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ITのチカラで小規模農家に販路を 20代アグリテック社長・秋元里奈さん

ITのチカラで小規模農家に販路を 20代アグリテック社長・秋元里奈さん

200軒以上のオーガニック農家と消費者を繋ぎ、収穫してから最短24時間以内で旬の農産物をユーザーに届けるサービス「食べチョク」は、生産者に適正価格の販路を提供するツールとして注目を集めています。運営するビビッドガーデン代表の秋元里奈(あきもと・りな)さんに、農業に関心のある大学生がこれまでの歩みをインタビュー。気鋭の20代社長が、後輩に語ったメッセージとは?

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「こだわれば報われる」世界を作りたかった

――「食べチョク」というサービスのアイディアは、どこから生まれたのでしょうか?
私の実家は神奈川県・相模原の農家でした。既存の流通だと自分で価格を決められないので、生産のこだわりを価格に反映できず、こだわるほど儲けることが難しい。そんな小規模農家さんが報われる仕組みを作りたい、と思っていました。

最初は穫れた作物を「メルカリ」で売ろうとしたのですが、売れ筋は安い物で、付加価値の高い野菜は売れず、利益を出すのは難しいことに気が付きました。そこで 高付加価値のものだけを集めたサイトなら、農業者は安さではなくこだわりを評価されながら直販して利益を出せるのではと考え、「食べチョク」を作りました。

――学生時代から農業に興味を持っていたのですか?
学生時代は、全く農業に興味がなくって。母からは「農業は儲からないから継ぐな」と言われていました。私が高校生の頃は、ライブドアの株価が急上昇し、株で儲けた人がメディアでもてはやされていた時代。母に「これからは株の時代。とりあえず大学で勉強して来い」と言われていました(笑)元々理系科目が得意だったので、経済学部ではなく理工学部に進み、金融工学という金融商品を設計する勉強をしていました。

――どんな大学生でしたか?
引っ込み思案で、自分から物事を発信するのは得意ではありませんでした。性格が変わったのは、大学祭の実行委員会に入ってからです。同期メンバーにリーダー役がやりたい人が誰もおらず、私が引き受けることに。初めて人を束ねる立場になり、大人数の会議をまとめるうちに人前に立つことに慣れてきて、自分でゼロから企画を作り上げる楽しさを知りました。
就職活動当初は、銀行や証券など金融業界を受けたのですが、皆と同じ服装で型にはまったきれいなことを言う“着飾った面接”をしている自分に気が付いて。
さらに先輩から「金融業界は中堅になるまでに10年掛かる」と聞いて、その成長スピードはリスクだと感じ、ITベンチャーに入社しました。

◆秋元里奈さんプロフィール

1991年、神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶応大学理工学部を卒業後、DeNA へ入社。
新規事業の立ち上げなどを経験したのち、実家で保有している遊休農地の活用方法を検討開始し、農業分野の課題に直面し起業を決意。2016 年に株式会社ビビッドガーデンを創業。「食べチョク」など消費者や飲食店と小規模生産者を繋ぐ、マーケットプレイスを運営している。365日着ているというサービスロゴTシャツがトレードマーク。

◇インタビュアー:菅井麻友(すがい・まゆ)さん 慶応大学理工学部2年生。農業に興味があり、農業系サークル「スローフードクラブ」に所属。野菜づくりが好きで、アグリテックに関心を持っている。

――起業をすることは、以前から考えていたのですか?
起業自体には全く興味がなかったです。ただ、やりたいことが見つかって、実現のための最適な選択肢が起業だったらやろうと思っていました。農業をビジネスにすると決めてからは早く、一週間くらいでDeNAの上司に退職の意思を伝えました。農業を選んだ理由は、実家のような遊休農地を減らしたいと思ったからと、お金を稼ぐだけでなく社会的に意義があることをやりたいと思うようになったからですね。

オーガニック=「こだわり」の客観的指標

――農業界は保守的な考え方が多いと耳にしますが、「食べチョク」のような新しいサービスをどう浸透させていったのでしょうか。
オーガニック農家さんは日本の生産者全体の0.5%といわれるほど少数なのですが、登録農家の数は約200軒に。農家さんの顔ぶれが多くなっていくにつれ、「知り合いの〇〇さんも登録しているなら」と信頼していただき、少しずつ増えていきました。
立ち上げ時はかなり苦労しました。農家さんの知り合いもゼロで、サイトの実体もなかったので、サービス説明のための訪問は、怪しい勧誘だと思われていたかもしれません。
農業を勉強したかったので、「教えてください」と畑作業を手伝うことで関係性を作っていきました。オーガニックに限らず幅広い農家さんを訪ね、色々な意見を伺えたことも貴重でした。DeNAでは、住宅やチラシといったレガシーな業界のサービスを担当していて、現地に足を運んで実際を知ることの大切さを知った経験が影響しています。

