◆今回お話を聞いたのは…◆
平本貴広さん 神奈川県立農業大学校(現かながわ農業アカデミー)、米国農業研修を経て1995年に就農。 横浜市神奈川区にある約1ヘクタールの畑で少量多品種の農作物を栽培している。趣味は映画鑑賞、食べ歩き。 |
田澤仁さん 農業高校を経て1996年に就農。横浜市保土ケ谷区にある1.1ヘクタールの畑で少量多品種の農作物を栽培している。趣味は子どもと遊ぶこと。 |
市場出荷から直接販売へかじを切り農作物に付加価値をつけてきた
——どのような農作物を栽培していますか?
平本:キャベツやブロッコリー、レタスなどの一般的なものから、ビーツやケール、色付きのニンジンや大根までといろいろなものを作っています。ざっくりですが30から40品目、100種類以上は栽培しています。
田澤:うちも貴広さんのところと同じような形で、40から50品目、100種類くらいは栽培していますね。
——少量多品種で作物を作っているのには、販売方法が関係しているのですか?
平本:そうですね。僕は市場には全く出荷していないので、できるだけ年間を通して作物を切らさないような形で作付けています。特に、飲食店なんかだと、珍しい野菜を少しずつ提供した方が喜ばれるので、結果的に少量多品種になっていますね。
田澤:うちも市場出荷はごくわずかで、ほとんどは直接販売。3日に1回出荷をしているので、年中出荷できるようにと多品種でいろいろ作ることになりました。
——お二人とも、もともとは市場出荷されていたのでしょうか?
田澤:そうですね、もともとは市場出荷していました。6~7年前にできたスーパーの新しい店舗に地場野菜コーナーができることになって、農家の知り合いから誘ってもらい、そこで販売を始めたんです。それまでも20年くらい飲食店と取引はあったのですが、徐々に直接販売メインに切り替えました。今はそのスーパーと、飲食店などに直接野菜を出しています。
平本:7年くらい前って、市場価格の低迷が2~3年間続いていたよね。作れば作る程赤字というのが続いて、うちも市場出荷を続けていくか迷いが出てきていた頃だったな。そんな中、大手スーパーさんから地場野菜コーナーを作りたいという話をもらって、今はスーパー7店舗と飲食店、あとはイベントで販売していますね。
——直接販売は市場出荷とはかなり違いますよね。
田澤:自分で値段を決められることが大きなメリットですよね。鮮度や作物への信頼感、安心感など、いろいろなものを付加価値にできる余地があると思います。
平本:市場出荷は全量買い取りなので、売れ残る心配はありません。ただ、決められた値段で買い取ってもらう形がそもそもおかしいなという思いがあった。
田澤:価格から、箱代や手数料、肥料や農薬なんかにかかった分を引くと、赤字になったりしていたものね。
平本:そうそう、それでスーパーに行くといい値段で売っていたりするから。直接販売は売れ残るリスクもあるけど、付加価値をつけて自分の希望価格で買ってもらえるように考えられる点が面白い。市場出荷をずっと続けていたら、そこまで考えてはいなかったかな、出荷すれば終わりだからね。
田澤:お客さんと直接つながって、そこから刺激を受けるということもありますよね。「あれおいしかったよ」とか言われると、よかったなと思うし。直接声が聞こえるのは大きいと思いますね。
1年間稼働し続ける畑と止まらない探求心「ここ空いているからまいちゃおうって(笑)」
——販売方法を変えたことで、栽培する作物も変わってきましたか?
田澤:そうですね、変わってきています。市場のときは、長持ちすることや見た目を重視して品種選びをしていましたが、今はとれたてで販売しているので、長持ちはしなくても味がおいしいとか、ほかの人が作っていない色が珍しいものなど、選び方はまったく違いますね。
平本:飲食店ともつながりがあるから、フランスで修行していたシェフから「こういう野菜は作れない?」と西洋野菜を提案してもらって、作ってみることもあります。知らない野菜を作ってみるのは面白いですね。
——栽培計画も随分と変わってきそうですね。
田澤:一年間で、キャベツやブロッコリー、ネギ、ほうれん草などの“ベースで育てるもの”については、大体この時期にまいて収穫するというのが、自分たちの中には埋め込まれています。その合間をどう埋めようかというところで、毎年いろいろなものを栽培している。今年はちょっと違うものを作ってみようかとか、同じ作物でも違う品種を作ってみようとか。
平本:例えばアブラナ科のキャベツとブロッコリーなど、ある程度同じ系統の作物は一緒にまいて育てるようにしていますね。その方が、肥料にしろ、農薬にしろ、種まきから収穫まで管理しやすいので。
田澤:市場のときは一気にばっと出荷して、休みはとれるような形だったけど、今は一年間ずっと何かしら作り続けて、売り続けないといけないから、そういう意味での労力は大変ではあるよね。
平本:確かに。けど、休みはなくてもあまり苦にはならないんだよね。市場出荷のときはやらされている感があったけど、今は自分たちで考えて自分たちで販売しているから、仕事するのが面白くなった。
——栽培計画はいつ立てているんですか? その都度考える感じ?
