農業を辞めるという選択 「アグリコーディネーター」という生き方【農家が選ぶ面白い農家#番外】

マイナビ農業TOP > 生産者の試み > 農業を辞めるという選択 「アグリコーディネーター」という生き方【農家が選ぶ面白い農家#番外】

生産者の試み

農業を辞めるという選択 「アグリコーディネーター」という生き方【農家が選ぶ面白い農家#番外】

連載企画:農家が選ぶ面白い農家

農業を辞めるという選択 「アグリコーディネーター」という生き方【農家が選ぶ面白い農家#番外】
最終更新日:2019年06月28日

佐藤智香(さとう・ちか)さん率いる熊本県阿蘇市の4Hクラブが主催する「たかな祭り」に伺った際、やたらと詳しく高菜の説明をしてくれる謎の男に出会いました。
彼の名前は宮本龍(みやもと・りゅう)。一流の農家でありながら、農家の道を捨て、アグリコーディネーターという生き方を選択した男に迫ります。

宮本さん
「たかな祭り」当日。忙しくお客様対応をしている佐藤さんになかなか取材ができない中、謎の男が高菜の解説をしてくれました。細かな栽培管理や生育状況、収穫にかかる手間からイベントの収支に至るまで、あらゆることを教えてもらいました。

つるちゃん

なんでこんなに詳しいんですか? 農家の方ですか?
まあ、私自身は農家でもあるというか、今は佐藤さんのコミュニケーションデザインをさせていただいている宮本龍と申します。

宮本さん

コミュニケーションデザイン?? 何をする人なんですか?

怪しい。横文字をぶつけられると眉間(みけん)がこそばゆくなってしまう筆者は、この宮本という男についていろいろ聞いてみることにしました。

何と言いましょうか。農業のネックになっている部分に介入させていただいて、上手く物事が進むように動いているというか、農家さんのサポートをさせてもらっています。

ああ~コンサルタントですね!
コンサルタント……とはちょっと違うと思うんです。言うだけじゃなくて農家さんと一緒に動きますし。一応「アグリコーディネーター」と呼ばせてもらっています。

アグリコーディネーター??
そうですね。行政と連携したり、新規就農者のアシストなんかもやったりしていますね。農家と一緒に伴走していくスタイルなので……。実際にやっていることを見ると、コンサルタントって言い方は適切じゃないよね、と言われます。

最近農家のネット界隈ではやりの「農家の右腕」みたいな印象ですね。
あ~!! そうそうそう! そんなイメージで捉えていただければと思います。ただ、僕の場合はリアル農家なので、栽培にも直接関わりますけど。

農業をはじめた経緯 ~「1億円稼ぎたい」

宮本さん

元々家は農家だったんですか?
そうですね。兼業ですけど農家でした。農業高校にも通っていて、将来は農業高校の教師になろうと思っていました。ただ、高校3年生の時に親父(おやじ)が亡くなって、いろいろなことが起こってしまって大学に行けなくなり、農業大学校に進学しました。

とんでもないことになっちゃいましたね(詳細は割愛。もし宮本さんに会う機会がありましたらぜひ直接聞いてみてください)。そして、農業大学校を出てそのまま農家に?
いえ、そうではないんです。大学校を出るときには、農業高校の臨時採用は決まっていて、ただ、私農業大学校では学生会長をやっていたんですが、農業関連の合同説明会の時に、ある一人の農業法人の社長さんに声をかけられて、「お前は一体何がしたいんや」と問われたんです。

宮本さん

宮本さんに何か感じるところがあったんでしょうね。
どうでしょう。何がしたいかと問われたとき、私は「1億円稼ぎたい!」と答えたんです。突拍子もないようなことですが、漠然と農業の良さを広く伝えたい、という気持ちがあり、その実現のためにも、“億”稼いでスポーツ選手のように憧れられなければならない、という具体的な目標が当時の私の中では成立していたんですね。
すると社長が「農業高校行っても1億円稼げんぞ」と言われて「ええ!? そんな!」と素直に思いました。すぐに農業高校の校長に電話して、「校長でも1億円もらえないんですか?」と聞いたら「もらえない」という回答だったので、臨時採用が決まっていた農業高校は蹴って、実際に稼いでいるその社長のところで修行するようになりました。それから365日朝から晩まで農業漬けの日々ですね。

すごい行動力ですね。それだけビジョンが明確だったということでしょうね。
そこで2年間修業してから、自分の農地で、ミニトマト農家として独立しました。狭い面積で稼ぐには当時ならミニトマトだと考え、ひたすらに頑張りましたね。栽培はもちろん、販売も、ほとんどBtoB、法人同士の取引でした。