――オーガニックに絞ったのはなぜでしょうか。
本当は「こだわりの農作物全般が集まるマーケットプレイス」にしたかったのですが、こだわりって消費者観点からすると、すごく曖昧だなと思うんです。たとえば、「有名シェフがセレクトしている」とかだったら分かり易いのですが。

そこで客観的で消費者に分かり易い指標として、オーガニックを選びました。「食べチョク」には高品質なものがある、というブランディングのためでもあります。果物はオーガニックでは作れなかったりと、難しい部分もあるのですが、オーガニック農家は絶対にこだわっていらっしゃるので。ただ、オーガニックでなければダメとは思いません。新しくリリースした飲食店向けの食材仕入れサービス(※)は、珍しい食材や特定の料理用の食材が欲しいといった要望に応えるため、オーガニック以外の農作物も扱います。

(※)食べチョクPro・・・「食べチョクPro」は、「食べチョクコンシェルジュ」の仕組みを飲食店向けに改良した、2018年11月リリースのサービス。飲食店から幅広い要望を聞き、全国から「もっとも条件に合う農家の商品」を提案する。飲食店のマッチングにより、こだわり農家のさらなる販路拡大を目指す。

――「農業×IT」というのは、正反対の分野にも見えます。どうやってITの力を農業に活かしているのでしょうか。

ITというと幅広いですが、私たちのようなウェブ、ソフトウェア系企業の出身者は、UI/UXと呼ばれるユーザー目線の「使いやすさ」を最適化することに強みを持っています。

私たちができることと、農業と相性が良いのはマッチングサービスだと思っています。使いやすいサービスを通して消費者と生産者を結び、新しい価値を提供したい。ちなみに、初めは農地シェアリングのマッチングサービスに関心がありました。

たとえば、「食べチョクコンシェルジュ」は、消費者は好きな野菜や苦手な野菜、よく作る料理名などを登録するだけで、AIがニーズに沿った農家さんを選んで作物を届けるサービスです。

マッチングに活用しているのが、農家さんから受け取った収穫データを基にした独自のデータベース。FAXやメールなどそれぞれ異なる形式で集まってくるのですが、一つのデータベースとしてきれいに揃えて照らし合わせることで、消費者のニーズを農家さんへタイムリーに伝えて、簡単に欲しい野菜をユーザーに買ってもらうことができます。こういう、お互いの間をITの力で埋めるサービスを作りたかったんです。これからデータが増えていくことで、どんどん精度が上がっていくと思います。

消費者は、最近は細かく選んでモノを買うことが億劫になっているといわれています。農家さんも「いまどんな野菜を収穫しているか」という情報を載せるために、農園のサイトを更新し続けるのは大変な労力です。「お任せセット」というようなざっくりした商品情報だけになりがちですよね。

「やりたいことが見つかったタイミングが、やるべきタイミング」

憧れのOG・秋元さんと2ショット

――今後の展望について教えてください。
将来的に農業は、効率化・大量生産する大規模農業と、品質やこだわりを追い求める小規模農業に二極化します。小規模農家が作る高付加価値の農産物のニーズは消えないので、農家さんがやる気を持ってこだわれば、農作物が売れる世界を作っていきたいです。

こだわる人ってかっこいいけれど、そういう人たちが儲かっていないと皆やりたがたらないじゃないですか。経済的にメリットが得られる世界を作ることができれば、農業に興味を持ってくれる人がもっと増えると思います。

こだわる人が儲けられることがまず大前提として成立してから、事業承継や耕作放棄地問題の解決があると思っています。小規模農家向けのビジネスって、農家さんからお金を頂けるモデルではないので難しいのですが、だからこそやる意味があると思っています。

――私自身は、人口爆発による食糧危機を解決したいと思い、アグリテックなど農業分野に興味をもっています。農業に熱い思いを持っている若者に対して、メッセージをお願いします。

学生のうちから農業に興味がある方ってすごいですよね。
やりたいことが見つかるのって、実はかなりレアなこと。多くの人が「やりたいことがない」という悩みを抱えています。そんな中でも見つけたなら、やらないことこそ失敗でしかない。絶対に後悔すると思います。やって失敗したなら、納得もいくはずです。
若いうちに見つかったから良いとか遅いから悪いっていうのは全然なくて、「やりたいことが見つかったタイミングが、やるべきタイミング」です。
ちょっと前は、失敗すると再就職ができないような時代だったかもしれないですが、いまは挑戦した人が評価される世界。なんなら失敗したことがある人の方が、挑戦したことがない人より人間として価値が高いと思うので、時代背景をフルに使ってどんどん行動して欲しいと思います。

――とても勇気をもらいました。
私も起業前に「経験がないから失敗するかも」と考えることがありましたが、経験があっても失敗はする。それに気づくと、いま不安になっていることってそんなにたいしたことじゃなかったりします。
自分はまだ何もできていないのですが、ITの力でまずは農業の流通面の課題を解決し、消費者には「食べチョク」で買うことで農家さんの畑に行ったときのような感動を味わってもらえるサービスを育てていきたいです。

【関連リンク】
食べチョク
食べチョクコンシェルジュ
食べチョクPro

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