移住者の地「藤野」で3年前から開催
主に有機栽培の野菜を扱う「ビオ市/野菜市」(通称:ビオ市)は、相模原市の旧藤野町で毎月2回、開催されています。藤野は80年代から芸術によるまちおこしを実践してきた地域。県外からの移住者も多く、人口1万人の約1割がアーティストや市民活動家と言われています。

広くはないスペースだが、様々な店舗が所せましと並んでいる
ビオ市も2015年12月の活動開始からほぼ3年が経ち、これまでに40の農家と60の飲食やヒーリングの店舗が出店してきました。現在では、旧藤野町にある農家レストランの開店前の店舗を借りて、計20店舗が出店。地元の人を中心に毎回100人ほどの買い物客で賑わいます。
マーケットが始まったきっかけは、10年前に東京から移住した土屋拓人さんが、自宅前に設置した小さな無人販売所でした。
「友人でもあるゆい農園の油井敬史さんの畑で手伝いをさせてもらうようになり、初めて有機農家の仕事現場をリアルに見るようになりました。有機栽培の野菜はどれも美味しい。一方で、農家がそのこだわりを理解し価値を見出してくれる食べ手とつながるのは大変だということも知りました。藤野には他にもひとりで頑張っている有機農家が何軒もあったので、採れすぎた野菜を集め自宅前で販売するといつも大好評。仲間と『みんな集めてファーマーズマーケットをやったらいい』と盛り上がって始まりました」。
あえて、集客の難しい「平日の午前中」に
Kトラ市から始まったビオ市/野菜市は、現在は農家レストランの開店前の店舗を借りて毎月第1・3火曜日の午前8時から11時に開催しています。集客の難しそうな時間帯ですが、土屋さんはあえて平日の午前中を選んだとか。

平日の午前中の開催にも関わらず多くの人が買い物に訪れる
「移住前は東京でイベントや広告の仕事をしていたので、仕掛け方や集客には自信がありました。藤野では毎週末なんらかのイベントがありますし、最も人を集めるのが大変な平日の午前中に集客できたら、農家さんにとって効率的な販売になるのではないかと思ったんです」。
確かにビオ市は、野菜を販売する農家の横にDJのブースがあったり、マッサージやハンドドリップのコーヒーを提供する店舗があったりと、ただ野菜を買うだけでなく、長居して空間を楽しみたくなる雰囲気。マーケットに集まる人たちの間では話に花が咲き、様々なつながりが生まれているようです。

真鍋流農園の真鍋さん
都内から移住し、藤野で農業を始めて5年目という真鍋流農園の真鍋豪さんは、「地域密着でいろいろな人とつながれる」とビオ市の魅力を語ります。
「有機野菜は値段だけで比べると『高い』と言われがち。でもここでは対面販売でじかにお客さんに説明できるし、そういった野菜を求めているお客さんとつながることができます。農家同士で栽培の相談をしたり、ビオ市がきっかけで地域のイベントに出店したりと助けられています」。
ビオ市がきっかけでグラフィックデザイナーやイラストレーターが農家のロゴやチラシを作ったり、シェフとの出会いの場になったり、新商品が開発されたりと、野菜の販売にとどまらない新たなビジネスの機会も生んでいます。
農家の「助け合い」定期市の外にも拡大
月2回のマーケットだけでなく、2017年には旧藤野町内にある食品スーパーに常設の産地直売コーナーを設置するなど、ビオ市は地域で有機農業を営む小規模生産者の販路拡大を支援してきました。

BIOBOXの発送作業をする土屋さん
その一環として、新たに取り組み始めたのは、クラウドファンディングを使った宅配野菜「BIOBOX」の事業です。
「ビオ市に参加している農家さんの中にはすでに宅配サービスをやっている農家さんもいますが、個人では安定供給が難しいのが実情です。月10万円を超える有機農家は全体の1割程度という『10万円の壁』もあるという厳しい環境の中で、特に手間ひまのかかる有機栽培の場合、適正価格で売り切る努力も必要。ビオ市に参加する農家全員で野菜を融通し合えば、安定供給できると考えました」と土屋さんは話します。
BIOBOXは野菜を宅配で届けるだけではなく、藤野地区の魅力を感じられるよう、藤野で活動する芸術家のアート作品やクリエイターの手がけるグッズなどを同梱しています。
農作物の販売だけでなく、新商品の開発や仕事・空き家の紹介まで、様々な人が出会い思いをぶつけ合うことで、たくさんの化学反応を生んできたビオ市。中山間地域といわれる藤野地区で開かれる小さなマーケットはまさに、地域の資源を分かち合い、仕事を通して互いに貢献するシェアリングエコノミーや地域循環型経済のお手本の一つと言えそうです。