農業の雇用は課題だらけ?
一人よりも二人、二人よりも三人
収穫などの繁忙期、周りの仲間同士で助け合っている方もいると思います。しかし、それが慢性的に人の手を借りたいと思うようになれば、早急に人材募集をしていく必要があると言えます。
ところが昨今は、人材を採用したいと考えても、業界問わず人手不足です。人口減少に、失業率の低下も重なり、新しい仲間を見つけることは難しくなっています。
農業は求人条件が厳しくなりがち
さらに、農業ならではの厳しい雇用事情もあります。
農業専門求人サイト「あぐりナビ」を運営する株式会社アグリメディアのキャリア事業本部・人材紹介事業部部長の石塚貴史(いしづか・たかし)さんは「農業の雇用の最も大きな課題は、求人条件が他の業界に比べて非常に厳しいことです。給与条件が低かったり、社会保険が完備されていない事業所も多い。また、休日も少なく、さらにその休日すら天候で左右されることもあります」と話します。
他の業界と比べれば、これらの条件は不利に働きます。
多くの農家が人材募集でつまずく2つのポイント
あぐりナビは2014年にスタートして、2018年8月31日現在、1390件の農業に特化した求人が掲載されています。
スタート当初からサイトに関わり、多くの農家の人材募集を見てきた石塚さんは、人材募集で最初につまずくポイントが二つあると指摘します。
一つ目は「求人条件の設定」、二つ目は「農園のPR方法」です。
これらと、さらにその先の採用について、何かコツはあるのでしょうか?
人材募集のポイント
求人条件を魅力的に見せるコツ
まず、人材募集において最初は周りの条件を見てみることです。近隣の農家の求人条件はどの程度か確認してみましょう。その上で、自身が出せる条件を考えてみます。
「例えば給料であれば、皆さんスタートは低いです。そこを上げようと言っても、難しいでしょう。ですが、ただ低いだけでなく、将来の給与モデルを見せることが非常に大事です。例えば、『○年目のスタッフはこのくらいもらっている』という先輩社員の例を出したり、やった分だけ給与に“はね返す”ことができる歩合給を取っているのであれば、『これだけやってくれたら、いくら払う』というモデルを見せることです」
将来が見えることで、応募者のモチベーションが変わってきます。
「農園の魅力」は「代表の意欲」
また、農園の魅力をPRするには、経営者自身のビジョンを打ち出すことが大事だと石塚さんは話します。
「人を募集する背景や、今後、どういうふうに会社を展開していきたいかをしっかり入れることです。また、これまでの沿革も良いですね。『こうやって、うちの農園は規模を拡大してきました』という歴史が見えると、応募者も興味を持ちます。過去から未来に向けてのストーリーが求人情報の中で伝わると、応募につながりやすいです」
この点については、たとえ歴史の浅い農家だとしても、経緯をPRするのは大事だそうです。
「例えば、3年経験を積み、独立後3年経って、軌道に乗ってきたから規模を拡大したくて、自分の右腕になる人材を採用したいという若い代表の方も多いです。また、そういう募集に、若い意欲のある方から応募があるという例も多いですね」
採用のミスマッチを避けるための選考方法
こうして、求人条件を設定し、自身の農園の魅力をPRしていても、応募者とのミスマッチは生まれることがあります。
農業未経験の応募者が、働き出したら想像以上に厳しかったという理由で早期退職してしまうということは起こり得ます。
ミスマッチを避けるためには、農業の実態をしっかり伝えることが大事。
「面接をして、農園見学をして、採用という流れが基本的だとは思いますが、見学だけではなく体験というステップを踏むと実態をリアルに感じやすくなります」
応募者のここを見たい
さらに、採用の時点で確認したいポイントはあるのでしょうか。
「一番は、なぜ農業をやろうと思ったかというきっかけですね」と石塚さんは答えます。
「農業をやろうという方にも、本当に幅広い考え方があります。『ずっと農業がやりたくて○○を学んできました』という熱意のある方もいますし、ただ『自然に囲まれてのんびりしたい』という農業に対する認識が甘い方や、中には『普通の仕事がうまくいかないので、農業だったらできると思うから』という方も。もちろん、そういう方を採用しても、お互いに良い結果にはなりません」
移住者へのケアも
もう一つ、農業特有のケアがあると石塚さんは付け加えました。
「地域によっては、移住を伴う就農もありますよね。そういう場合は生活のサポートまで見せてあげることも大事です。もし自治体と協力して町営住宅を用意しているとなれば、月々いくらで、皆が買い出しに行くスーパーマーケットがどこにあるか、その際に車の貸し出しをしているかどうかなど、そういった点も伝えると良いですね」
条件よりもビジョンへの共感
人材募集では、実際の働き方をお互いが具体的に共有できることが何よりのポイントになってきます。
「今は、求職者の属性(年齢や経歴、勤務開始時期)だけで採用する時代じゃないと思います。応募者のビジョンと、自分たちの農園のビジョンとが合っているか。それを見極めて採用することが正しい採用ではないでしょうか。あぐりナビでも、そうしたマッチングをもっと増やしていきたいと思っています」と最後に石塚さんは話しました。
「儲かる農業」を生み出していくのは「人の手」です。かけがえのない仲間と出会い、ぜひ大きなビジョンを描いていってください。
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