平本:そうですね。毎年作っている野菜をベースに栽培計画を作って、、空いているスペースがあれば、あ、ここ空いている、まいちゃおうとか、都度考える時もあります。
田澤:私も同じくですね(笑)。
平本:あとで、余計な仕事増えた、やらなきゃよかった!なんて後悔することもあるよね(笑)。
人のつながりは危機管理にも「農家目線で見てくれる人とうまくつながることが大切」
——契約先のスーパーや飲食店とは、どのようにして取引が始まったのでしょうか?
平本:僕は全部先方から話をいただいた形ですね。その条件が自分に合っていて、タイミングも良かったこともあり、取引を続けさせてもらっています。
田澤:貴広さんと同じで、ありがたいことに私も自分からお願いして契約を取りに行ったりしたことはないですね。仲間同士SNSで投稿を共有していて、たまたまそれを知っているシェフに伝えてくれて、そこでまたつながっていくということもありました。
平本:結局人のつながりだよね。
——取引をするうえで大切なことは何でしょうか。
平本:作物を作ることと、販売に関する仕事とのバランスですね。僕たちはあくまで作物を作るところがメインの仕事なので、例えば配達の仕事が何本も入ったら作物の質が下がることにもなってしまう。それって本末転倒ですよね。スーパーとの取引に関しては、トラック便を出してもらって、各店舗への配送や陳列はお任せしています。
田澤:僕は3日に1回のペースでスーパーの地場コーナーに自分で作物を持って行っています。場所を借りているという感じなので、自分でバーコードを出して値段を貼り、陳列までしています。僕は平本さんのところみたいに毎日出荷ができないので、農家仲間と分担して地場コーナーに出しています。
平本:自分ができないことははっきり言うことも大切だと思います。そして意見交換をする中で、お互いどこまで譲れるか、落としどころを見つけて納得してから始めないと、後々続かなくなってしまう。
——台風など天候などの影響で、納品できない場合もありますよね。
平本:スーパーに「今日は台風で作物が収穫できません」と言ったときに、「またとれるようになったら言ってください」と言ってくれたりすると、本当にわかってくれているなと感じます。ありがたいですよね。
田澤:飲食店さんで、臨機応変な対応をしてもらえるとありがたいです。季節や災害などを気にしながら、農家目線で見てくれる人は、うまくつながっていける人だなと思いますね。
平本:あと、僕は仲間6人でスーパーの納品をしているので、自分のところではとれないものでも別の人が収穫できるということもあります。一人では限界があるから、サポートしてもらい、またこちらもする。持ちつ持たれつですよね。
——危機的状況のときにこそ、さらに人とのつながりが重要になってきますね。
平本:そうですね、それは本当に大きいです。
作付け計画に絶対はない、臨機応変な対応が肝心
——これから、春に向けてどのような準備をしていく予定ですか?
平本:寒くなると、畑の中の害虫も土の浅いところまで来るので、その土をトラクターで掘り起こしてならす作業はしますね。冬の間は稼働していない畑も出てくるので、春に向けて畑作りをします。
田澤:冬はちょいちょい畑が空きますよね。
——近頃の気候の変化で栽培計画も変わってきている?
平本:去年は10月に長雨のせいで作物が根を張らなくて完全にアウトで、今年は逆に乾燥気味で、水やりが必要だった。夏はカンカンに日が照っているから、もうどうしようもないです。
田澤:台風24号で塩害もありましたよね。
平本:そうそう、僕の親父やおじいさんのときは、年間通してこの時期にまけばこの時期にとれるというのが大体決まっていた。ただ、今は同じようにやっても全然できないというのがある。異常気象は実感しますし、これはしばらく付き合わないといけないよね。
田澤:そうですよね。
——対策は立てられるものですか?
田澤:週間天気予報をよく見ておくとか(笑)。ほんとそれくらいしかできない。
平本:気候の変化には傾向があって、夏高温だと、冬はこういう感じとか、そういうのは経験値でわかる部分もあるけど、結局はその場その場で臨機応変にするしかないよね。あとは収穫のためとしてやっているけど、同じものでも3段階に品種を変えて時期をずらしてまくというのも、保険にはなる。
田澤:たしかに、保険は自然と作っているかもしれないですね。
——作付け計画は、天候などにも臨機応変に対応しつつ楽しみながらやるものなのですね。
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