せきりで、食べて生きているはずの人たちが、その食のなりたちや関わっている人を知らない、という分断された状況ができてしまった」と幅谷さんは言います。
「半農」はそれに対して、農をもっと広く深く社会に組み込むためのアクションとも言えます。そしてアート、「半芸」をそのきっかけとして使えるかもしれないのです。
農とアートをうまく掛け合わせることで、もっと自然に人間と人間とが出会える場所・時間を増やせるのではないか。半農半芸プロジェクトの実践者たちはそんな思いを持って取り組んでいます。

半農半芸ディレクターが起こす新しい動き

東京藝術大学の卒業生でもある岩間賢さん
 

「地球規模の視野と、草の根の地域の視点で」

この高須ハウスにおける企画や運営を取り仕切り、若手アーティストたちの相談相手も務める岩間賢(いわま・さとし)さんは、「この地球が人類が生活を営める唯一の場所であるということを、改めて見つめ直す必要があります。そのために、国境を超えた地球規模の視野と、草の根の地域の視点をもつ人材を育成することが大切です」と語ります。
岩間さんは現在、愛知県立芸術大学准教授であり、東京藝術大学では非常勤講師として教育研究機関に所属しています。幼少期より庭師と交流するなど自然に親しみ、学生時代から棚田や茅葺(かやぶき)古民家の再生などを手がけてきました。

「大地の芸術祭」の参加アーティストが統括ディレクターに

2010年、取手アートプロジェクトから半農半芸プロジェクトが始動します。始動にあたり、統括ディレクターに名前が挙がったのが、新潟で開催される「大地の芸術祭」にもアーティストとして参加していた岩間さんでした。当時から新潟県十日町市坪野集落という、縄文期から豪雪や河岸段丘といった厳しい条件下で米づくりをしてきた地域で、自ら汗をかいて芸術活動に打ち込んでいました。
その活動を知ったプロジェクトからの働きかけにより、岩間さんが統括ディレクターに就任することになりました。

第2の拠点「藝大食堂」スタート

高須ハウスにおける活動実績が認められ、半農半芸プロジェクトが軌道に乗り始めた2017年10月、岩間さんは取手アートプロジェクト事務局とともに、東京藝術大学取手校の敷地内に第2の活動拠点として「藝大食堂」をオープンさせました。
もともとあった学生食堂を、業者の入れ替わりをきっかけにリノベーション、メニューや運営システムも一新。また、校地内の里山環境を整備し、食材になる作物を栽培できる畑や果樹園をつくる計画も立てています。
ここでは、遠い未来ではない、今から地続きの“10年後の未来”を多くの視点から捉え、美術も、音楽も、ダンスも、建築も、農学も、社会学も、生命研究も、さまざまな分野が領域を超えて共振し、新しい世界観や知を発信する拠点にしたいと考えています。

つくること、生きることの新しい価値を創る試み

農業

取手アートプロジェクトの「半農半芸」は、「10年かけて旅する活動」をうたい、長い期間をかけて地域に関わり続けていくものとしてスタートしました。これから先もさまざまな活動が行われていく予定です。
アーティストたちは農を通して自然を表現の軸にとらえながら、新しい価値を創ろうとしています。そこからどんな花が開くのか、大学や地域の人たち、そしてこの活動の将来を見守る人たちの期待を集めています。

 
高須ハウス
藝大食堂
取手アートプロジェクト

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