1年に1回必ずやってくる確定申告
農業者の確定申告「あるある」?
確定申告は1年に1回、必ずやってきます。
一つ、大変な思いをした農業者の例を挙げてみます。
お正月を過ぎた頃、「確定申告の準備できてる?」と周りから聞かれて動き出したのは、長年勤めあげた会社を定年退職後、新規就農をしたAさん。会社員だった頃は、会社が行う源泉徴収と住宅ローンや生命保険の年末調整をすることで確定申告が済んでいましたが、農業を始めたら、自分で確定申告をしなければなりません。経費をまとめるにも「この領収書って何だっけ?」「あの肥料のレシートがないなあ」「数字が合わないぞ」と手間ばかり。「うちは赤字だし、適当でいいか」と考えていた会計処理は、丸3日もかかって、その間は畑仕事もできず、確定申告まで終えたときにはどっと疲れてしまいました。
納税の計算に必要な手続き「決算書作成」と「確定申告」
Aさんのように、ただただ確定申告は疲れるだけと思っている人もいると思います。
そもそも確定申告とは何でしょうか。
まず、決算書を作ります。決算書とは事業の一定期間の収益と支出から、損益を計算することです。そして、決算書から導かれる事業所得や他の所得、控除などを計算して納税額を決め、税務署へ提出することを確定申告と言います。
国民には納税の義務が課せられているため、必ず行わなければなりません。
個人と法人で異なる申告方法
Aさんの例のように、会社員時代は勤務先が源泉徴収と年末調整をすることで確定申告が完結する人が大半を占めますが(勤務先以外からの収入があるなど、会社員であっても確定申告が必要な場合もあります)、個人事業主の場合は自分で確定申告をする必要があります。
個人の農業経営者は、1月1日から12月31日までの1年間が“事業年度”です。この1年間の取引などを帳簿に記録して、次の年の2月16日から3月15日の間に確定申告を行います。法人の場合は、事業年度を自由に決められるため、その事業年度の期末から2カ月後の月末までに法人税の確定申告をします。また、法人の場合は必要書類が異なるなどの違いもあります。
ここでは、主に新規就農者にも多い個人事業主について解説していきます。確定申告のコツとは何でしょうか。
個人事業主の確定申告
日常的に処理したほうが早い?
個人の確定申告はまだ先だから、やることがないと思っていませんか。早くから準備しておくことのメリットはどこにあるのでしょうか。
ソリマチ株式会社・農業情報営業部の尾中隆之(おなか・たかゆき)さんと山根好子(やまね・よしこ)さんが答えてくれました。
「まずは、レシートをきちんと取っておくことからですね」
決算書は、かかった経費をきちんと帳簿につけて、作成する必要があります。そのため、レシートはしっかりと残しておく義務があります。
「それを日々、帳簿に記しておくことがベストです。日々記帳をするのと、1年分まとめて記帳するのでは、後者の方が圧倒的に時間がかかってしまうという実験結果を目にしたこともあります」
簿記の知識はなくても大丈夫
また、簿記の知識が必要なのでは、というのもよくある不安でしょう。
尾中さんは「全くなくてもいい、というわけではないと思いますが、例えば日商簿記3級ほどの知識がなくても大丈夫ですね。『習うより慣れろ』というように、やりながら覚えていくという形でも十分だと思います」と話します。
そして、「分からないことがあれば聞くこと」だとも。
「農業は特殊な世界です。補助金や特例制度もころころ変わりますので、記帳の仕方が分からないことも多いはず。税理士にお金を払って依頼することもできますが、早いうちに確定申告を意識すれば、JAや普及指導センターなどに聞くことも考えられます」
白色申告と青色申告
日々の記帳をもとに確定申告を行う際、個人事業主には2種類の方法があります。白色申告と青色申告です。比較的に手間が少ないのが白色申告で、手間はあってもメリットの大きいのが青色申告です(詳しくはこちら)。
農業者の場合、青色申告は2018年から加入申請が始まった収入保険制度(農業収入の減少を補償する制度。詳しくはこちら)の加入条件になっています。
次年度の経営計画に役立てよう
簡単に済ませるには会計ソフト導入がオススメ
1年目の人には不安、2年目以降の人には面倒という印象もあるかもしれない確定申告。手間を減らすには、会計ソフトの導入がお勧めです。
計算ミスをなくし、財務諸表の作成を便利にするための機能が盛り込まれています。
尾中さんは話します。
「弊社は農業のための会計ソフト『農業簿記』を販売し、全国8カ所の営業所で年間500回の操作研修会を開き、農業者様をサポートしています。毎年、操作研修会へ来る方もいますよ。ソフト自体の操作方法に慣れたヘビーユーザーの中には、確定申告とは関係ありませんが、売上の内訳を集計し、作物ごとの利益率を見て、生産計画を立てる方もいますね」
経営者意識を高めるための会計
確定申告は納税のためにしなければいけないことですが、経営のためにも必要なことです。
「『記帳はただ単に納税するためだけのもの』と捉えていた方も、ご自身が経営者だという意識を持つことで『経営のため』という考えに変わることでしょう。記帳により、『財務状況はどうなんだろう』『設備投資が適切な範囲だろうか』などと経営分析をして、そこから経営判断ができるようになります。これは、会計の意義でもあり、経営者としては当然必要になってくるスキルと言えます」と尾中さんは強調します。
一人の経営者として事業を見直し、計画を立てる。「儲かる農業」には欠かせない、身につけておきたい姿勢です。
早いうちにそのことに気づき、人に聞きながら慣れていくことで、会計も農業経営もスムーズに進んでいくことでしょう。
取材協力:
ソリマチ株式会社
「新規就農者応援キャンペーン」
情報は2018年8月時点のものです。