視野を広げ、柔軟に考える――その気づきこそが成果
<プロフィール>
◇生方 稔将さん
群馬県出身/経営学部卒業
大学を卒業後、2013年にアメリカでの海外農業研修(18カ月)に参加
帰国後、家業である有限会社生農ファームに就農(取締役)
◇安田 瑞希さん
福岡県出身/農学部卒業
大学を卒業後、2002年にアメリカでの海外農業研修(24カ月)に参加
帰国後は会計ファームや外資系メディアを経て、2014年に株式会社ファームシップを設立(代表取締役)
◇皆戸 顕彦さん
公益社団法人 国際農業者交流協会
自身も海外農業研修(スイス)のOB
――現在、お二人はどのような形で「農業」に携わっておられますか?
【生方さん】
私は、群馬県でコンニャク芋の生産を行っています。アメリカでの海外農業研修から帰国し、家業の後継者として就農5年目になります。今は22ha(サッカーコート30面分)のほ場で、私と両親のほかに従業員1名、さらにタイ人の技能実習生3名とコンニャク芋を中心に、タマネギやオクラを栽培しています。
【安田さん】
2014年に農業関連のスタートアップ企業である株式会社ファームシップを立ち上げ、「農と食の未来創造」を事業ミッションに掲げ、最先端技術を軸に、植物工場、流通(商品開発・物流構築)、人材育成、投資など、おもに4つの事業を展開し、農業がほかの産業と比べても魅力のある産業になるように活動しています。
――昔を思い出して、海外農業研修(アグトレ)に参加された動機を教えてください
【生方さん】
大学を卒業後は就農するという約束でしたが、その前に少し海外で生活してみたいと漠然と考え、インターネットで「海外・農業」などと検索し、海外農業研修のプログラムの存在を知りました。また、大学は経営学部だったので、農業を仕事にしようという同級生がいなかったので、ここに参加すれば全国に仲間ができるかなと考えて参加しました。
【安田さん】
私の実家は花農家なのですが、切り花ではなく、山間部で桜や梅などの花木を栽培し、切り枝を出荷するというニッチな農業をしています。長男なので家業を継ぐことを半分は受け入れながらも、子供のころは本当にそれでいいのかと葛藤もありました。
東京にある大学の農学部に進学しましたが、自分が農業とどう向き合うかを卒業までには決め切れず、「日本の農業を見ただけでは駄目だ」と理屈づけ、福岡県の推薦制度もあった海外農業研修に参加しました。
【皆戸さん】
今、お二人が話したように、「就農する心の準備期間」として海外農業研修に参加する方は多いですね。
――アメリカでは、どのような農場で研修を受けられましたか? また、渡航前のイメージとギャップは無かったですか?
【生方さん】
14カ月間、カリフォルニア州にある2200ac(サッカーコート1247面分)もある大規模な野菜農場で研修を受け、レタスやブロッコリー、トウモロコシなどを栽培していました。実家と比べると、アメリカの農業は規模も組織も大きいなぁとは思いましたが、日本の農業をそんなに知っていた訳ではないので、渡航前のイメージとギャップは特に感じませんでした。
【安田さん】
私は生方さんよりも10年ほど前に海外農業研修に参加したので、当時は今よりも期間が長く、短期・長期で2カ所の農場で研修を受けることができました。最初はワシントン州のベリーを栽培する農場で、3カ月間メキシコ人のワーカー達とひたすら収穫をしていました。
その次は長期で、オレゴンローズ社のバラ部門で、生産とマーケットの仲卸店舗で研修を受けました。そこで一番感銘を受けたのが、農業に携わる人のビジネス意識の高さで、マネージャーのロブさんがMBAホルダーだと知り、「日本の農業は変えられる、30代で起業しよう!」と勇気づけられ、帰国後すぐに公認会計士の勉強をしました。
――英語でのコミュニケーションはどうでしたか?
