生協職員から有機農業の道へ
──谷下さんはなぜ農家になったのですか。
僕は以前、生協に勤めていたんです。母親が食の安全にこだわりを持っていた影響で、僕自身も食のルーツに興味があって。愛媛大学を卒業し、四国の生協に就職しました。生協ではグループ購入の配達などをしましたが、大きな組織だから希望通りの仕事ができるわけでもなく、30歳になる前に退職しました。
その後はいろんな職を転々として、ふと、あてもなく北海道の十勝に行ったんです。昔から自然豊かな場所が好きで、単に北海道が好きだからという理由だけで。現地でインターネット検索をしている時、たまたま住み込みの研修生を募集している農家を見つけて。これだ!と思い、すぐに電話しました。それが有機農業との衝撃の出会いだったんですよね。
──衝撃の出会い! どんな研修先だったのでしょう?
北海道は大規模農業が多いのですが、僕が研修に行った先は少量多品目栽培の家族農業だったんです。家族で農を営むアットホームな雰囲気や、作った野菜のおいしさ、有機農業の農法にも非常に感銘を受けました。そこで研修を終えて神戸に戻ってきたんです。
──農地はどうやって見つけたのですか。
僕の祖父母が農家だったのですが、高齢になってから田んぼが耕作放棄地になっていたため、その土地を継いで農業をスタートしました。2006年の時です。父は牧師をしていて農家ではない家で育ちましたし、それまで自分が農業をすることになるとは思ってもいなかったのですが、農地を継ぐことになり祖父母は喜んでくれましたね。
有機JAS認定を取得して販路拡大
──谷下さんの有機農法は、北海道の研修先で学んだことがベースに?
神戸に来てからも、近所の有機農家さんの所へ1年間研修にいったんです。やはり北海道とは気候も土壌も違うので、改めて学びたいと思って。結果的には、北海道で学んだ農法に近くはなっています。農薬と化学肥料を使わない有機農法ですね。
──無農薬とのことですが、虫対策について教えてください。
うちはビニールハウスが6棟ありましてハウス栽培がメインなんですが、ハウスの側面に目の細かいネットをはっています。通気が良く、虫を通さないネットです。あとは、虫取り用の粘着テープを使用しています。
肥料は主に植物性の堆肥を入れています。肥料をひかえめにするだけでも、虫が来にくくなります。油断をすると、よくアブラムシが発生するんですよね。そこはとても気を使っています。
──品種はどのように選定していますか。
定番野菜から珍しいものまで幅広く網羅していて、年間50品種を維持しています。2013年に有機JAS認証を取得してから受注生産が徐々に増え、カーリーケールなどは事前に注文がきています。受注生産の相手は、生協、大手スーパー、レストラン注文、CSA(※)などです。
※ 「Community Supported Agriculture」の略称で、日本では「地域支援型農業」と呼ばれている。消費者が生産者に代金を前払いして、定期的に作物を受け取る契約を結ぶ農業の形態。
──有機JAS認定を取得した理由は?
就農したての頃は、販路が直売所のみでした。今でこそファーマーズマーケットや個人販売がありますが、10年前は全くなかったんです。直接お客さんと話ができるなら有機JASマークは重要ではないけれど、お店の売り場に陳列する場合はあった方が有利だと思います。実際に、売り先も広がりました。大手スーパーの有機コーナーでは、有機JASを積極的に扱っているところもあります。
──認定を取得するのに費用がかかりますよね。
毎年、所定の費用を納めて、2年に1回講習を受けに行っています。負担はありますが、やはりマークは信頼の証になるのではないでしょうか。
──先ほど就農当初は販路が直売所のみだったと伺いました。今も直売所への出荷は続けていますか? もし売る秘訣があれば教えてください。
今も余剰品を直売所に出しています。直売所で売る秘訣は、時期をずらすことです。これにつきます! 価格競争には勝てないですから。
野菜のパンで畑の恵みを届ける
──畑の隣に小さな工房がありますね?
昨年パン工房を作り、妻がパン屋をはじめました。農業をしていると、どうしても規格外品が出てきてしまいます。もともとパン好きの妻が、食べられるものを捨てたくないと考えたのが、規格外品をいかした有機野菜のパン屋です。今は月に2回ほど神戸市のファーマーズマーケットで販売しています。
──旦那さまは野菜を育て、奥さまは野菜のパンを焼き、両方を地域のお客さんに喜んでもらう。素敵な家族農業です!
僕たち夫婦は、お客さんと会話できるのを励みにファーマーズマーケットにも出店しています。谷下農園の野菜とともにパンも買っていただけるというのは、とてもうれしいことです。まだ少しずつですが、家族で生み出す谷下農園ならではの食と農を、これからもお客さんに届けていきたいです。
写真提供:谷下農園
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