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農業、パッケージデザインで何が変わる? 「デザイン」のプロに聞く

鶴田 祐一郎

ライター:

農業、パッケージデザインで何が変わる? 「デザイン」のプロに聞く

デザインのことを理解できるかどうかで、あなたの農業経営は大きく変化します。「デザイン」というありふれた言葉の本質を捉え実践してみましょう。他が取り組んでいない分、一人勝ちできるようなブルーオーシャン(未開拓市場)なのかもしれません。農業分野のパッケージデザインを多く手がけるデザイン事務所の角田誠(つのだ・まこと)さんにインタビューした、農業インターネットラジオ「ノウカノタネ」の人気回を記事化しました。

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こんにちは! 今日は和歌山県、「貼雑(はりまぜ)デザイン事務所」の角田さんがゲストでいらっしゃっています!
どうもこんにちは、角田です!

貼雑デザインさんには、僕の栽培しているナスの販促シールをデザインしていただいたことがあって、そのときの成果に感動した経験があったので、ノウカノタネのロゴマーク、リスナープレゼントのステッカーや番組アートワークまで、全てお願いしています。
農業に特化されたデザイン事務所って紹介でいいですかね?

ノウカノタネのロゴマーク、リスナープレゼントのステッカーや番組アートワーク

そうですね。和歌山県の私がいる場所は、皆さん聞いたことがあるような大手100円均一の店舗で取り扱われている日用品の70%が生産されているところで、元々はそういった日用品のメーカーさんのパッケージデザインをするために立ち上げた事務所なんです

そうだったんですね!
はい、そこでノウハウや経験を重ねていくうちに、もっとデザインが必要とされている分野に貢献したいと思うようになって、農作物のパッケージデザインを受けるようになりました。もう全国300軒以上の農家さんとお仕事させていただいていますね

そもそもデザインって何?

せっかくプロのデザイナーさんにお越しいただいているので、聞きたいことはたくさんあるんですが、「そもそもデザインって何?」ってところはまず押さえておきたいですね
そうですね、「デザイン」って言葉自体は世の中に出回っていますけど、理解するのは難しい言葉だと思います

そうそう。はっきり捉えきれていないんですよ
日本ではデザインというと“意匠”(見た目)の話ばかりになってしまうのですが、デザインの持つ役割は“意匠計画”という側面も大きいんですよ

意匠計画?
どんな見た目の絵を書くとか色味とかをデザインとして見がちですけど、たとえばある商品が「なぜその形になったのか」「なぜその色になったのか」などの前段階のことを考える、いわゆる“デザインシンキング”だとか“デザイン思考”といった見方がそれです。最近やっと浸透し始めた感じですね

具体的に言うとどんな感じでしょうか?
よく弊社にご依頼いただく例としては、「ボードン(野菜が入っている袋)に貼るシールを筆文字にしたい」といったもので、その理由としては、なんとなくであったり、見た目が好きだからといったものなんです。でも、我々プロが考えるのは、「なぜ筆文字にしなければならないのか」なんです。
筆文字にすることで目的を達成できるのであれば採用しますけどね

なるほど。目的を達成させるための手段にデザインがあるんですね
そうです。“問題解決能力”とか言われますけど、プロのデザインは、達成したい目的から考えます。売上を上げたいのであれば、そのためのデザインをします。まず自分が好きなデザインをして「さあ、どう売ろう」ではデザインとは言えませんよね

結果を出すためのデザイン

野菜ステッカー

でもそうなってくると、デザイナーさんの仕事ってすごく難しいところがあるなぁと思うのは、お金を支払ってくれるクライアントさんを満足させるよりも、そのクライアントさんの商品を買ってくれる最終消費者に響かせないといけないところですよね
おっしゃる通りです。デザイナーの中にも、ご依頼いただいた人だけを満足させて終わってしまう人も居ないわけではないんですよ

それは仕事として間違っちゃいないですもんね
確かにそれも一つのゴールとして見ることはできますけど、私は“商業デザイン”としてやらせてもらう限りは、「売上が上がってほしい」の一点でやらせていただきますので(笑) クライアントさんとケンカになることもありますよ