【生方さん】
国際農業者交流協会(JAEC)にもらった『ブルーブック』と呼ばれる、農業の現場でよく使われる英語のフレーズ集のほか、CMでお馴染みの聞き流す英語教材もやりましたが、現地ではメキシコ人のワーカー達ともコミュニケーションを取ることが多く、英語よりもむしろスペイン語を使うことの方が多かったですね。
【安田さん】
私もマネージャーとは英語で会話し、メキシコ人のワーカー達と片言で話せるぐらいにはスペイン語も勉強しました。もっと英語を話せるようになりたいと思い、研修先の近くのコミュニティカレッジで、メキシコ人向けの英語の無料レッスンが夜間に行われていたので、同僚に一緒に連れて行ってもらい英語も勉強していました。
【皆戸さん】
コミュニケーションは、言いたいことが伝われば何語でもいいんですよ。語学は周囲の人達と積極的に打ち解けるかで成果が違いますね。海外農業研修では読み書きの英語力よりも、コミュニケーション力が大事なんです。
――海外農業研修での経験は、今の仕事にどう生かされていますか?
【生方さん】
家業がコンニャク芋の生産なので、最初からアメリカで技術的なことを学ぼうとは思っていませんでした。農業を志す仲間とのつながりを求めて海外農業研修に参加したので、今は全国で頑張っている同期のもとを訪ね、いろいろな農業を見て刺激をもらっています。
それ以外では、機械を使って作業を効率化したり、会社の働き方を見直したりと、従来の仕事の進め方を変えるきっかけにはなっています。最近では、近隣地域の若手コンニャク農家の仲間達と意見交換しながら生産に取り組んでおり、アメリカでの農業機械の展示会に一緒にアイデア探しに出かけたりもしています。
【安田さん】
ひとつ挙げるとすれば、農業で生きていく決心がついたことです。アメリカの農業がどのように回っているのかを学べたのは良かったのですが、じゃあ日本で同じことができるかといえば、答えはNOです。
アメリカにはロブさんのようなプロの農業経営者がいたり、バイオエンジニアリングの技術者やメキシコ人ワーカー達がいたりするように、国ごとに仕組みが違うことを体験として理解することができました。自分が起業する際に日本だったらどうするか…、インドネシアだったらどうするか…と考え方が柔軟になりましたね。
【皆戸さん】
つまり、多様性ですよね。海外の成功モデルをそのまま持ち込もうとするとつまづくことが多く、やり方は違っていてもいいんだと気づけている方は、成功する割合が高いように思います。生方さんは、技能実習生の採用にタイまで行っているということですが、それも海外経験がなければかなりハードルが高いことなんです。
――就農を考える若者が、海外の農業を体験するメリットは何だと思いますか?
【生方さん】
海外に興味があって、少しでもやってみたいという気持ちがあれば飛びこんでみる価値はありますよ。海外の農業を肌で感じることができるので、日本のいい所に気付けたり、従来のやり方に縛られないので発想が柔軟になりますね。
【安田さん】
農業に限った話ではありませんが、世の中がこれほどグローバル化しているのに、日本の若者が内向き(海外に関心がない)なのは問題だと感じています。じゃあ…どのように世界を見に行くかという中で、国際農業者交流協会(JAEC)の海外農業研修はとてもいい選択肢のひとつだと思います。
現地では比較的自由が利きますし、研修先の農場からは手当ても支給されるので自立できるし、大学生のようにレポートに追われることもありません。特殊なビザ(産業研修生ビザH-3)で渡航できるとてもユニークな制度です。ただ、受け身になりすぎたり、手を抜いたりすると、大したことのない経験で終わってしまうかもしれません。
――最後に生産者の子弟や、農業を学んでいる若者へメッセージをお願いします
【生方さん】
どこにでも行ける時代なのに、出て行かない人には、つながりは作れません。また、今まで通りでいいという人が多いのですが、そんな方は、農業経営が上手くいかなくなると行き詰ってしまいます。視野を広く持つ意味でも、是非、チャレンジしてほしいですね。
【安田さん】
生産者の子弟に限らず、会社の新卒社員にも話していますが、職業を選べる時代になっているのだから、「やる・やらない」は自分で納得して決めてほしいと思っています。判断に時間が必要であれば、その期間として海外農業研修の1年半はちょうどいいと思います。その代わり、決めることからは逃げないでほしいですね。
――生方さん、安田さん、ありがとうございました
海外農業研修(アグトレ)は、現在、参加者を募集中です。
お二人の話を読んで興味を持たれた方は、マイナビ農業の関連記事や、国際農業者交流協会(JAEC)から話を聞いてみてください。
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E-mail:agtre@jaec.org
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