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【第5回】安心して働ける農業法人に! 公的保険制度を理解する

連載企画:明日を拓く農業経営

【第5回】安心して働ける農業法人に! 公的保険制度を理解する

これまで、農業法人の設立から資産の移転までの流れを解説してきました。今回のテーマは、農業法人設立後に加入が必要となる「公的保険制度」。農業法人は他業種の法人と比較して家族以外の雇用が少ないため、公的保険制度に目を向ける経営者が少ないようです。また、これらの制度は掛金負担が大きいことから、法令で義務付けられているにも関わらず、未加入の農業法人も存在します。従業員が安心して働くために公的保険制度への加入のメリット・必要性について解説します。

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労働保険(労災保険・雇用保険)とは?

労災保険は、従業員の業務上及び通勤途上の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うものです。従業員を雇用する事業所は、例外(※1)を除いて適用となります。
労働基準法は、従業員が労働災害を被った場合には事業主が補償することを義務づけており、事業主が労災保険の加入手続きをせずに業務災害や通勤災害が発生した場合、事業主が補償責任を果たします。労災保険は事業主に代わってその補償を行う制度です。

雇用保険は、従業員が失業した場合に基本手当(いわゆる失業手当)などの給付を行うための保険制度です。労災保険と同様に適用となります。

※1 農業において個人経営の場合、労働者が常時5人未満の事業所は任意加入となります。雇用保険も同様です。

労災保険 雇用保険
強制適用となる事業所 法人事業所
個人事業所(農業の場合、労働者常時5人以上)
保険料の負担 事業主 事業主と労働者の双方が負担
加入窓口 労働基準監督署 ハローワーク

労働保険の概要

社会保険(健康保険・厚生年金)とは?

健康保険とは、従業員とその家族が病気やケガをした場合の医療の給付、病気やケガで休業したときの所得の補償、出産や死亡したときの費用の軽減を目的としています(就業中や通勤途上の災害などによるケガや病気の場合を補償する労災保険とは異なります)。

農業者が個人事業主として加入していた国民年金が、国民すべてを対象とした定額の基礎年金を支給するのに対して、民間企業の従業員に対して上乗せ支給する保険制度が厚生年金です。つまり従業員の「老齢」「障害」「死亡」に対して国民年金から支給される基礎年金に上乗せして報酬比例の年金を支給するものなのです。

これらいずれの制度においても農業法人は強制適用となります。

健康保険 厚生年金保険
強制適用となる事業所 法人事業所
保険料の負担 事業主と労働者の双方が負担
加入窓口 事業所の所在地を管轄する年金事務所

社会保険の概要

パート従業員や外国人技能実習生は保険適用されるの?

外国人技能実習生とは一定期間の研修を終えた外国人研修生がより実践的な技能を修得するため、研修終了後も雇用関係の下で実習を続ける人です。被雇用者として労務を提供し、その対価として報酬を受け取るため労働法令関係等が適用されます。そのため、受入れ先が農業法人の場合、外国人技能実習生に対しても労働・社会保険の加入が義務付けられています。
 
短時間で勤務するパート従業員の場合は以下の取扱いとなります。労災保険については、適用事業所であれば雇用形態を問わず加入することとなるため、パート従業員も加入が必要です(被保険者になります)。
雇用保険については、一週間の所定労働時間が20時間未満である人、31日以上雇用されることが見込まれない人は被保険者になりません(日雇労働被保険者に該当する人を除きます)。
社会保険(健康保険・厚生年金)については、一週間の所定労働時間及び一ケ月間の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の従業員の4分の3未満の人は同じく被保険者になりません。

パート従業員の保険加入について

また、農業法人が家族だけで経営している場合でも、これらの保険加入が義務づけられています。家族・親族であってもそこで働く従業員は従業員です。法令上は家族以外のの従業員と何も変わりはないのです。

公的保険制度へ加入するメリット

年金の二階建て構造図

公的保険に加入する際は保険料の負担というデメリットもありますが、加入のメリットもあります。例えば厚生年金は、老齢時には老齢厚生年金、病気やケガがもとで障害を負い働けなくなった時には障害厚生年金、死亡時には遺族に遺族厚生年金が支給されます。これらは国民年金の障害基礎年金や遺族基礎年金に上乗せして支給されるので、従業員やその家族にとって、厚生年金に加入していることは安心も大きいのです。社会保険が整備されていることは従業員にとって大きな魅力であり、人材確保を考える農業法人に有利に働くでしょう。

筆者がある農業系の専門学校に訪問した際には、法人経営・個人経営を問わず、様々な農種の求人票が掲示板へ貼られていました。学生の就職活動がひと段落する頃、その学校に訪問した際に掲示板に残っていたのは、個人経営の求人票だけでした。これは社会保険が強制適用となる農業法人に若者が注目している証拠と言えます。
内閣府による「子供・若者の現状と意識に関する調査(平成29年度)」によると、16歳から29歳の若者にとって「仕事選択時の重要な観点」として最も比率が高いのは「安定していて長く続けられること」でした。公的保険制度が強制適用となる農業法人が、一概に安定しているとは言えませんが、就職先を決める大きな要因になるのではないでしょうか。

今回は公的保険制度について解説しました。このように、農業法人において優秀な人材を確保し、従業員に安心して働いてもらうためには労働保険・社会保険加入は必要不可欠と言えます。

 

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