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但馬牛(神戸ビーフ)の繁殖から精肉まで 田中畜産が感動を呼ぶ3つの理由

但馬牛(神戸ビーフ)の繁殖から精肉まで 田中畜産が感動を呼ぶ3つの理由

肉用牛の畜産農家としてゼロから就農した「田中畜産」の田中一馬(たなか・かずま)さん。子牛を生産して出荷する「繁殖農家」のほか、牛のひづめを削る「削蹄師(さくていし)」としての顔も持ち、放牧牛の精肉・販売まで手掛けます。一馬さんのSNSやブログは大人気で、自社サイトだけで牛一頭分のお肉が4時間でほぼ完売するほど。田中畜産がお客さんの心をつかみ、感動をもたらすのはなぜでしょうか。そこには3つの理由がありました。

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理由1:畜産の狭き門、新規参入で「牛飼い」になる

田中畜産の牛は「黒毛和種」と言う種類の「但馬牛(たじまうし)」です
 

5頭の牛から繁殖経営をスタート

2002年、24歳で新規就農した一馬さん。ご両親は警察官だったため、農業とは縁のない家庭でした。子供の頃から動物が好きで、北海道の酪農学園大学へ入学。在学中、牛に魅了され畜産農家を志します。大学卒業後、兵庫県の畜産農家での研修を経て「田中畜産」を起業しました。

就農するにあたって一馬さんが牛飼いの地に選んだのは、「但馬牛(たじまうし)」の原産地である兵庫県美方郡(みかたぐん)です。言わずと知れた高級肉の「神戸ビーフ」は、「但馬牛(たじまうし)」をお肉にしたもの。兵庫県で生まれた「但馬牛(たじまうし)」をお肉にすると「但馬牛(たじまぎゅう)」になり、その「但馬牛(たじまぎゅう)」の中でも特定の基準を満たしたお肉が「神戸ビーフ」になるのです。

最初、一馬さんは200万円を借り入れて5頭の妊娠牛を購入し、繁殖経営をスタートさせました。そこから実績を積みながら、借り入れの金額を増やしていったそうです。初期投資額の高さからも非常に狭き門だと言われる畜産の新規就農。就農と言っても後継ぎや法人の従業員ではなく、ゼロからはじめる一馬さんのような「新規参入」には、とてつもなくハードルが高いのです。

縁と運に支えられてきた

では、一馬さんはどうやって事業を営んできたのでしょうか。「僕がやってこれたのは“縁”に恵まれたからです」と話します。

「お金に困ってコンビニのアルバイトをしようと考えていた時、『削蹄(さくてい)』の親方に出会いました。削蹄とは牛のひづめを削って形を整える“牛の爪切り”のことで、それを仕事にするのが削蹄師です。『アルバイトなんかしても転落するだけだ』と、親身になってくれた親方に弟子入りして削蹄の仕事を始めました。子牛の価格が下落した時も安定した収入源があったため、畜産経営を軌道に乗せることができたんです」

牛のひづめを削る一馬さん。削蹄は熟練した技術を要する仕事です
 

削蹄と牛飼いの両立

削蹄を請け負う地域は近隣だけでなく、四国など遠方も多いのだそう。午前中は削蹄に出かけ、午後からは約50頭の牛がいる牛舎に戻って牛飼いをする日々。スタッフはおらず夫婦だけで事業を営んでいて、一年中多忙を極めます。生き物を飼う仕事に休みはありません。

小学4年生の長女・咲ちゃんも牛のお世話を手伝います

「牛が好き」と言う一馬さんに、牛のどこが魅力ですか?と聞くと「分からないところ」と即答で返ってきました。「牛はお肉になるまで3年近くかかります。豚や鶏と比べても長い歳月です。消化のメカニズムも複雑。僕は毎日牛を見て、分からない牛を分かろうとする。それが楽しさだと思います」。新規参入の厳しさに負けず貫いてきたその気持ち、そして牛と向き合い続ける一馬さんの姿を見ると、心を動かされます。

