現場での経験と経営理論を学び、大学院に進む自分に自信がついた
◇鳥山 大地さん(24歳)
大学卒業時に海外農業研修に参加、春からは大学院に
アメリカ(西海岸) ワシントン州の大規模な野菜農家で研修
三重大学の生物資源学部で農業経済などを勉強していました。実習などで生産者の方と話すなかで、しばしば海外農業研修の出身者のお名前がキーパーソンとしてあがり、この研修に興味を持ちました。
東京大学の大学院(農学生命科学研究科)に合格し、よりハイレベルな研究の場に挑むにあたり、「自分が誇れるものを身につけたい―」と考え、海外の生産現場で経験を積もうと海外農業研修に参加しました。研修先にアメリカを選んだのは、英語習得の目的もありましたが、最初と最後の2カ月を現地の大学で過ごせることがポイントで、農学系のトップといわれるカリフォルニア大学デービス校で学べることが魅力でした。
渡米後の2カ月間は基礎学習で、農業のことはもちろん、英語やスペイン語を学習しました。アメリカの生産現場では、労働力としてメキシコ人は欠かせない存在で、研修先ではスペイン語を話すほうが多いくらいです。研修先は大規模な野菜農家で、400ac(約161ha・東京ドーム約34.6個分)の畑でビーツ、キュウリ、リーキ(西洋ネギ)などを栽培し、常時30人、繁忙期は100人のメキシコ人クルーが働いています。
私たち研修生も現場責任者の補佐役として、朝7時から遅い日は夜9時過ぎまで農作業を行いました。スポーツをしていたので体力には自信がありましたが、最初はメキシコ人のお婆ちゃんの速さについていけないほど収穫作業には運動とは異なる体力が必要でした。
また、普段の生活は農場から徒歩30秒のボスが住んでいた家で、同じ研修生3人と共同生活をすることになりましたが、自分でも驚くほど仲良くなれました。
冬場については、スーパーマーケットなどからの委託業務で、倉庫内でのリパック(再流通用の選別と詰め直し)、リスタック(貨物の積み直し)などの作業があり、フォークリフトの運転も任されていました。
最後のカリフォルニア大学デービス校の授業は専門的な内容なので、通訳が付き、農業経営、農業経済、ファイナンス、マーケティングなどを学び、自分のビジネスプランを英語で発表して修了です。どんな学びがあったのかを言語化するのは難しいのですが、研修に参加して自分に自信がつきました。英語の論文や英会話に対する恐怖心も今はありません。将来は起業したいと考えていますが、海外の大学で学ぶことにも魅力を感じています。
また、この研修で得られた一番の財産は仲間です。2週間の濃密な国内研修で出会った仲間たちは、研修先はバラバラでしたが、現地でも連絡を取り合ったりしていました。この先の人生でも、全国に農業を志す同期がいることを心強く思うでしょう。
人としての成長を実感。農業高校の教員となり、子どもたちに農業の魅力を伝えたい
◇住田 光さん(21歳)
大学2年次修了後、休学して海外農業研修に参加
アメリカ(中西部) イリノイ州の養豚農家で研修
私が在学する帯広畜産大学では、たくさんの先輩が海外農業研修に参加しており、学内で話を聞く機会も多かったので興味を持ち、研究室に入る3年次を前に留学することにしました。語学が不安でしたが、プログラムには国内での2週間の事前研修があり、大分県での合宿で、重点的に英語の発音(農業の現場でよく使われるフレーズを中心に)の特訓がありました。そこでは語学以外にも、朝5時に起きての体力トレーニングや農業に関する授業、さらにOB・OGの体験談を詳しく伺う機会などもありました。
最初の研修先はメイン州でヤギを飼う酪農家だったのですが環境が合わず、協会とも相談してイリノイ州の養豚農家に異動することにしました。そこでは分娩舎で5カ月間、分娩チェック、ワクチン接種、子豚の移動や母豚の管理を行いました。そして後半の5カ月間は人工授精を担当することになりました。
現場の運営は、さまざまな国からの8人の研修生に任されており、状況報告や相談をボスに行うという環境で働いていました。出勤は早番・遅番のシフト制で、金曜日は計画的に出産の多い日になるようにコントロールしていたので、遅くまで仕事をしていました。
