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普通科高校卒から移住・新規就農 元「金髪・腰パン」社長が農業で得たもの

普通科高校卒から移住・新規就農 元「金髪・腰パン」社長が農業で得たもの

山梨県北杜市で有機野菜を栽培する農業生産法人「ファーマン」は、新規就農者の支援や、福祉施設との連携、年間2500人を超える農業体験の受け入れなど、農業に多くの人を巻き込む取り組みを積極的に行っています。代表の井上能孝さんは、普通科高校を卒業後に埼玉県から北杜市に移住し、新規就農したという異色の経歴に持ち主。「農業によって幸せの質を変えたい」と話す井上さんに、ファーマンが目指す農業のかたちについて伺いました。

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就農者支援や農福連携、農業体験にも積極的

ファーマンは山梨県北杜市を中心に、約7ヘクタールの畑でタマネギ、ニンニク、ジャガイモなどの根菜類を中心に栽培しています。設立3年目ながら県内のスーパー、生活協同組合や大手通信販売会社との契約で年間3千万円ほどを売り上げ、アルバイトを含め社員5.6人を雇用しています。

八ヶ岳を望む農場

ファーマンの特徴は、農作物の生産・販売にとどまらず、新規就農者の支援や福祉施設との連携、農業体験を積極的に受け入れていることです。
「うちの農場で働く社員やアルバイト、研修生の中には、精神疾患を患っている方や、社会経験のない方、仕事が長続きしなかった方もいます。世間のつまはじきにあっても、ここはどんな人の可能性も信じたいという意味を込めて、『誰でも受入れ、輝ける農場』でありたいと言っています」。

これまで8年ほどで約20人の研修生を受け入れてきたほか、2012年からは地域の2か所の社会福祉施設と連携。週2~5人が働きにきています。農業体験や企業の研修も積極的に受け入れ、年間約2500人が農場を訪れています。

アメリカ・オレゴン州で出会った農業

高校卒業後、3年間の研修を経て21歳で就農した代表の井上能孝さん。農業に興味を持つまでは、夢や目標もなく、地元の埼玉県所沢市でスケートボードをしたり彼女と遊んだりと毎日をただただ過ごしていたそうです。

農業に初めて憧れを抱いたのは高校2年生の時にホームステイしたアメリカ・オレゴン州でした。200馬力はありそうなトラクターを使い、農薬も小型飛行機で散布する大規模農業のスケール感に圧倒されたといいます。「あの小さな山のふもとまでがおれの畑だよ」と大自然を前に説明する日焼けした農夫の姿はとても自然体で、自由に見えました。

ニンニクはファーマンの主力商品の一つ

サラリーマン家庭に生まれ父親の仕事は実際に見る機会もなく、それまで「働く」イメージが持てずにいましたが、身体を動かして作物を作って売るという「ゴールが見える仕事」の現場を見ることで、初めて働くことに具体的なイメージがわいた瞬間でもありました。

帰国後、井上さんは、高校に通いながら全国農村青少年教育振興会が開催していた夜間の就農準備校に。そこで出会った埼玉県小川町の有機農家金子美登さんの姿勢に感銘を受け、金子さんの紹介で、自宅近くの有機農家田中義和さんのもとで3年間の研修受け、高校の同級生だった相方と共に2001年に山梨県北杜市に移住し、30アールほどの畑を借り独立しました。

当初は困難の連続 販売の面白さに目覚める

就農時、井上さんは金髪に腰パン、相方は赤髪のモヒカンというスタイル。近所の人は不審がって寄り付かず、独立後数年は取引先の倒産や、相方が実家の都合で地元に帰ることになり一人で栽培から販売までこなす日々が続くなど困難の連続でした。農業だけでは食べて行けず、造園業などのアルバイトも続けていたといいます。

「当時はお金もコネもなにもない。地元にはサラリーマンになった友人たちもいましたが、羨ましいとかそういう気持ちにはなりませんでした。農業をあきらめるということは思いつかなかったです」。

2010年には有機JASの認証も取得

その後、次第に経営が安定し、地域にも溶け込み、地域の農業者らでつくる農事組合法人の理事を務めたことがきっかけとなり、さらなる農業の魅力に引き込まれていったといいます。

「法人が生協と取引があったので初めて営業に行き、そこで販売の面白さに目覚めました。名刺交換や仕事のメールも初めて。見よう見まねで覚えました。高校を卒業して就農した僕にとって、社会人としての経験を初めて積んだのが、この営業活動だったんです」。

それまでの個人での販売とはスケールの違う取引。営業活動に役立てようと野菜の流通の仕組みや日本の農業事情を勉強し、勉強会や交流会にも参加するようになると、取引先の拡大とともに全国に農業仲間ができるようになりました。2010年にはさらに商品価値を高めるために有機JASの認証も取得しました。

「農業で幸せの質を変えたい」

理事を務めた農事組合法人が解散したあと、2017年に農業生産法人「ファーマン」を設立。雇用や研修生の受け入れは、経営が安定してきた8年ほど前から続けています。一般を対象にした農業体験には毎年都会から多くの人が訪れ、大自然の中での農作業や食事を楽しんでいます。

「誰でも受入れ、輝ける農場」という理念の裏には、金髪でスケートボードを小脇にやってきた井上さんを受け入れてくれた北杜市の方への感謝の気持ち、また、農業は自分が自分らしくいられる場所であるということ、農業が自分を社会人として一人前に成長させてくれたという思いがあります。

大人数の農業体験も受け入れている

「ぼく自身、高校生までは、将来の夢もなくスケボーをするか彼女と遊ぶことしか頭になかった。もし農業に出会わなかったら、落ちこぼれになっていたのかもしれないと思います」。

井上さんは、お金はすごく大事だけれど人生はそれだけではない、といいます。
「毎朝農場まで車で通う道すがら、大自然に囲まれて過ごす幸せを感じます。農業には生きている質自体を上げる可能性があると思うんです。従業員や研修生が、農業を通して成長する機会を得られたら。また、多くの人に農業を経験してもらって、幸せの質を金銭的価値以外に変えることで、より住みやすい社会づくりに貢献できたら」。

八ヶ岳や富士山を臨む農場から、大きな夢が広がっています。

株式会社ファーマン

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