農業を辞めるという選択 ~「空っぽな自分」を知った

めちゃくちゃ順調な農業ライフじゃないですか!
そうなんです。順調だったんですよ。変化が起こったのは、熊本地震の後です。
地震そのものもですが、震災というのはいろんなところに影響が表れてしまうもので、生産物を供給できなくなったんです。
でも卸先は全然待ってくれなくて……。「そんなの作り手の問題でこっちには関係ない! 他の頑張れている会社もあるだろう」って売掛金も回収できないような状態になってしまい……。そこからは裁判沙汰で。

言葉になりませんね。
裁判には勝って、まとまったお金は残ったんですが、母は元々会社経営のように農業をすることを良く思っていなくて、妻にももう付いていけないと言われ、本当にお金だけが手元にある状態に陥って。何してるんだろう、って考えるようになりました。

正直、作り手に責任を押し付けるのは人間社会の常だと個人的には思います。とても歯がゆいですね。取引先もつらかったのでしょうが、本当につらいとき、はけ口にされてしまうのは社会構造の末端、基盤のところになるんだろうなと思ってしまいます。
そんなときに、地元の4Hクラブで、佐藤智香さんと出会いました。佐藤さんと出会って、私は薄っぺらい人間だったんだなと気が付きました。薄っぺらというのは、中身がないというか。よくよく考えてみると、ミニトマトを作る理由もなかったですし、農業をしている理由もなかった。
「私のトマトをなぜ食べないといけないのか」の説明なんてできなかったんです。佐藤さんは自身の生産物を食べるべき理由を全部説明できます。

それまでの宮本さんの農業は、いわゆる1億円稼ぐための手段ではあったんですけどね。お金を集めるための活動だったから、そういう関係を築いてしまっていたということでしょうか。ただのWIN-WINの関係は、どちらか一方でも利益があると感じられなくなるときに成り立たなくなるのは道理ですね……。
じゃあ、そうではない「モノづくりの本質」って何だろうって思います。
やっぱりね、「思い」ですよ。ふるさとを守りたい、とかの、ソーシャルな思いがないのにモノづくりしていても、それに後から色を塗ってごまかさなくちゃいけない。私が販売していたとき、農作物で誰かを幸せにしたいとかいろんな言葉で飾ってはいましたが、本音のところは空っぽだったと思います。それに気づいたとき、農業を辞めました。

なるほど。それならば、継続的な収益を生み出す能力を、他人の思いを達成させるために使おうという発想に至った訳ですね!
新規就農者にとっては「収益化」の部分が最優先なのは間違いないですが、これからの農業には、「共感」されることが非常に重要になってくるように感じています。
佐藤農園で私が実際にやっていることは、佐藤農園に頻繁にやってくる取材や行政からの問い合わせ窓口になったり、ギャラ交渉したりブランドイメージをどう構築するかを話し合ったりといった内容が主なのですが、実はこういう仕事って農家が一番嫌うところなんですよね。目の前の仕事に集中していると、電話にも出たくない気持ちは農家なら分かると思うんです。でも、それではなかなか思いが社会に広がっていきません。私が中に入ることで農家個人が持っている思いを、スピード感を持って、最大限社会に共感させることができると感じています。

共感されるかどうかということは、確かに、農業のみならず、これからの社会において大きな価値となり得るのではないでしょうか。
アグリコーディネーターという生き方。一つの新しい農業へのかかわり方を見せていただきました。
宮本さん、ありがとうございました!

関連記事
一株でピーマン900個収穫! 化学農薬に頼らない環境制御栽培【農家が選ぶ面白い農家Vol.4】
一株でピーマン900個収穫! 化学農薬に頼らない環境制御栽培【農家が選ぶ面白い農家Vol.4】
いま、農家が会いたい農家に、農家自らがインタビュー! 農家による農家のラジオ「ノウカノタネ」のパーソナリティー・つるちゃんこと鶴田祐一郎(つるた・ゆういちろう)さんが、愛知県稲沢市、近藤園芸株式会社の近藤淳司(こんどう…
人と人、時代を農業でつなぐ、熊本県阿蘇の農業女子【農家が選ぶ面白い農家Vol.5】
人と人、時代を農業でつなぐ、熊本県阿蘇の農業女子【農家が選ぶ面白い農家Vol.5】
いま、農家が会いたい農家に、農家自らがインタビュー! 農家による農家のラジオ「ノウカノタネ」のパーソナリティー・つるちゃんこと鶴田祐一郎(つるた・ゆういちろう)さんが、熊本県阿蘇市の高菜農家、佐藤智香(さとう・ちか)さ…

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

カテゴリー一覧