農業の多面的機能を生かしたケアファーム
そもそもケアファームとは何でしょうか? 日本では「農福連携」という取り組みがありますが、ケアファームもその名の通り、高齢者や認知症患者など「ケア(福祉)」が必要な人々に対して「ファーム(農業)」を通して、より効果の高い治療を目指したものです。高齢人口が増加し、独居老人などが社会問題となっているオランダでは、農作業自体がもつ癒やしの価値が、再度見直されています。
ケアファームを経営するためには、農業に関する知識・経験に加えて、認知症や精神疾患を持つ患者のケアをするための専門性も必要となってきます。
オランダのケアファームの特徴は、ケアを受ける患者はケアファームに料金を払わず、代わりに政府からケアファームに対してお金が払われるということです。
今回お邪魔したパラダイス農園のオーナーは、元々農業のコンサルティングをしており、2006年にこのケアファームを創業しました。
オーナーの話によると、オランダではケアファームの数は2000年以降に増加しているとのこと。1998年に75社しかなかったものが、現在では認可・非認可合わせて1400社以上もあります。農業が持つ「人を癒やす」という価値の見直しはどんどん行われています。
補助金に頼らない収入源の確保
政府からの補助金頼りになってしまいがちなケアファームですが、パラダイス農園では農業収入もしっかりと得ることができています。オーナーによると、農業収入が半分、福祉による政府の援助金が半分だそうです。
パラダイス農園の従業員は13人で、そのうち農業に携わる人が4人、介護など福祉を専門に携わる人が9人になります。また、地域のボランティアも60人ほどいます。ボランティアがなかったら成り立たないのではないかなと思うくらい力になっているそうです。
農用地の面積は16.5ヘクタールあり、そのうち10ヘクタールを放牧に、残りを畑に使用しています。
パラダイス農園の農業は、畜産と野菜生産の複合経営で、ここで作られる商品や野菜は全て有機認証を取得しており、9000羽の産卵鶏、200頭の豚、30頭の赤牛を育てて、40品目の野菜を作っています。やはり、9000羽から得られる鶏卵が大きな収入源となっているようです。
販売先は、EKOPLAZA(エコプラザ)というオランダ全土にあるオーガニック専門店、オランダ国内外のスーパーマーケットなどです。また、ファーム内でもショップを経営し、農作物に加えて、患者さんたちが作った工芸品なども販売しています。
その他にも、イベント会場としてファーム内のレストランを貸し出すことや、ファーム内のツアーを行うなど複数の収入源を確保して、補助金に頼らないファームづくりをしていました。
さまざまなニーズに対応するケア
実際にパラダイス農園で行われているケアの中身を見ていきましょう。ケアを受ける対象の患者さんは、高齢者、成人(20〜70歳)、子供の3グループに分けられています。高齢者は平日の10時から16時半までファームに来てケアを受けるのですが、近所のボランティアのドライバーが送り迎えをします。ファームでは馬、ヤギ、ロバ、ウサギなど動物の世話や収穫など農作業に加えて、木工や食事の準備や森の散歩などを行います。
成人グループには、うつ病、自閉症、アルコール依存症、不安障害などの精神疾患を抱えた人々がいて、農作業や日々のカウンセリングを通して社会復帰を目指しています。子供グループは、学校に行けない子たちで、個別のカウンセリングに加えて、週末に農場の宿泊をし、動物や自然と触れ合います。
実際に、自閉症で自分に自信が持てずに自虐的になっていた女の子がケアファームに数年通って自信を取り戻し、仕事につき、結婚したというエピソードを聞きました。また、介護を受けている年配の女性にこの農場の話を聞くと、ここが私の「パラダイス(天国)」と笑顔で話をされている姿が印象的でした。
日本でも2016年に「農福連携による障害者の就農促進プロジェクト」が始まり、助成金制度を整えたことで、今後農業と福祉が連携し、双方の強みを生かした取り組みが増えてくるのかなと思います。
以上、オランダのケアファームの紹介でした。
次回は、オランダの先進的なイチゴ農家のハウス栽培の事例を紹介します。
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