理由2:放牧した牛のお肉を直接お客さんに届ける

草が生える春から雪の降る12月ごろまでが放牧期間。お肉の販売は冬限定です
 

輸入の飼料ではなく、放牧で作られるお肉

削蹄と牛飼いをこなしながら、2008年から精肉とお肉の販売もはじめた一馬さん。お産の役割を終えた母牛や、子牛市場に出荷できなかった牛を、地域の山やスキー場に放牧。牛はご自宅から10分ほどのところにある「と畜場」へ加工に出し、ブロックになったものを自宅に持ち帰り、奥さんのあつみさんが自家精肉します。

精肉を担当するあつみさん。地元のお肉屋さんでカットの方法を学んだそう。試行錯誤しながら腕を磨いています

田中畜産のお肉は、放牧で仕上げた牛ならではの芳醇な赤身牛肉です。と畜直前まで牧草を食べ、山を走り回っている牛だけが持つ味わい深さがあります。

ホームページで直接販売

販売方法はなんと自社サイトのみ。牛丸ごと1頭のお肉が4時間でほぼ完売になるほどの人気で、毎年楽しみにしているリピーターも多いとか。お客さんとのやりとりも全て夫婦2人で行っていて、送られてくるお肉にはお手製の冊子と直筆のメッセージが同封されています。10年ほど前、手書きのコピーからはじめたと言う「うしうし通信」は、一馬さんの思いが詰め込まれた冊子です。「牛がお肉になるまでのお話」などがていねいに書かれています。

一馬さん手作りの「うしうし通信」

牛肉を食べるとき、その牛の背景を考えたことがありますか? 田中畜産から届けられるのは「お肉」です。だけど、箱の中には「お肉」と共に届けられる「素敵なもの」が詰まっています。そのすべてを受け取りたくて、田中さん夫妻のお肉を待っている人が全国にいるんです。

理由3:SNSやブログで発信し続ける

発信力を高めるには「継続」

「うしうし通信」のほかにも、一馬さんはSNSやブログで牛飼いの様子や家族の日常を発信し続けます。ツイッターのフォロワーは、なんと7000人以上! 「情報はどんどん流れていくから、継続することが必要」と話し、ツイッターは1日10回、Facebookとインスタグラムは1日1回を目安に投稿。最近はTik Tokやnoteのサウンドなど、新しいツールも積極的に活用しています。YouTubeに投稿する動画も、他では見ることのできない興味深いものばかりです。

一馬さんの写真はどれも素敵! ツイッターは自撮りが多いそうですよ

「自分からフォロー」もする

どうしたらフォロワーが増えるのか聞くと「まず自分の方から相手をフォローして仲良くなる人もいます。仕事でなく、漫画とか趣味の話でも」と。「バズる(ウェブ上で多くの人に情報が拡散され話題になる)こともありますが、狙っているわけではないです。バズった記事を見てお肉を買う人はいないです」とも教えてくれました。一方通行ではない相互のやりとりを大切にする……ふと考えればインターネットだけでなく、一般社会と同じだと気づかされます。

SNSには収まらない、より深く伝えたい話はブログにしたためます。ブログを読んだ畜産農家さんから削蹄の依頼が来たこともあるのだそうです。

畜産は命を「届ける」仕事

忙しい中で発信を続けるのは手間だし、批判ももちろんある……。結果もすぐには出ません。でも続けることで共感は深くなり、物語は価値を増していきます。

田中畜産のお肉を囲む食卓は、特別な時間です。牛が生きたストーリー、牛と歩み続ける田中さん一家の思い、それがお肉となって口に運ばれ、人々とつながる瞬間──。胸いっぱいのおいしさに包まれ、幸せな食卓が生まれます。

農業

田中畜産
但馬牛の繁殖から放牧牛肉まで「田中畜産の牛飼い記録」

写真提供:田中畜産

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