僕なんかは、もう完全に貼雑さんのデザインを信用していますから、プロの好きなようにお任せしますって言えますが、最初はなかなかそうは言えないと思います。もっとこうしてほしい!あれもこれも入れてほしい!ってどうしても思っちゃって……。そして、せっかくお金を出したのにシンプルなのが来ると、もっといろいろ書いてほしいと思ってしまいます
よく言われます(笑) なので私はデザイナーにとって“提案力”がとても大事になってくると考えています。デザイン案を並べるだけじゃなくて、実際の使用イメージを立体的に再現して、こういう理由でこのデザインが良いんです!って言えるための準備に時間をかけますね

自分がナスのシールをお願いした時も、ちゃんとナスのパッケージの上にデザイン案を載せて「こんな感じです」と見せてくれたので、ものすごくイメージしやすかったです

プロとアマのデザインの違いは「段取り7割」

デザインでは素人の農家が、自分でデザインして販売することってあるじゃないですか? 直売所なんかではむしろそっちがメインです。それなりに奇麗なものを仕上げている人もいますが、あれはプロの目から見てどう映りますか? プロとアマとの差というか
そうですね(笑) テクニックの部分、見た目の可愛さとかうまさといったものは、プロ顔負けのものはありますね

絵がうまい人、センスのある人だけなら結構いますもんね
はい。でも、プロとアマの違いは、先程と重複しますけれど、なぜそのイラストなのか、なぜそのフォントなのか、といったプロセスの部分です。私はよく「段取り7割」と言いますが、可愛いキャラクターをポンと載せてみたり、かっこいいフォントを選んでセンスよく並べているだけだと、それはアートというか作品にはなりますけど、デザインではないですね

完成に至るまでの段取りが重要ということですね。そうなってくると、下手に素人が手を出さない方が良いんでしょうか……
いえ、例えばポップなんかはむしろプロがしっかり作り込んでしまうと、売り場で違和感が出ることもありますし、素人の方が作ったものは親近感を出すためにも効果的だと思いますね。ただ、内容が悪いものが多いです

例えば?
品種名をバーンッとか(笑) そこじゃないんだよー!って思っちゃいますね。消費者の方は数ある商品の中から選択する理由を探しています。選ぶ理由を提示できたら皆そこに集まるはずですよ。ロゴとか品種名は端っこにちょこっと書いてあればいいんですよね。

よくあるのは、「●●さんちの野菜」みたいな形で、作り手の写真がドカッと載っているパッケージ。正直、知らんおっさんの顔を見ても買いたくならない(笑) 思わず、「誰やねん」って突っ込んでしまいますね。それよりも消費者は、おっちゃんがどんな思いとこだわりを持って作っているかという部分で選ぶはず。

何を売りにすればいいのか分からないという農家さんも多いですけど、話を聞くと、どんな人にも必ず、ここを推せば売れる!というポイントがあります

そこが分からないんですよー!(笑)

野菜パツケージ

そうですよね(笑) なので、その差がプロとアマの一番の違いということでしょうか。私にはそれが見えていますので、クライアントさんからも、「想定より売れすぎて追加発注お願いします」だったり「あまりにも売れすぎて嫌がらせ受けるようになりました」などのお声をいただいています

それは僕も経験済みです。
消費者に提示できる「選ぶ理由」とは、具体的にはどのようなものでしょうか?
おいしい食べ方や、「コリコリしている」か「シャキシャキしている」といった食感など食べたときを想像できる表現や、他の作物とどう違うか、などを書いてあげるとより良いと思います。「消費者が、その商品を買ったらどんな人生が送れるのか」を提案できるかどうかが、パッケージデザインのキーになるところだと思います。

野菜パツケージ

どうでしょうか? 皆さんのデザインに関する意識はアップデートされましたか?
デザインで農業をより良くしていこうという意識のとても強いデザイナーさんでした。
角田さんも話されていたように、まだまだ農作物や加工品などの売り方には大きな伸びしろがあり、手を付けている人が少ない領域です。
あなたの農業経営の中で、新しい資材を投入することと同じくらい大きな利益を生む可能性がある「デザイン」に投資してみてはいかがでしょうか? 角田さんにはまだまだたくさんのことを語っていただきましたので、全編はノウカノタネでぜひ聞いてみてください。

【関連リンク】
ノウカノタネ

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