品質管理や産地のブランド化に貢献する青果物用内部品質センサ
「桃の糖度を測りたい」というユーザーの声から開発がスタート
「当社の母体は鉱山事業などを手がける三井金属鉱業です。同社は地中の資源探索で培ったセンサや制御・解析などに高い技術力を持っており、これを活用して開発したのが日本初の青果物用内部品質センサ(光センサ)なのです」(営業部・山田氏)
開発のきっかけは「桃の糖度を測りたいのだけど、地球の内部が測れるのだから果物も外側から測れるのでは?」というJA関連のお客様からの声だったそうです。この声を受けて社内の技術やノウハウを使って試行錯誤を繰り返し、桃に光を当てて糖度を計測するシステムを開発したのが今から30年前の1989年のことでした。
第一号機をさらに進化させ高精度化を実現
最初の製品は”世の中にないもの”を開発したことが高く評価されたほか、品質を保証できることで、これまで取引のなかった高級フルーツ店で取り扱ってもらえるようになるなど、生産者の収入アップにも貢献したそうです。しかし当時の計測方法は、果物に光を当てて表面から5ミリ程度の内部から跳ね返ってくる光を計測する反射式だったため、桃やリンゴ、梨など皮の薄い果物にしか対応できませんでした。
そこで同社は、光を透過させて果実に吸収された光の量を計測する透過式の計測手法を開発。これによりミカンなどの柑橘類からスイカ、メロンなどの皮の厚いものも計測できるようになりました。さらに、透過式にしたこととセンサの高度化などにより得られる情報が増えたため、糖度や熟度だけでなく酸度や内部の障害なども測れるようになりました。
「酸の分子は糖に比べると非常に少ないため、微弱な信号をいかにクリアに処理するか苦労しましたね。また、当社の製品が使われる現場は土埃などの粉塵が多く温度変化も激しいハードな環境である場合が多く、そんな中で高い精度で高速かつ安定した計測ができるようにするのは大変でした」(技術部・谷口氏)
果物から野菜へ、農業から流通や加工へ対応できる分野を拡大
この30年間、さまざまな計測ノウハウを蓄積するとともに、光センサ技術を進化させることで測定精度や処理スピードは大きく向上。青果物に応じた計測方法や搬送装置とのマッチングを工夫しながら幅広い計測ニーズに応え、現在では果物だけでなくジャガイモや玉ねぎなど野菜に対応した選果システムも提供しています。
「市場からはさまざまな要望が寄せられており、野菜では品質を確保するために内部の障害を知りたいという声が多いですね。また野菜は調理した後の糖度、たとえばさつまいもの場合には焼き芋にした時の糖度を知りたいという要望もあります」(営業部・山田氏)
「見える化」に加えて”指標作り”を
また、いも焼酎業界からは、焼酎の出来高はさつまいもに含まれるでんぷん量に左右されるため、事前にでんぷん量が分かるようにしたいという声も寄せられているそうです。同社では今後、農業現場のニーズだけでなく流通や加工分野への提案も強化していきたいとしています。たとえば糖度に一定の基準を設けて生食用と加工用に選別すれば、加工する際にどの程度のシロップが必要か予測できるようになり、後工程が管理しやすくなるというわけです。
「当社の光センサに求められるのは、青果物内部の『見える化』です。しかし、まだ官能で判断している青果物も多いので、できるだけ測れる作物を多くしていきたいですね。そのためには計測方法の開発だけでなく”指標作り”が重要になります」(技術部・谷口氏)
たとえば近年、トマトに含まれるリコピンが注目されていますが、これはリコピンを測る指標が確立され、それが正確に測定できるようになった結果です。同社では新たな測定のための指標作りについても、大学などの研究機関と協力しながら進めているそうです。
次世代に向け、「地域から個へ」品質保証やブランド化を支援
同社の製品は現在、主にJAなど青果物が集荷・選果される現場で使われており、光センサによる選果システムで約5割のシェアを誇っています。こうした光センサによる選別には、
◎品質のいいものをブランド化して付加価値を付ける
◎規格外品を除いて一定の品質を維持する
という2つの側面があります。
生産者向けの製品開発を強化
同社では光センサを活用した高度な選果システムで産地や地域農業の発展に貢献するとともに、これからは個々の生産者に向けてコストダウンを図り、導入しやすい小型選別機や卓上センサの開発に力を入れていくとしています。
「現在、収穫前のぶどうの糖度などを測定するハンディタイプの製品の開発を進めています。類似の製品は他にもありますが、精度の高さや操作性、データの活用の仕方などで差別化を図り、生産者の方の役に立つ製品を目指しています」(技術部・山田氏)
近年はネット販売など流通の多様化が進んだことから、直販によるビジネスを行う生産者も増えています。同社の製品を採用した生産者からは、「これまで外観や経験によって判断していた品質をデータで測れるようになり、クレームがなくなった」「付加価値の高いものを生産・販売することで経営が安定した」といった声が寄せられています。
データを活用して営農支援も
また、光センサによる選果は品質を管理するだけでなく、計測で得られる大量の情報は営農支援のデータベースとしても活用されています。生産者に選果結果をフィードバックすることで栽培技術の向上に役立ててもらうほか、JAなどではこのデータを営農指導に活用しています。さらに、ビッグデータの処理、土壌分析や気象データを連携させたシステムを構築すれば、将来のスマート農業への道を開く可能性も秘めています。
30年前に登場した光センサによる選果システムが現在のように広く普及したのは、産地・生産者と消費者の双方にメリットがあるからといえます。産地や生産者にとっては品質の信頼性を確保することで多様な販売戦略が可能となり、収益向上や安定化に貢献。また消費者に対しては、嗜好にあったものを選択し安心して購入できる環境を提供しています。
時代や市場のニーズに合わせ、自社の技術力を駆使して”農業に役立つ”製品開発に尽力してきた三井金属計測機工株式会社。「これからも積極的に新しいマーケットにチャレンジしていきたい」と、お話をうかがった3名が口を揃えました。
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