受け継いだのは農法と伝統 三島独活で地域に根を下ろす
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受け継いだのは農法と伝統 三島独活で地域に根を下ろす

受け継いだのは農法と伝統 三島独活で地域に根を下ろす
最終更新日:2019年02月14日

隠れキリシタンの里として知られる大阪府茨木市北部の千提寺(せんだいじ)地域。ここに、なにわの伝統野菜のひとつである「三島独活(みしまうど)」を栽培する若い夫婦が暮らしています。千提寺farm.(ファーム)を営む中井大介さんと中井優紀さんは、本格的に栽培を始めてまだ3シーズン目ながら、二人が作る三島独活にはすでに熱烈なファンが。地域の人々と三島独活を愛する仲間たちに支えられ、“独りじゃ活きられへん”暮らしを大切にする新規就農者の姿をお伝えします。

地域に根を下ろす三島独活栽培

中井大介さん(左)と中井優紀さん

中井大介(なかい・だいすけ)さんと中井優紀(ゆうき)さんは就農4年目。
二人とも数年前までは会社員でしたが、大介さんの父親が亡くなり、実家の千提寺に住むことになります。
千提寺のある茨木市北部は大阪の中心部から車で30分ほど。茨木市の2分の1の面積に人口の100分の1、約2800人しか住んでいないという過疎地域ですが、「ここ、本当に面白い人が多いんですよ」と“人”を土地の魅力の一番に挙げます。

千提寺に暮らし始めて間もなくその面白さに気づけたのは、やはり中井さん夫妻の人懐っこさもあるのでしょう。地域の人々と交流し互いのことを知るうちに、「ここに根を下ろしたい。消費ばかりではなく何かを作り出す暮らしを大切にしたい」と思うようになったそう。

地元の伝統野菜、三島独活のおいしさに気づいたのもその頃。優紀さんは「ナシみたいにおいしくて、ドハマりしました」と言います。

千提寺ファームの三島独活(写真提供:千提寺farm.)

そんな中、三島独活の唯一の栽培農家が高齢を理由に栽培をやめると聞いた二人。伝統的な農法で生産される高品質の三島独活を守りたいとの思いから、2014年に大介さんが三島独活農家に弟子入りします。
優紀さんが第一子を妊娠し、「子どもが産まれちゃったら、いろんなことができなくなる!」と翌年2015年に大介さんも会社を退職し、慌てて就農計画を本格始動しました。
ウドは栽培に丸1年かかる作物なので収入の目途は全く立っていませんでしたが、なぜか二人は前向き。優紀さんが前職の経験を活かして農業以外で収入を得、大介さんは修行に専念しました。

伝統農法にこだわった三島独活の栽培は手間がかかる

三島独活と他のウドとの違いは、栽培方法にあります。

もともと山菜のウドは自生するので漢字で「独活」と書きますが、実際に市場に出回ることの多い「軟白ウド」の栽培は手間がかかります。そのほとんどは、ウドを発芽させるために、ホルモン剤を使用したり電熱線を入れて温めたりする、効率的な栽培方法で育てられています。
しかし、大介さんが師匠から受け継いだのは、単なる栽培方法ではなく300年以上続いてきた伝統そのものでした。
「わらと干し草の発酵熱だけで育てる、アホみたいに手間がかかる農法です」(大介さん)

三島独活の伝統栽培の1年

来春の植付用の三島独活の株

春に株を畑に植え、12月末頃まで露地で独活を育てて、根株を大きく育てます。その間、わらや干し草を集め、秋の終わりには株を伏せ込んで軟白化させるための独活小屋を建てて準備。
独活が休眠する霜が降りる頃、地上に出ている部分を刈り取り、株を掘り起こして、独活小屋の中にきれいに並べます。
その上にわらと干し草を交互に7層重ね、「むろ」と呼ばれる独活の床を作ります。その上から水をかけ、発酵させると熱が発生。その暖かさでウドが春だと勘違いし、休眠が解け、成長を始めます。
それから1か月余り、毎日が温度調整の日々。株から芽が出て、どんどんむろを押し上げ、日に日に高くなっていき、最後は65センチほどまで伸びます。

三島独活の栽培方法(千提寺farm.のパンフレットから引用)

「独活が休眠に入るには十分な寒さも必要」とのことで、その年ごとの気候もウドの出来に大きく関わります。
また、温度調節の方法はむろの一番上に載せられたわらの束の間隔を開け閉めする方法で行い、長年の勘が頼り。上がりすぎても下がりすぎても良くないため、神経を使う作業です。

