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出張!オランダ農場 〜少ない資源で高利益を出すイチゴ農家の経営戦略〜

連載企画:オランダ農業の現場から

出張!オランダ農場 〜少ない資源で高利益を出すイチゴ農家の経営戦略〜

大規模な施設栽培とICTを駆使して高い生産性が注目されているオランダの農業。「いかに作るか?」が注目されがちですが、「農業」という価値を多角的に利用して、経営に成功している農家があります。今回、訪れたのはイチゴ農家の「カルター・アールバイエン(Kalter Aardbeien)」です。イチゴを作るだけでなく、加工しての販売、施設を利用したレジャーや近隣農家とのエネルギー共有など、さまざまな切り口で経営を行うオランダの先進的なイチゴ農業を取材してきました。

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「いつ、どこで売るか?」から始まる経営戦略

カルター・アールバイエンのイチゴ。高設栽培で、収穫しやすい

今回、話を聞いたのは、アネッツさん。「いつ、どこで売るか?」ということから逆算された農場経営の話を聞きました。カルター・アールバイエンは広さ1.7ヘクタール。オランダのイチゴ農家の中では平均より少しだけ面積が広く、ガラス温室でイチゴを栽培しています。アールバイエン(Aardbeien)というのは、オランダ語でイチゴのことです。
1年間通してイチゴを収穫できるようにするため、圃場(ほじょう)を4つに区切って栽培し、売り先もシーズンによって変えます。春と夏には、ほとんどのイチゴはオランダに卸し、それ以外を輸出。国内消費量が減少する10月以降はほぼ国外の会社へ卸します。
また、観光農園の運営や自社の直売所での販売も行い、年間を通じて販路を確保しています。

では、各販売先に対する戦略を見てみましょう。

ハウスの中にあるカフェスペース。ここでイチゴのケーキを食べたり、イチゴのワイン、イチゴのビールを飲むことができる。右側に少し見えるのがハウス

販路1. 海外への輸出

主な輸出先は、イギリス、アイルランド、スウェーデン、デンマークです。
春と夏は国内出荷をメインとして輸出は約30%程度。10月以降はほぼ全てを国外に販売しています。
品種は貿易に適した品種“Sonsation(ソンゼーション)”を使用。味や香りがいいことに加えて、硬くて長く貯蔵することができます。これによって、長い運送に耐えることができます。

販路2. セルフピッキング(観光農園)

もう1つの収入源はセルフピッキング(自分で収穫すること)、いわゆる観光農園です。
「ピークは、春先。その時期のオランダは天気が安定せず雨が多いから」と語るアネッツさん。「天気が悪いと遊ぶところがない。この農場は、子供の遊び場もカフェもある。ここに来て、子供は遊具で遊んだり、セルフピッキングしたり、大人も一緒に収穫したり、カフェでくつろぐことができるから、お客さんも出かける場所に迷ったらここに来てくれるよ」

イチゴの説明をするアネッツさん

イチゴのセルフピッキングは4月中旬から10月中旬にかけて行っています。イチゴの収穫をお客さんにしてもらうことで、収穫や包装のコストや輸送コストもかからないため、利益率が高くなります。このため、「農場に実際に来てもらって、お客さん自身が収穫して、イチゴを楽しむ」という流れを生む導線が複数用意されています。
オランダのガラス温室は高さと広さがあります。それを利用して、温室内には、無料で開放された子供の遊び場があり、多くの子供たちが遊べる環境が整えられています。また、カフェもあり、そこではコーヒーやここで取れたイチゴを使ったケーキなどを楽しむことができます。

ハウス内の様子。奥に子供が遊べるスペースがあり、手前はカフェスペース

販路3. 直売所

また、ハウスに隣接した自社の直売所では、地元の新鮮な野菜や果物、チーズ、牛乳、ワイン、ビールなど豊富な品揃えでお客さんを迎えます。
カルター・アールバイエンで収穫したイチゴは3つのランクに仕分けされますが、B級品は、ジャム、ジュース、イチゴビールやワインなどの加工品に利用されます。また、イチゴの自動販売機もあり、24時間イチゴを購入できるようになっています。
店内には若い店員が働いており、オシャレな雰囲気がありました。
このように農場に来てもらうための仕掛けがしっかりとしており、それらでも収益を見込めるという相乗効果を生み出していました。

直売所の様子。地元野菜や果物も豊富に揃えてある

オランダが直面する課題・天然ガス採掘の廃止

2013年から始まる地熱シェアのプロジェクト「GREEN HOUSE GEO POWER(グリーン・ハウス・ジオ・パワー)」の図。右上に記載されているのは参加企業。カルター・アールバイエンは2014年に参加した

オランダのほとんどの温室では、フローニンゲン州で採れる天然ガスを利用して、温室内の温度調節をしていますが、環境負荷の面で問題視されています。また、2030年には、フローニンゲン州の天然ガスの採掘が廃止されることになっています。そのため、オランダの施設栽培農家は、今後どのように方向転換をしていくかの岐路に立っています。
カルター・アールバイエンでは天然ガスの利用をストップし、近隣の農場(会社)と共に地熱を利用し、サスティナブル(持続可能)な栽培に取り組んでいます。
地熱源は、地面に掘削された1950メートル以上の深さがある2つの井戸です。このイチゴ農場には、キュウリの農場で使用された熱(温水)が送られてきます。キュウリ農場では73度の熱を利用し、排出されるときには40度ほどになります。その40度になった熱は、このイチゴ農場で再利用され、25度程になって排出されます。その後は、ほとんど熱を必要としない種苗会社へ送られて、そこで再利用されるという仕組みになっています。
他の農場とシェアしあい、自分たちが必要な分だけ使い、次に渡すという仕組みは、限られた資源を有効に使い、またコストを抑えることができる画期的なことだなと思いました。
このように、今後は環境破壊や人口減少など直面する課題がより大きなものになってくると思うので、他の農家や会社と協力しあって、共通の課題を克服していくことが必要だなと感じさせられました。

以上、オランダの先進的なイチゴ農家の事例でした。

次回で、連載も最後になります。
これまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回は、オランダ農業のまとめを書きたいと思います。
 
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