秘訣1:「師匠」を見つける
──今城さんは以前ネイリストだったそうですね。
私は短大卒業後にOLをしていたのですが、自分で起業をしたいと思い、ネイルサロンを開業しました。子供の頃から指がキレイだと言われるのがうれしくて、爪をケアするのが好きだったんです。その時は、生涯ネイリストでいるつもりでした。
それが30代後半ぐらいから、戸惑いを感じるようになって。安価なネイルサロンが増えてきたり、スタッフと良好な関係が築けなかったり……。お客さんの好みにも共感できなくなってきて、ネイリストを続けるのが厳しくなってきました。
──そこで、なぜネイルとは全然関係のない農業に?
当時は自宅の1階がお店で2階が居住スペースだったんですが、仕事をしながら趣味でベランダ菜園をしていて。それがとても楽しくて、市民農園を借りて畑もやりはじめたんです。
そんな中で、たまたま家のポストに入っていた市の広報誌でJAの新規就農研修の募集要項を見つけて。それに応募したのが、農業に足を踏み入れたきっかけです。私は神戸の街なかで暮らしていたので知らなかったのですが、研修に行って市内に農村地があることが分かりました。遠い田舎に引っ越さなくてもいいし、農業を一生の仕事としてやっていこうと決意したんです。
──最初はJAの研修に行かれたのですね。
JAの新規就農研修を1年間受けました。その後さらに1年間、農家研修にも行ったんです。農家研修は2件行き、そこで出会った先輩農家の一人が私の師匠です。今借りている約30アールの農地も師匠が紹介してくれて。師匠の畑はすぐ近くで、今でも指導を仰ぐ機会があります。私は何もない所から農業をはじめたので、良い師匠を見つけるのは大事だったと思います。
秘訣2:「初期投資」を抑える
──今城さんの農業は、JAの研修がベースになっているのですか?
研修で学んだ基本は役立ちますが、実際のところ、やらないと分からないのが農業です。実は昨年の夏、台風で主品目のズッキーニが全滅してしまって。何があるか分からないんです。
私はゼロからの就農でしたので、初期投資にお金がかかりました。農機はトラクター、管理機、刈り払い機、動力噴霧機、播種(はしゅ)機などを買い、採集コンテナなどの小さな道具も揃えました。露地栽培のみで高価なビニールハウスは導入しませんでしたが、就農して2~3年は利益は出ず、つらかったですね。
──農業を経営していく上で心がけていることは。
一人だとできることが限られているし、なるべく初期投資を抑えて地道にやるのがいいです。とは言え、ある程度は投資もしないとスタートラインにすら立てないです。
私の場合は夫がサラリーマンなので、赤字でも生活ができるから何とかなりました。兼業で主婦が営農するにしても、苗代や種代、肥料代など家庭菜園とは桁違いのお金がかかります。試行錯誤しながら少しずつ収益化を目指すしかないです。
──収益化のポイントはありますか?
土地に合わせた品目の選択でしょうか。何が合っているかは、やらないと分からないです。私の主品目は、冬はブロッコリーで安定しています。夏はナスとズッキーニですが、夏の露地栽培は天候に左右されるのが難点です。私の畑は強風が吹きやすく、ナスは風に吹かれると傷がつくんです。ズッキーニも、雨風で茎が折れる場合があります。
主品目以外は、比較的天候に左右されにくく保存も効くようなイモ類、ショウガ、ニンニクなどを取り入れています。
秘訣3:「農家グループ」に加入する
──現在の販路を教えてください。
販路は農協、直売所、ホテルやレストランへの出荷、他には地域のマルシェで対面販売もしています。
──農協には何を出荷しているのですか?
主品目のブロッコリーを出荷しています。農協のブロッコリー部会に入っていて、1ケース20個入りで取引されています。ブロッコリーって泥を洗う手間がなく、手際よく出荷作業ができるんです。野菜の中では売れ筋商品なので、回転率も良くて。直売所に出荷しても、ほとんど売り切れています。
──農協と直売所以外は、自力で販路開拓を?
「神戸スターズ」という地域の農家グループに入っていて、メンバーの紹介でホテルやレストランと取引しています。研修中にご縁ができた飲食店もあります。
農業者の任意団体って増えましたよね。ゼロからの新規就農で営業までする余裕はなかなかないので、グループに所属するのは有意義だったと思います。仲間から地域の情報も聞けますし。
主婦だからこそ!
──女性一人で農業をしていて苦労することは。
重いコンテナを運ぶ時に男手があれば……と思うことはありますけれど、あまり気にならないです。機械も使えますからね。
──反対に、主婦だから良かったことはありますか。
ありますよ! 主婦は野菜を扱うのに慣れているから、収穫や袋詰めが早いです。スーパーでどんな物が手に取られやすいのかも予想できます。味はもちろんだけど、野菜って見栄えも大事なんです。
私は農家として、主婦としても、味も形もちゃんとしたものを買ってもらいたいんですよね。就農して6年目になりますが、私なんかまだまだ。師匠や地域農家の方々に助けられながら、これからも日々の農作業に励みます。
【関連記事はこちら!】
【新規就農者の横顔】教師&自衛官からの就農 畑作大国・十勝で小規模農業を
20代で就農 山梨県の女性専業農業家【ファーマーズファイル:羽野幸】