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小豆島、お遍路さんのご縁がつなぐ未来 オリーブ農家のグリーンツーリズム構想

小豆島、お遍路さんのご縁がつなぐ未来 オリーブ農家のグリーンツーリズム構想

小豆島でオリーブの栽培と加工品の販売を手掛ける井上誠耕園が、観光拠点の整備を進めています。レストランを併設した物販施設を2017年4月にオープンしたことを皮切りに、約10年間で50憶円を投じ、約6000㎡の整備を進める予定です。「農業をもって地域を豊かにすることが創業の精神」と話す井上智博社長。農と観光がどう関わりあって豊かさをつくるのか、今後の構想を伺いました。

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50憶円かけ孔雀園跡地を整備 大規模な投資、なぜ?

なだらかな山々に囲まれた小豆島・池田港のすぐ近く、港を見下ろす少し高台に、井上誠耕園が昨年4月にオープンした商業施設「らしく館」があります。

昨年4月にオープンした「らしく館」

1階はオリーブの加工品を扱う販売店、2階にはオリーブオイルをふんだんに使った料理を提供するレストランがあります。店舗と瀬⼾内海をつなぐ遊歩道脇には、2017年に植樹したオリーブの若⽊が並んでいます。遊歩道の先には、配送センターとオリーブの加工品を作る施設があります。

瀬戸内海を望むレストラン

これら約4万坪の土地には10年ほど前まで、小豆島孔雀園という鳥類園がありました。13年に井上誠耕園が買い取り、これまで10億円以上かけて整備してきました。2027年の完成をめどに、今後はオリーブや柑橘に加えてワイン用の葡萄畑も整備、ゲストハウスも建てる予定です。同社では、これらの事業に計50億円ほどの投資を見込んでいます。

小豆島は石材産業をはじめ、手延べそうめんや醤油の製造、かんきつ類の栽培など豊かな自然を生かした産業がある一方で、人口減少が進み、2015年の高齢化率は41.3%にものぼります。「小豆島はまさに日本の縮図。全産業が縮小するなかで、ぜひ第一次産業で島を活性化したい」と井上社長は話します。

お遍路さんのご縁から始まった通信販売

では、同社が積極投資する観光業が、島の一次産業とどう結びつくのか。
井上社長は、観光への投資を、農産物の「良さ」を直接伝えるための場づくりと位置付けます。

井上社長と父・勝由さん(右)

井上社長は1989年に島の家業をつぐまで、神戸市内の青果仲卸業の会社で6年間働いていました。当時、小豆島はかんきつ類の生産に力を入れていましたが、他産地と比べ圧倒的に生産量が少なく、市場では「ただ同然のような値段」で買いたたかれる年もあったといいます。この時経験した「悔しい思い」が、「自ら販売する手段を持たなければ」という信念を生み、島に戻った井上社長は、JAへの出荷をやめて販路の開拓に乗り出しました。

姫路行きのフェリーでミカンの行商に出かけたりもしましたが、なかなか思うようには売れません。そんな中、小豆島八十八ヶ所巡りをするお遍路さんにお接待でふるまったミカンが人気を呼ぶなど、同園から直接ミカンを買ってくれていた280人の名簿が、現在同社の主な販路である通信販売への道を開きます。
それまで個人客への営業はしていませんでしたが、その年の作柄を紹介する文章とともに価格表を送ると、「ご近所におすそ分けしたいから」と100%以上の注文が入りました。

小豆島八十八ヶ所第42番札所に数えられる「長勝寺奥之院 西之瀧」からみた瀬戸内海

「実際に小豆島を訪れて体験した島の風土や人間ドラマなどを思い出し、ミカンができた背景を直接知っていたから買ってくれたのだと思います。この島がお遍路さんの文化や歴史がある場所だということが、暗中模索していた当時の私にとってどれほどありがたかったか」と井上社長は振り返ります。

リストはその後6年間で4千件にまで増え、オリーブオイルやその加工品の販売がメインになった現在は、150万人の顧客リストが同社を支えています。

手間ひまの価値、直接伝える大切さ

インターネットを通した販売が主流になった今でも、同社は顧客に「直接伝えること」を大切にしています。
例えば、メールマガジンでは島での生活が目に浮かぶように、四季の移り変わりを含めた日常のちょっとしたエピソードを紹介したり、オリーブの新しい食べ方を紹介したり。生産者の「顔」が見える工夫をします。収穫の季節には、摘み取り体験も受け入れています。

商品のできた背景を顧客に直接伝えることは、手間暇かけて作ったものを適正な価格で買ってもらうための工夫でもあります。

島の自然は豊かな反面厳しさもあり、平地は少なく大規模農業には向きません。
例えば、同社が「100年の丘」と呼ぶオリーブ畑は、傾斜が30度ほどありそうな急斜面を登った山の中腹にあります。かつては柑橘の木が植えられていましたが、高齢化と共に担い手がいなくなり、荒れ地に。同社はこの畑を含む周辺の約6000㎡を04年から07年にかけて買い取り、オリーブ畑を増やしてきました。

オリーブ畑から見下ろす瀬戸内海

2017年に同園でとれたオリーブは約40トン。傷がつかないよう全て手作業で収穫、一粒ごと選果し、熟度ごとにより分けます。その後、丁寧に圧搾し得られるオイルは2トン程度です。高値で売れるよう、大手の百貨店での販売を考えたこともあるそうですが、「やはりバイヤーは価格交渉から入る。これでは、お客さんに商品の背景を伝えられないままに価格競争に追いやられてしまう」と断念しました。

オリーブの選果は手作業で行われる

作業が大変な一方で、先人たちが手作業で積んだという石垣のある斜面は美しく、オリーブ畑のある小豆島の魅力をいっそう引き立てています。

オリーブだけでなく、瀬戸内海の寒風に手作業でさらす手延べそうめんも、一つ一つ人の目で発酵具合を見極める木桶仕込みの醤油も、小豆島の特産品は手間暇がかかる一方で、島の恵みを生かした奥深い味わいがあります。

山の中腹まで植えられたオリーブの木

現在、島には年間約100万人前後の観光客が訪れています。特に、外国人の宿泊者数は年々増えています。
「ゆくゆくは、小豆島八十八ヶ所めぐりをしながら、各地の景色や文化に触れ、その土地の味覚を楽しむような、滞在型の観光に育てていきたい」。

30年前にお遍路さんがつないだご縁を小豆島全体に広げ、島にある価値をきちんと伝えていくこと、それが小豆島の豊かな未来につながると井上社長は考えています。

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