研修生はオフィスの2階に住み、何かあれば階下のボスとすぐに話せるアットホームな養豚農家でした。一緒に組んでいたブラジル人と特に仲良くなり、お互いに英語があやふやなのでジェスチャーを交えてコミュニケーションを取っていました。休日は一緒に近郊のセントルイスの動物園や映画館にも行きました。
私は農業高校出身で実習経験も積んでいるし、これまでは誰とでも話せて、何でもできるという自信がありました。それはある意味、無知だったからだと思います。最初の研修先ではボスが厳しかったり、異文化での初めての生活だったりで、萎縮して仕事に影響が出てしまいました。長い研修期間を終えた今の自分ならもっと上手にコミュニケーションが取れたのではと思います。英語と農業を学ぼうと渡米して、さまざまな環境に揉まれ、自分の強みも弱みも知り、人として成長できたと実感しています。
将来は、農業高校の教員を目指しており、この研修を通じて生徒に伝えられることの引き出しを増やすことができたかなと思います。子どもたちの人生に良い影響を与えられる魅力的な先生になりたいですね。農業をしている方やこれから就農しようという方だけでなく、私のように違う形で農業に関わろうという人も、海外農業研修に行くかどうかを悩んでいるなら絶対に行ったほうが良いと思います。一生の仲間や人生を変える経験が得られますよ。
国際農業者交流協会(JAEC)から若手農業者や農業に関心のある若い世代のみなさんへ
◇公益社団法人国際農業者交流協会
皆戸 顕彦さん
私たち国際農業者交流協会(JAEC)は、農業先進国(アメリカ、デンマーク、ドイツ、スイス、オランダ、オーストラリア)の生産現場に毎年、約70名の若者を研修生として送り出しています。アメリカでの研修は最長の19カ月間で、最初の約2カ月はワシントン州にあるビッグベンドコミュニティーカレッジで基礎学習(文化風習、英語、スペイン語、農業、機械操作など)を、その後の14カ月が農場実習、最後の2カ月が農学部を有する州立大学での専門学習というプログラムになっています。
アメリカは酪農・畜産、畑作ともに大規模な農家もあれば、小規模でニッチなニーズに対応する農家もあり、多様性に富んでいます。個々の研修生の関心と農家側の受入体制に応じて配属し、希望に合った研修ができるようにサポートしています。
質問の多い費用については、研修先の国や為替の関係で毎年異なりますが、トータルで115~160万円程度と、東京などの都市部で1年間ひとり暮らしをするよりも低く抑えられています。さらに研修先の農場から手当が支給されるので、現地での生活費を賄うことができます。
また、語学に関しては事前研修などのほか、当協会で代々伝わる『ブルーブック』と呼ばれる農業の現場でよく使われるフレーズ集を教本としてお渡ししています。書き込みがたくさん入った『ブルーブック』をみると、頑張った姿が目に浮かびます。
今、日本では農業従事者が高齢化していますが、農業先進国では若者がどんどん入ってくる魅力的な産業です。農業のおもしろさは多様性であり可能性です。今回取材に協力してくれたふたりが話すように、海外農業研修は夢への通過点です。将来、日本の農業界をリードする人材に成長してくれることを期待しています。
【マイナビ農業 関連記事】
海外研修、行ってみない?【国際農業者交流協会】「マイナビ農業xノウカノタネ」コラボ企画第1弾
【イベント情報】
【お問い合わせ】
公益社団法人国際農業者交流協会(JAEC)
〒144-0051 東京都大田区西蒲田5-27-14 日研アラインビル8階
TEL:03-5703-0252
E-mail:agtre@jaec.org
ホームページはこちらから
The Japan Agricultural Exchange Council (JAEC)
Nikken-Align Bldg.8F,27-14 Nishikamata 5-Chome,Ota-ku
TEL:+81 (0)3-5703-0252
E-mail:agtre@jaec.org
Homepage URL