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十日夜とは? 〜農と暦の豆知識〜

連載企画:農と暦の豆知識

十日夜とは? 〜農と暦の豆知識〜

子どもたちが固く束ねたわらを手に持ち、力いっぱい地面をたたいて庭先を回る……何とも不思議な光景ですが、これもれっきとした農耕行事。十日夜(とおかんや、とおかや)と呼ばれるものです。旧暦の10月10日は「田の神様が田から上がり、山や天に帰る日」との伝承がある日。人々はどのようにして過ごしてきたのでしょうか。

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わら鉄砲で地面をたたく十日夜

旧暦の10月10日は十日夜。今年2018年は、11月17日がその日に当たります。稲作の神様である「稲荷(いなり)」が音読みで「トウカ」ともいわれることから、トウカと十日をかけて、この日に秋の行事が行われる……との説もありますが、はっきりとしたことは分かっていません。稲刈りが終わっているこの時期、その年の収穫に感謝し、来年の豊穣を願います。

かつて十日夜では夕方から夜にかけ、集団になった子どもたちが歌いながら、刈り取り後の稲を縄で固く巻いて棒状にした“わら鉄砲”で地面をたたき、庭先を回る光景が見られました。歌は地域によって異なり、例えば埼玉県には「トーカンヤ、トーカンヤ、朝そばきりに昼団子、ヨーメシ食ったらひっぱたけ(秩父地方)」「トーカンヤ、トーカンヤ、十日の(または“イノコの”)ぼた餅生でもいいから十(とう)食いたい(入間地方、川越市周辺)」などのバリエーションが存在します。

わら鉄砲で地面をたたくのは、農作物の敵であるモグラやネズミなどの害獣を駆除するほか、五穀豊穣(ほうじょう)を願う“まじない”としての意味合いからで、昔は地面をたたいたときに「カーン」といい音がするよう、わら鉄砲の中に里芋の茎を入れたともいいます。

「案山子(かかし)上げ」「大根の年取り」と呼ぶ地域も

旧暦10月10日を十日夜と呼ぶのは、関東・甲信越を中心とした地域。長野県などではこの日を「案山子上げ」「案山子の年取り」と呼び、当日の晩に田から持ち帰った案山子と農業道具を家の土間などに飾って餅やソバを供えるなど、案山子を田の神に見立てて丁寧にまつる風習があります。

また、東北地方をはじめとした広い地域では、この日を「大根の年取り」「大根の年越し」といいます。「この日は大根畑に入ってはいけない、畑へ入って大根の割れる音を聞くと死ぬ」との伝承を持つ地域がある一方で、埼玉県ではわら鉄砲で大根畑をたたき、「音に驚いた大根が抜け出してくる」「音を聞いた大根が背伸びをして大きくなる」のようにいう地域もあります。また、東北地方ではこの日にふたまた大根を大黒様に供えたり、長野県や群馬県では大根を田の神への供物としたりするなど、地域によってかなりの風習の違いがあることが分かっています。

共通点も多い関西の「亥の子(いのこ)」

亥の子餅

西日本にも、十日夜にあたる行事が存在します。こちらは、旧暦10月の亥(い)の日に行われることから「亥の子」と呼ばれます。十日夜と同様の「亥の子づき」と呼ばれる行事も行われますが、子どもたちはわら鉄砲でなく、縄をつけた石を手に「亥の子、亥の子、亥の子餅ついて、祝わん者は鬼生め、蛇生め、角の生えた子生め」などと歌いながら家々の間口や庭をつき(たたき)、お金や亥の子餅をもらって回ります。

この日についた餅は「亥の子餅」「玄猪(げんちょ)餅」などと呼ばれ、古くは、大豆、小豆、大角豆(ささげ)、ゴマ、栗、柿、糖(あめ)を混ぜて作られました。亥の子餅には、「亥の日・亥の刻(午後9~11時頃)に食すと病気にならない」との俗説があり、人々は万病除去、無病息災などを願ってこの亥の子餅を口にしたといいます。一説によれば、この風習は中国から伝わったもので、平安時代には日本宮中行事「御亥猪(おげんちょ)」として催されていたとの記録もあります。民間に広く普及し定着していったのは、その後のことです。

さまざまな習わしのある旧暦10月10日。十日夜や亥の子は、子どもたちが中心となる非常に珍しい行事です。やがて迎える農閑期、子どもたちが無邪気にわら鉄砲で地面を打つ横で、大人たちはどんな思いを抱いていたのでしょうか。無事に収穫を終えた感謝の気持ちか、それとも忙しい収穫期を終えた安堵の思いでしょうか。威勢のいいわら鉄砲の音を、ぜひ一度は聴いてみたいものですね。
 

参考
「民俗の原風景」
著者:大舘勝治
出版:朝日新聞社

「三省堂年中行事事典」
著者:田中宣一、宮田登(編)
出版:三省堂

 
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