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耕作放棄地を果樹の里に! 鳥取県からの実践レポ

耕作放棄地を果樹の里に! 鳥取県からの実践レポ

生産者の高齢化や後継者不足によって、農地として活用されなくなった耕作放棄地が、年々増加しています。そんな中、鳥取市鹿野町では地域を持続させるため、地元の住民を中心に、耕作放棄地に果樹を植え里山へと転換させる取り組みを続けています。困難に立ち向かい、行政やボランティアを巻き込んでいった経緯や、将来目指す地域の姿について、「鹿野町河内果樹の里山協議会」に聞きました。

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耕作放棄地の対策が急務

日本全国で年々増え続ける耕作放棄地。2015年には、日本全国で42.3万ヘクタール(※1)となりました。鳥取県でも3832ヘクタール(※2)が耕作放棄地となっています。鳥取県鳥取市鹿野町では、「鹿野町河内果樹の里山協議会」が中心となって耕作放棄地などに果樹を植えて、将来の里山を作る計画を進めています。同協議会の小林清(こばやし・きよし)さんにお話を伺いました。

※1 「荒廃農地の現状と対策について(2017年7月 農林水産省)」より

※2 「鳥取県農林水産業の概要(2017年6月 鳥取県農林水産部)」より、平成27年度の値

地域全体を体験農園に! 都市部との交流も図る

——「鹿野町河内果樹の里山協議会」では、どのような活動をされているのでしょうか?

当協議会では、鹿野町の中でも、小鷲河(こわしがわ)地区河内というところで、耕作放棄地を中心に、農地の新たな活用方法を目指して活動をしています。主要なメンバーは15人ほどで、鹿野町内の人を中心に河内の地域の方、鳥取市鹿野町総合支所、NPO法人の関係者、大学生などいろいろなメンバーがいます。

——耕作放棄地に果樹を植樹するようになった経緯を教えてください。

地図に図を書き入れて、植樹をするエリアを考えたり、どこから植樹をするか、日々協議を重ねている

小鷲河地区河内は、すでに耕作放棄地が多く存在していて、さらに、これからも耕作放棄地となる可能性の高い農地があります。2014年に、一気に約4ヘクタールの耕作放棄地が生まれる可能性が出て、そのままでは地域全体の崩壊が考えられる状況でした。そこで、地域の行政と住民、農地を守ってきた農家の方、そして事務局を務めるNPO法人「いんしゅう鹿野まちづくり協議会」が協議を繰り返し、これまで守ってきた農地を雑草だらけにするのではなく、みんなで協力して、果樹の里山へ転換しようと決めたのです。里山作りは何年間もかかるので、継続的していくため、2014年度に農村集落活性化支援事業(※3)の補助金を申請し、2015年に採択を受けて、現在4年目になります。

2014年に協議した際、せっかくなので耕作放棄地だけではなく、地域全体を体験農園が可能な果樹の里山にできたらという計画を立てました。2015年から植樹を開始し、5年後の2020年には体験農園がスタートできるよう取り組んでいます。また、果樹の植樹や将来的に体験農園となった時には、学生などボランティアの方々の協力も得て、都市部との交流を創出したいとも考えています。

※3地域住民が主体となった将来像の構想作りなど、地域で集落の維持・活性化を図る取り組みに対して、農林水産省が行う支援(http://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/rural_rev.html)

実際に植樹にチャレンジ! 除草から始めた1年目

雑草がびっしりになった耕作放棄地。腰あたりまで育った雑草を、草刈り機で刈った

——植樹はどのように始められましたか?

植樹を始めたのは2015秋からです。しかし植樹をする前、同年7月ごろに耕作放棄地の除草から始めて、植栽基盤の畝作りをしてから果樹の苗を植えました。防除(害虫対策)や苗植え後の肥料散布、農道の舗装なども行いました。
協議会のメンバーを中心に、炎天下でも連日除草を行い、週末や長期休暇には、学生や地域の方も参加して、イベント的にみんなで除草や苗植えをしています。参加者は、平日の草取りは1人で行うこともありますが、時には30人ほど参加することもあります。

学生ボランティアも参加しての、畝作り。植樹をする基盤となる

——除草から始められたのですね。

そうなんです。耕作放棄地を何とかするには、まずは除草です。もちろん、果樹を植えた後も常に除草が必要です。
地域の人は経験がありますが、大学生は除草の経験なんてない人がほとんど。それでも、女性もしっかり草刈りを頑張ってくれました(笑)。
耕作放棄地の中には、長くて10年間ほど人の手がまったく入っていなかった田畑もあり、そこでの除草は大変でした。耕作放棄してから早い段階で手を入れる方がいいですね。
ただ果樹の里山に計画した地域の多くは、直前まで田んぼだった場所です。耕作放棄地になる前に計画して、手を入れていくことも大切だと感じました。

