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人と人、時代を農業でつなぐ、熊本県阿蘇の農業女子【農家が選ぶ面白い農家Vol.5】

鶴田 祐一郎

ライター:

連載企画:農家が選ぶ面白い農家

人と人、時代を農業でつなぐ、熊本県阿蘇の農業女子【農家が選ぶ面白い農家Vol.5】

いま、農家が会いたい農家に、農家自らがインタビュー! 農家による農家のラジオ「ノウカノタネ」のパーソナリティー・つるちゃんこと鶴 竣之祐さんが、熊本県阿蘇市の高菜農家、佐藤智香(さとう・ちか)さんの思いを徹底分析! 地域を代表する農家として活動する一人の若手農業女子に、その思いを聞いてみましょう!

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インタビュー希望のリクエスト最多! 「阿蘇たかな」の佐藤さん

つるちゃん

さて、「面白い農家」第5回は、熊本県阿蘇市の佐藤智香さんに出演していただきます。実は一番リクエストが多かったんですよ。特に4H(全国の若手農家組織)会員からの推薦が多くて、大人気なんですね!
いえいえ、そんなことないですよ。4Hクラブの全国大会で発表をして賞をいただいたので、そのときに知ってくださった方が多いのだと思います。

佐藤さん

そんなアクティブな発信者の佐藤さんですが、簡単に自己紹介をしていただいても良いですか?
はい、熊本県で高菜っていう野菜を栽培している佐藤智香、31歳です!(笑)高菜って九州ではすごく身近な野菜なんですけど、主に漬物として食される野菜で、その中でも熊本県阿蘇地域に代々伝わっている独特な伝統品種の高菜を栽培しています。漬物用の葉っぱだけじゃなくて、種まで採って、マスタードに加工して販売もしています。

高菜

阿蘇の伝統野菜「阿蘇たかな」

え? 高菜の文化って九州以外ではそんなに主流じゃないんですか!?(編集部注:つるちゃんは福岡在住)
そうみたいなんですよ。東の方では野沢菜が強くて……。西日本がメインみたいですね。小さい頃から高菜文化だった私としてはショックでしたね(笑)

九州では高菜99:野沢菜1くらいの割合ですけどね……。僕はそのショックを今感じています。
しかも、よそで作られている大きな高菜と違って、阿蘇たかなは収穫時期も一年に3日間と非常に短くて……

3日間!?
そうなんです。新芽の軟らかい時期に、茶摘みのように手でかいて収穫していくのでとても手間がかかってしまうんです。これが阿蘇たかなの特徴とも言えるんですが、夫婦二人でも1~2反(10~20アール)くらいが限界なので若い世代の農家で栽培しているのは私くらいで……。皆さん家々でちょっとずつ、自家採種した種で食べる分くらい植えてはいるんですが。

就農の経緯

高菜

恒例でゲストにお聞きしている就農経緯ですが、若い女性が農業をしているだけで珍しいのでとても興味深いです。元々家は農家だったんですかね?
そうです。祖父母の代では昔ながらの農業をしていて、父母は継がずに勤めていたんですが、家の畑でできた作物を食べて育ちました。父も兼業農家として頑張ろうとはしていたんですけど、私が二十歳くらいの時に亡くなってしまって。継ぐ人がいなくなっちゃったので、私自身も県外に勤めに出ていたんですけど、私でもできるかなぁと思って帰ってきました!

わりと珍しいタイプの就農経緯ですね。僕とほぼ同じなのですが(笑)
そうですか? きっかけとしては東日本大震災もありましたし、九州北部豪雨災害で阿蘇地域にダメージがあったのも大きかったです。自分が地元に戻って何かできないかな、と思っていて。
阿蘇と言えば広大な草原だと思うんですが、あの草原を維持するための野焼きなども地元農家がやっていて、阿蘇に戻るのであれば農業以外の選択肢は考えられませんでした。

阿蘇タカナードって何?

高菜

高菜の加工について聞きたいです。種を採ってマスタードにするって全然イメージができていないんです。
はい、一応名前があって、「阿蘇タカナード」っていうんですけど。名前そのままに阿蘇たかなのマスタードです。阿蘇たかなの種(※)と米酢とお塩のみで作っています。種の粒々とペースト状のマスタードが混ざっていて、自分たちで瓶詰めして販売しています。

※ 高菜はマスタードの原料であるカラシ菜と同じアブラナ科アブラナ属なので、同じような種をつくります。

それって高菜の風味するんですか?
するんですよ~! 食べたときはピリッと和辛子の辛みがあるんですけど、後から鼻に抜ける香りに高菜の風味が感じられるんです。食べ方として一般的なのはソーセージにつけることが多いんですが、熊本ならではの馬刺しとか(笑)

なるほど(笑)
白身魚の刺身にも合うし、ポテトサラダに入れたり……、あとはパンに薄く塗って、レタスなどの野菜を挟んで野菜サンドにしちゃうのが私は一番好きです。野菜とパンの間を上手に取り持ってくれるんですよ。

めっちゃ食いたい……。(この後すぐに購入しました)
そして何より素晴らしいのは、収穫期間がたった3日の漬物用阿蘇たかなを収穫した後に、花が咲いて採れる種を利用することで2度収益化のチャンスが訪れますね。伝統野菜を次世代につなぐためには最高の形のように思います。
そうなんです。自分で作っているだけじゃなくて、阿蘇たかなを作っている農家さんから材料として買い取っています。どうしても漬物用だとわずかな収入にしかならないので……。本当は漬物の阿蘇たかなでイノベーションを起こせればよかったんですけど。

阿蘇たかな祭り

高菜

楽しそうに阿蘇たかなを収穫する子供たち

2019年3月16、17日に、佐藤さんが会長を務める熊本の4Hクラブが主催する「阿蘇たかな祭り」が行われました。
阿蘇たかなの収穫体験をして、その場で漬け込んで持って帰れるとあり大盛況!
ほぼ告知をしないそうなのですが、来場者数は年々増加の一方で、今年も2日間で500人は超えているそうです。筆者も初めて参加してみました!

高菜

収穫が終わると漬け込み作業に皆さん必死!


高菜

慣れた様子でお客さんに漬け方指導をする佐藤さん

いやぁ盛況ですね!
本当に! 晴れてくれてよかったです!

宣伝せずにこれだけ来てくれるなら、宣伝したらとんでもないことになっちゃいますね。
そうですね。まだまだ阿蘇たかなに可能性はあると思っています。

熊本の4H会長の任期は終わりますが、このイベントもまだまだ続いていけば良いですね。
それなんですが、実は私、もう一期、会長をやらせていただけないかと迷っていたんです。

え? 自分の仕事とは別に役職の仕事が増えると大変でしょう?
はい。でも、私は会長として本当に自分のことに一生懸命になっていて、次の人に引き継ぐことをやっていなかったんです! もう一期やらせていただいて、次世代につながっていく形をつくりたいんです!

佐藤さんは、農業を通じて、「つなぐ」という意識を強くもっています。
祖父母の代まで続いていた農業をつなぐ。地域の伝統野菜を、若手農家を、ふるさとを次世代につなぐ。
本当は大昔から、「農業」というものは人と人をつないでいくための手段の一つに過ぎないものなのかもしれません。そんな生産性だけではない、本質的な農業の在り方を見出してくれる佐藤智香さんに今回はスポットを当ててみました。
佐藤さん、ありがとうございました!

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