2015年の春、ゼロからスタートしたこの取り組み。運営事務局の1人である小泉亜由美さんに話を伺うと、実際にマーケットを続けていく中で、農業が抱えるリアルな問題点が浮き彫りになってきたと言います。
その問題に向き合いつつ開催されるマーケット。そこには「新規就農者のサポート」「コミュニティ作り」「スタートアップ」という3つの柱がありました。そして根底には「次世代のためにできる事を探したい」という大きなコンセプトがありました。
何も分からないゼロからのスタート
ファーマーズマーケットをはじめたきっかけは何ですか?
全然知られていませんが、神戸市は人口100万人を超える政令指定都市の中で農業産出額がトップクラスです。それなのに市民はそのことを知らない。そこで、EAT LOCAL KOBEという地産地消をテーマにした神戸市の取り組みが始まりました。そのなかで、農家と市民が実際に顔を合わせる場所が必要だと感じ、ファーマーズマーケットがスタートしました。
ファーマーズマーケットの目的が変わっていった
実際に運営してみて気づいたことは何ですか?
最初は単純に地産地消を広げよう!と始めたのですが、やっているうちに若い農家さんがいなければ継続できないと気づきました。毎週のように、農家さんが野菜を販売しに街まで来ることができているのは、若い方が多いからです。2020年には農家が大きく減少し、65歳以上の農家が65%になると予測されています。そうなると20年後、私たちは神戸の野菜どころか、国産野菜が気軽に買えなくなるかもしれないと考えました。
「新規就農者のサポート」が必要不可欠に
就農1~2年目の農家も参加していますね
新規就農者や若い世代の農家はシニア層との価格競争では勝てません。直売所や道の駅に出さない人もいます。農家同士の繋がりや情報も少なく、孤立して離農してしまうこともあるそうです。そうならないよう、このマーケットでは先輩農家さんが後輩農家さんをフォローしています。
「コミュニティ作り」で強力にバックアップ
農家の方は何と言っていますか?
毎週土曜日の午前中にマーケットを開催していますが、農家は前日や早朝から収穫やパッキングに追われ、準備に奔走しています。
でも、いま参加している農家の方々は「自分のためだけにマーケットに出ているわけではない」と言っています。雨の日も暑い日も、端境期で売るものがなくても、毎週一定数の農家が集まることで場を安定させ、次世代の農家へと続く売り場を作っていきたい、と。自分たちが売り場の開拓に苦労してきたからこそ、若い子に同じ苦労をさせたくないし、安定的な収入を得ることができる場に育てていきたいと言います。
また、それによって新規就農者も増えるのではないかと。私たち事務局もそこに強く共感しているからこそ、毎週のように朝市を開催しています。
結局、お客さまもそれを察して応援してくださり、お買い物に来てくれていると思います。
お客さんとも意識の共有があるのですね
理解ある消費者がいてこそ、農業は守られる。また思いの強い農家がいてこそ、私たちの食卓は守られる。お互い支え合っていこうという共通の意識を感じます。
また、昔から新しいものを受け入れ、震災も乗り越えてきた思いやりのある神戸なら、若い農家を応援する気風のある街になっていけるのではないでしょうか。
このマーケットは神戸市との共催です。飲食店、食物販店などの異業種、お客さま、そして行政も含めた、信頼ある骨太なコミュニティ作りを模索しています。
農家さん同士も仲が良いですね
最初は知らない者同士だったけど、毎週、雨でも寒くても力を合わせて設営や撤収をするうちに「一緒に頑張ろう!」という信頼が生まれます。
皆、自分の農法にプライドを持っていますが、それを超えて友達になり、お互いの畑を行き来したり、飲みに行ったり、苗や種を交換したり、技術を教えあったりしました。
それで、マーケットの野菜は質も量も底上げされています。
若い世代の「スタートアップ」の場に
大学生の方たちも参加しているのですか?
学生とディスカッションしたり、アルバイトに来てもらったり、10~20代がマーケットに参加できる仕掛けも作っています。卒論で農家にアンケートをとっている学生もいますよ。彼らも最初は農に興味がありませんでした。街づくりやマーケットに興味がある学生が多いのですが、農家と友達になることで自然と農業にも興味がわいたそうです。農家になりたい!と言う高校生や大学生も来てくれて、嬉しい限りです。
マーケットに出店していた20代のコーヒー屋さんが、お店を辞めて農家へ研修に行きました。別のコーヒー屋さんも貸農園を借りて畑をはじめて。「メッチャ楽しい」って言っています。この2人の変化は思わぬ副産物でした。
マーケットの規模を大きくしたい
出店数は増えているのでしょうか?
今のところ、売り上げはゆっくりですが右肩上がりです。次は、もう少しマーケットの規模を大きくしたいと考えています。だけど農家やお店だけでなく、お客さんも増えなければいけないので、そのバランスがうまく噛み合うと良いなと思います。
農家の方たちもお客さんも、私たちのコンセプトに共感してくれています。次世代のためにできることがマーケットには詰まっています。
写真提供:(一社)KOBE FARMERS MARKET
撮影:片岡杏子