陸稲が栽培されるまでの稲作の歴史
岡山県にある「朝寝鼻(あさねばな)貝塚」から縄文時代中期の稲の細胞化石が発見されたことから、稲作は今から約6000年前からあったと推定されています。また、青森県田舎館村にある「垂柳(たれやなぎ)遺跡」からは、日本最古の陸稲の祖先の炭化米が出土し、これが陸稲づくりの始まりといわれています。
稲が日本へ伝わった三つのルート
稲は、朝鮮半島・中国・東南アジアの三つのルートから日本へ伝わったといわれており、大きく分けて「ジャポニカ(温帯ジャポニカ)」「ジャバニカ(熱帯ジャポニカ)」「インディカ」の三つの種類があります。
朝鮮半島や中国から伝わったジャポニカは、日本や北東アジアの水田で栽培されている品種の祖先となり、東南アジアから伝わったジャバニカが陸稲の祖先、インディカはタイ米などの熱帯地域で作付けされている品種の祖先にあたります。
それぞれ味や形が異なり、下記のような特徴があります。
ジャポニカ(温帯ジャポニカ)
・北東アジアを中心に分布(日本も含む)
・米粒が短い
・炊くと粘りがでる
ジャバニカ(熱帯ジャポニカ)
・熱帯アジアの島々の山岳地帯を中心に分布
・穂が大きい
・穂数が少ない
・粒が大きい
・炊くと粘りがでる
インディカ
・南・東南アジア、インド亜大陸を中心に分布
・米粒が細長い
・炊いても粘りが少ない
陸稲の栽培方法
現在、茨城県や栃木県で多く栽培されている陸稲ですが、どのように栽培されているのでしょうか。
陸稲を栽培するためには、畑は水はけが良くバランスのとれた土壌を選び、しっかりと耕してから栽培を始めることが大切です。種まきや病虫害についてなど、陸稲の栽培において覚えておきたいポイントを紹介します。
種まき
種まきは4月下旬〜5月上旬に行います。種をまく溝は、深すぎると発芽不良になりやすく、浅すぎても除草剤などの影響を受けやすくなるため、土の表面から深さ2センチくらいが適当です。基本的には乾燥種子を使用しますが、種まきの時期が遅くなった場合には、発芽を促進するために種子を水に浸す浸種を行います。種をまく量は、10アール(1000平方メートル)あたり4〜5キロを目安にしましょう。
施肥・除草
一般的な慣行栽培よりも1〜2割、肥料の量を減らして使用します。陸稲は初期生育が遅く、また、水田のように代かきも行わないので、雑草が生えやすいのが特徴です。手で取ったり薬剤を散布したりして処理しましょう。
病虫害
陸稲の病気には、もみや穂首が変色する「いもち病」や、もみに緑黄色の突起ができる「イネ稲こうじ病」などがあります。また紋枯病(もんがれびょう)は、下葉から順に枯れて稲の茎が弱り、稲が倒れてしまう原因にもなります。これらの病気には、品質の低下や収穫量の低下だけでなく、稲を全滅させられるおそれもあります。そのほか、ニカメイチュウなどの害虫も葉や茎に入り込み稲を枯らすので要注意です。
収穫
もみの80%が黄化し、穂首近くに緑色を残した粒が少し残っている状態が収穫時期の目安となります。機械で稲刈りを行う場合は、コンバインを使用して収穫・乾燥します。混種を防止するために、コンバインなどの掃除はきちんと行うことが大切です。また、鎌で刈る場合には稲の根元から刈り取ります。
水稲と陸稲の違い
水田栽培の技術が発達する前は、畑でお米が作られていましたが、今では水田栽培が稲作の中心となっています。水田で育てられる「水稲」は東北・北陸など寒い地域を中心に、「陸稲」は茨城県や栃木県で多く栽培・収穫されています。水稲と陸稲の違いを、作られている品種や栽培にかかる手間の違いから見ていきましょう。
作られている品種
水稲と陸稲は、作られている稲の種類がそれぞれ異なります。現在、水田栽培では、普段よく食べられている「うるち米」を中心に作られ、畑では、主におかきなどの加工品になることが多く、粘り気のある「糯(もち)米」の品種が多く作られています。水稲、陸稲の代表的な品種を紹介します。
水稲
・コシヒカリ…日本で一番作付され、一番食べられているお米です。程よい粘りと適度な硬さがあります。
・あきたこまち…秋田県を代表するお米で、もちっとした食感と程よい甘みが特徴です。
・ゆめぴりか…もっちりとした食感が特徴で、北海道を代表するお米です。
・ササニシキ…炊きあがったときのつやが良く、適度な粘りと硬さが特徴です。
陸稲
・トヨハタモチ…茨城県の陸稲奨励品種に認定された極早生の品種で、全国的に栽培されています。
・ゆめのはたもち…茨城県や栃木県などで栽培されている中晩生の品種です。
・ひたちはたもち…主に茨城県で栽培されている早生の品種です。
水田栽培との違い
水田栽培では、作付け前に代かきを行って水を張り、気候や成長速度に応じて水田内の水深を調整します。畑で栽培する陸稲はその手間はありませんが、逆に雨が降らないと乾きすぎによるて生育不良を生じる可能性があるため、注意が必要です。
家庭で陸稲栽培を体験しよう
畑で栽培される陸稲について紹介しました。陸稲は、水稲のように水をためておく必要がないため、家庭菜園などで気軽に米づくりが体験できます。
手間暇をかけて稲作を体験することで、食べ物の大切さやありがたみを改めて感じるきっかけになるのではないでしょうか。
監修:農研機構 中央農業研究センター 生産体系研究領域 領域長 吉永 悟志