就農イベントとは
一口に就農イベントといっても、様々な形があります。地方自治体が主催する地方色豊かなものから、人材紹介会社が開催し千人以上が来場する大規模なものも。内容も、ブースを構える生産法人や自治体、農業関連企業から直接話を聞くことができるもの、生産者や専門家の講演やパネルディスカッション形式のものもあります。
「就職活動中の学生から定年退職後の就農を考える50、60代の方まで様々な方が来場されています。全体的には男性が多い印象ですが、子ども連れの夫婦など家族でいらっしゃる方もいます。就農は移住を伴うことがほとんどなので、家族で理解を深めたいのだと思います」と話すのは、就農イベントのひとつ「マイナビ就農フェスト」を主催する株式会社マイナビ農業イベント事業企画部イベント事業運営課課長の谷藤雄一さん。
就農イベントは大都市圏での開催が多いのが現状ですが、一部は全国の主要都市で開催するものもあります。また、大規模な就農相談会の他にも、農林水産業に特化した求人サイトが定期的に実施する就職相談セミナーなどもあります。
例えば、マイナビ就農フェストでは…
では、実際にはどのような情報収集が可能なのでしょうか?
株式会社マイナビが開催しているマイナビ就農フェストに参加してみました。
この日のマイナビ就農フェストは、午前10時から午後5時までの開催。従業員を雇用したい農業法人、独立就農や移住・生活の相談に乗る地方自治体、また、生徒を募集している学校など22のブースが出展しました。
来場者は受付の前に、まず就農を希望する地域や作物、職種などを記入する「コミュニケーションシート」に記入します。コミュニケーションシートは各ブースの担当者に来場目的を的確に伝えるのに役立つだけでなく、来場者自身が希望する就農の形を確認するのにも役立ちます。
受付を済ませると、来場者はコミュニケーションシートを手に、各ブースをまわります。主催者によると会場直後は特に来場者が多い傾向があり、人気が高いブースでは開場直後に来場者席が埋まってしまうことも。
そんな時、時間を有効に使うために役立つのが資料コーナーです。
今回のマイナビ就農フェストでも多くの人が、各企業や自治体、団体のパンフレットや移住・就農をテーマにしたフリーマガジンなどを手に取って、さらなる情報収集に励んでいました。
そのほか、多くの就農イベントでは生産者や専門家の講演も企画されています。今回のマイナビ就農フェストでは主催者側による新規就農者の事例紹介、出展企業や自治体が企業や地域の魅力を伝える講演が企画されていました。
出展者の声から探る、効果的な歩き方は?
各ブースをまわるだけでなく、講演や来場者同士の会話、資料コーナーなど情報が盛りだくさんの就農イベント。限られた時間で効率的に、就農につなげる実りある情報収集をするには、事前の準備や心づもりが必要です。
各ブースの出展者のみなさんのお話から浮かび上がった、就農イベントを有効に活用するためのポイントを紹介します。
ポイント1:下調べは重要
「農業の雰囲気を知る」という方から「実際に就農に向けて行動している」という方まで、就農イベントに参加する方の状況は様々ですが、事前に出展企業・自治体や講演のスケジュールを調べてから参加することで、聞くべき話の優先順位ができ、より効率的な情報収集が可能になります。
気になる出展企業・自治体については、事前にウェブサイトなどで情報収集することもお勧めです。「取り組みたい作物がはっきり決まっているものの、それはうちの市で育てるのは気候的に難しい品目だった」(千葉県内のある自治体担当者)というようなことも防ぐことができます。
また、雇用就農の場合でも、農業以外にも様々な事業に取り組む大企業から、移住・独立を前提に手厚い支援を受けられる自治体の第三セクター、新たなビジネスモデルを構築中の農業ベンチャーなど、その形、取り組みは様々です。企業や団体ブースでは、就農イベントをきっかけに就農した先輩がいる場合もあります。先輩の実体験を聞くことで、就農後のイメージをより具体的に描くことができるでしょう。
ポイント3:長期的な視点で検討する
農業を職業として続けていくためには、単に栽培技術を習得して農業を始める、希望の品目を作るというだけでなく、長期的な生活や農業経営の視点も必要です。
例えば、サツマイモの生産から加工、商品の企画、販売まで幅広く行うある会社では、「就職後ずっとサツマイモの栽培に携われるのか」という質問をよく受けるといいます。また、海外で農業を展開する企業のブースで熱心に話を聞いていた女性は、海外勤務と国内勤務の将来的なローテーションや産休・育休が取得可能かなどを質問していました。
また、地域おこし協力隊の仕組みを使って最長3年間、給与をもらいながら農業の研修を受けられる自治体の第三セクターもありました。定住を前提にした雇用ではありますが、住居も用意され、研修中には農地探しや人脈作りの上でも自治体のバックアップが受けられるなど、自身のライフプランと合えば手厚い支援を受けての就農が可能になります。
企業・受け入れ団体ごとの人事の仕組みや採用枠によっても、就農後にどのような仕事を経験できるかは変わります。自身の人生設計を踏まえ、企業・団体の担当者と直接話せる場で、確認してみましょう。
ポイント2:「農業」のイメージにとらわれることなかれ
今回、人材の募集や就農支援を行う様々な企業・団体の方にお話を伺って印象深かったのが、どの企業・地域も実際にお話を伺うと、とても個性豊かだということ。
例えば、海外で農業を展開する企業では「『どこでも住めます、寝られます』というストレス耐性のある人」を求めていましたし、ある農業ベンチャーではビジネスの仕組み自体を新たな人材と共に築いていく必要があるといい「自分が社会を変えていくというベンチャー気質のある人を求めています」と話していました。
一方で、独立就農希望者の相談に乗ることが多いというある自治体の担当者は「農業を始める場合無利子で借りられるなど融資が充実しているものの、借金には変わりありません。どれだけ貯蓄があり自己資金で賄おうと努力していかも、きちんと農業を続けていける人か見極めるポイントにしています」との厳しい声も。
企業・団体のブースでは農業体験プログラムやインターンを紹介していたり、農業関係の学校が出展しているイベントもあります。こういったブースで話を聞くことも、就農にどのような準備が必要か、新たな気づきを与えてくれるかもしれません。