——現在の植樹状況を教えてください。

参加者が協力して植樹を行う。5年間で1,000本の果樹の苗を植える計画

この3年半で、計3ヘクタールにイチジク、栗、柿を中心に、約700本の苗を植えました。昨年からイチジクが実っており、それを利用してジャムなどの加工製品の試作に取り組んでいます。イチジクを乾燥させてみたり、パン屋さん・ジェラート屋さんに協力をお願いして試作して頂いたりしています。今年は、イチジクを利用した地ビール作りにもチャレンジする予定です。
将来的には、体験農園を活用して都市部からの観光客や移住を受け入れると同時に、都市部への加工品の販売ネットワークが築けたらと思っています。

——イチジク、栗、柿を選ばれた理由は何でしょうか?

元々、河内地域で育っているものであることと、ハウスなどの施設費用投資が不要で、樹木自体の管理もある程度簡単にできるものを選びました。
果樹の選定は本当に手探りで、果樹園を訪問して指導を仰いだりもしました 。気候や土壌、日照条件なども考えましたが、以前から地域で育っている種類をまずは選ぶのがいいだろうと。先の3種類以外にも、実験的にアーモンドやレモン、ヘーゼルナッツ、プルーン、サルナシなどを植えています。

植樹したうち、早く実ったのはイチジクでした! 

——果樹の栽培で苦労や失敗はされましたか?

大学生や子どもたちなど、さまざまな人が苗植えに協力してくれました。ただ、それまで植樹の経験がない方は、なかなか説明通りには出来ず、かなりの本数が生育できませんでした。

地域外や都市部との交流促進を目指して

——ボランティアの方にはどういった方が参加していますか? また、どういった縁で参加されているのでしょう?

県内にある鳥取大学農学部の学生達は、2015年ごろから「面白そうだ」と関わってくれています。彼らは果樹の里山をテーマにビジネスコンクールで最優秀賞を取るなどしています。
大阪国際大学の学生達も2014年から鹿野に関わっていて、果樹の里山の活動に共感してくれています。
当初は地域の方も、単発で継続しないだろうと思っていたようですが、どちらの大学も継続的に関わってくださり、しっかりとした信頼関係が生まれています。
大学生たちは草刈りなどの作業を手伝うだけでなく、自主的に新しいことにも取り組んでくれています。「フットパス」を使って都市部から人を呼ぶという計画を立てたり、果樹の植樹体験ツアーなどを検討してくれたりしています。

留学生を交えた大学生がツアーで鹿野町のフットパス歩きを楽しんだ

——フットパスとはどういったものでしょうか?

フットパスというのは、イギリスで発祥した、風景を楽しみながら歩くことができる小道のことです。近年は、日本でも各地で取り組まれてきています。お世話になっている大阪国際大学にはフットパスの研究をされている久保由加里(くぼ・ゆかり)先生がいて、そのおかげで鹿野町でも少しずつフットパスを取り入れる動きがあります。
大阪国際大学からは毎年留学生がツアーで鹿野に来てくれて、河内では必ずフットパスを楽しんでいます。また留学生のツアーでは、土手に芝桜やハナモモの木を植えて、景観作りに協力してくれています。

果樹を植えた里山エリアと、川の土手の間に植えられた芝桜とハナモモの木

——地域外の方との交流について、今後どのような取り組みをされる予定ですか?

今、都市部との交流を目指して、地域内にある空き家を利用して河内地域に農家民宿やゲストハウスなど、簡易宿泊施設を作ることを検討しています。空き家を一軒お借りして、交流拠点・宿泊施設にと準備していたら、若者3人がシェアして住んでくれることになりました。ですので、今新たな場所を探しているところです。地域外との交流に生かせますし、先々は移住する方の受け入れにもつなげていきたいです。

——これから耕作放棄地で果樹を育ててみようかな、と思う方へのメッセ―ジをお願いします。

私達は果樹を育てることにしましたが、耕作放棄地の対策はさまざまにあると思います。大切になのは、「地域の人々が守ってきた農地や村を守りたい、元気にしたいという」思いだと考えています。それはどの地域にもきっとあって、その思いにNPOや大学生ボランティアなどの力を少し加えることで、何か新しいものが生まれて、地域の活性化につながるのであればとても嬉しいことだと思います。
私は小さいころに河内に住んでいたこともあって、地域の方々の地元を大切に思う気持ちに少しでも応えたいと思っています。

【取材協力・写真提供】
鹿野町河内果樹の里山協議会
〒689-0405 鳥取県鳥取市 鹿野町鹿野1809-1
(※NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会の事務所内に所在)
NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会

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