むろには発酵した雑草などが積み重なる。足元からじんわりと立ちのぼる温かさを感じた

「夫はこういう作業が向いてます。感覚でコツをつかむのが上手。だから、子育てにも向いてる。子供の泣き方とかで何をほしがっているのかもすぐわかるんですよ」と優紀さんは笑います。「逆に私は言葉じゃないとわからないタイプ。栽培にはあんまり向かないから、広報とか営業で頑張ってます」
「そうやな。お客さんに一枚一枚手書きする手紙がめっちゃうまいんですよ」と大介さんも優紀さんの手腕を認めています。

温床の温度を計る大介さん。発酵熱の温度調節には熟練が必要

三島独活のファンと栽培の喜びを共有する

栽培に使うわらのためもあって、今年は無農薬での米の栽培にも挑戦。たくさんの人に草抜きを手伝ってもらい、収穫をしたそうです。三島独活の栽培も昔ながらの方法なので、たくさんの人の手を借りています。
「もっと楽な方法はいくらでもありますが、それは僕たちがやりたいことじゃない。効率的にやるのが目的じゃないんです」(大介さん)
その目的は、三島独活を通じて、人は自然に活かされ、人に活かされ、生きていることを実感してもらうこと。そして、心が動く体験を共有すること。
「収穫の時、独活を食べて自然と涙が出るファンの方がたくさんおられます。また、みんなで苦労も喜びも分かち合うので、独活を介してかけがえのない仲間ができるんです」(優紀さん)

生産者と料理人の関係を超えて、三島独活でつながる

「独活は絶対に必要な食材というわけではないんです。お料理ではあしらい程度にしか使われないことが多い。でも、三島独活のおいしさを知ってメイン食材として使ってくださるお店も増えました。口コミで広げてくださるので、今は営業活動をしていません」(優紀さん)
料理人の皆さんとは仕事を超えての付き合い。農作業にも駆け付け、よく中井さん宅にやってくるそう。
「私、料理は下手ですけど、ここにお友達の料理人の方々が来ていろいろ作って下さるおかげで、いつもおいしいものにありついてます」と優紀さんは満面の笑みをうかべます。

写真提供:千提寺farm.

“株主”の特典は、収穫物だけじゃない

三島独活の「株主」も二人の活動を支える大事な仲間です。
株主とは、中井さん夫妻と一緒に、1年間「三島独活」を育てることに向き合ってくれる人々のこと。年間一株5000円で、一緒に農作業をし、収穫の喜びを共有する仲間を募集します。もちろん収穫した独活をもらう権利が付いてきますが、株主の皆さんの目的はそれだけではないそう。
「僕たち中井家と“絡む”ことも楽しんでくれています」と大介さんは、農作業や食事を共にすることから生まれる一体感や思い入れを株主から感じることが多いと言います。

千提寺farm.にやってきた株主の皆さん(写真提供:千提寺farm.)

地域を支え、地域に支えられる

三島独活のむろに使うわらや干し草は、千提寺farm.の広さでは追いつきません。足りない分は地域の農家の方々が、自分の畑のものを丁寧に刈り取って提供してくれています。
まわりの農家が中井さん夫婦を応援するのは、二人が地域を思って活動する姿を見ているからでもあります。

茨木ほくちの会の方々(写真提供:茨木ほくちの会)

就農時から千提寺地域のある茨木市北部の高齢化や過疎化に問題意識を持っていた中井さん夫妻。地域課題を解決するために二人をはじめとした茨木市北部の住民や出身者などで構成する「茨木ほくちの会」の活動にも立ち上げから参加しています。
「人にも自然にも負担をかけない持続可能な地域をつくっていきたい。僕らは“地給地足”と言っているんですけど、エネルギーも食も地域で循環していくための活動をしています」(大介さん)
この活動や千提寺farm.の株主制度・ボランティアなどのために、若い人々がこの地域を訪れる機会も増えました。

地域と自然に根を下ろす暮らしの豊かさを伝える

昨年(2018年)の夏は豪雨などの天災もあり、大切に育ててきた株の3分の2を失いました。今回の収穫はかなり減る見込みだと言います。
「これまで自然の恵みばかりをいただいてましたけど、今回のことで自然のマイナスの面も知ることができて良かった。両方あってこそ自然。心のシワが増えました」と、人生経験につなげるところはさすがに前向きな中井さん夫妻です。

最後に、三島独活の伝統農法をお子さんに継いでほしいか、と聞いてみました。
「彼らには彼らの人生がありますから、それは考えていません。でも、どこかに根を張る人にはなってほしいですね。きちんと根を張る場所があって地に足が付いていると、本当に豊かな暮らしができますから」

豪雨災害のお見舞いに、遠方の農家の仲間から送ってきた“起き上がりこぼし”。中井さん家族を見守るように飾られていた

 

千提寺farm. Facebookページ

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