75棟のハウスでコマツナ・ミズナ栽培 多角経営を超スピード展開する20代若手農業者【農家が選ぶ面白い農家Vol.6】

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75棟のハウスでコマツナ・ミズナ栽培 多角経営を超スピード展開する20代若手農業者【農家が選ぶ面白い農家Vol.6】

連載企画:農家が選ぶ面白い農家

75棟のハウスでコマツナ・ミズナ栽培 多角経営を超スピード展開する20代若手農業者【農家が選ぶ面白い農家Vol.6】
最終更新日:2019年10月30日

いま、農家が会いたい農家に、農家自らがインタビュー! 農家による農家のラジオ「ノウカノタネ」のパーソナリティー・つるちゃんこと鶴田祐一郎(つるた・ゆういちろう)さんが、20代で大規模施設園芸を経営しながら、飲食事業、スポーツ事業と次々に多角的な取り組みを展開する若手農業者の農園を体感してきました。コマツナとミズナの栽培から、雇用の実態、6次産業化の流れまで徹底分析します!

福岡県久留米市に軟弱葉物を生産するすごい若手農業者がいると聞いて、やってきました。
コマツナやホウレンソウ、ミズナ、シュンギクなどの葉物野菜のことを、業界用語で「軟弱」と呼びます。これは流通、販売時に傷みやすいことから発生した言葉ですが、おおよそ同じ設備で生産できるため、生産者も一まとめに「軟弱農家」と称します。
その特徴から、都市近郊、消費地の近くで生産されることが多く、ここ福岡県も大産地の一つです。
そんな中でも一際異彩を放つ新進気鋭の若手農業経営者である、エイチアイ株式会社の稲吉久徳(いなよし・ひさのり)さんを訪ねました。

スピード勝負! コマツナ・ミズナの栽培について

コマツナ、ミズナ

コマツナ播種(はしゅ)後10日頃のハウス

つるちゃん

ここがメインのハウスですか。
いえ、ここは去年建てた15アール分のハウスです。

稲吉さん

今も規模拡大されてるんですね! 毎年15アールも増築していってるんですか?
いやいや、拡大規模としては去年が一番小さかったですね。今年は30アール増やしますし、最初は一気に80アール建ててますし。

ええ、すごい規模ですね。全部でハウスは何棟あるんですか?
全部で75棟あります。施設は計2.2ヘクタールで、他に露地が2ヘクタールと、冬期のみ作付けする露地でもう2ヘクタールあります。

コマツナ、ミズナ

ミズナのハウス。さまざまな成長ステージのコマツナとミズナのハウスがあります

年中種まきと収穫を繰り返すハウス栽培での軟弱葉物。単価が高いものではないので、生育のスピードを生かした高速回転が経営の肝になります。

コマツナ、ミズナ

収穫時期を迎えたコマツナ

種まきは毎日しているんですか?
今の時期(9月下旬)は毎日ですね。暑いときはすぐに育って生育日数30日程度と短いので、余裕をもって作付けできますけど、寒くなると生育が遅くなるので、収穫した当日にハウスを片付けて、肥料入れて耕して、すぐに種をまきます。年間7作の作付け体系ですね。

その日のハウスは激動ですね。朝はハウスいっぱいに広がっていたはずのコマツナが全部奇麗になくなって、夕方には次のコマツナの種がまかれて水やりされていることになりますね。

コマツナ・ミズナの収穫

収穫・調整作業が軟弱栽培でもっとも大きく労力を割かれる部分だと思うのですが、一棟のハウスで野菜を取り終えるのにどのくらいかかりますか?
そうですね。一棟の規模も同じではないので一概には言えませんが、だいたい3人で入って1日で終わらせます。

コマツナ、ミズナ

コマツナを抜き取って収穫します

コマツナ、ミズナ

根を切り取って土を落とし、一束が約220グラムになるよう計量します

コマツナ、ミズナ

その場で袋詰めして完了! お見事

ベトナム人研修生の収穫作業は、とても素早く丁寧です。1時間あたり140袋が仕上がっていくということで、熱心に働いてくれているようです。

▼素早い作業の様子を動画で見てみよう!

コマツナ、ミズナ

ミズナの収穫作業

経営を潤滑に回転させる雇用形態

従業員は結構多いんでしょうか?
そうですね、農業部門だけで言っても男性が4人、収穫作業をしてくれている女性のパートさんや研修生、事務員も全部合わせて10人以上いますね。
それから農福連携で、障害者の方にも仕事を回せるようにしています。収穫自体は難しいでしょうが、私たちが雑に畑から切り出したものをコンテナに詰めて施設に送り、そこで調整作業(出荷できる状態にすること)をしてもらっています。

ベトナム人研修生

僕が一番大事にしたいことって、やっぱり楽しく働いてほしいっていうところなんですよね。毎年一緒に旅行にも行っていますし、ベトナム人研修生も、研修期間が終わって帰国してもまた会社に戻って来るくらい楽しんでくれています。仕事はもちろん暑い中大変ですが。
今度彼女たちが帰国するときには現地に仕事を作ってやれるような形にできたら最高ですね。

海外展開も視野に?
もちろん。近いうちに進出する考えはあります。

コマツナ、ミズナ

研修生が自慢気に見せてくれた、自社ロゴの入った高級感あるパッケージ。美しい荷姿です

軟弱葉物は、冒頭に書いたように流通に不向きであるため現地生産が原則の作物です。
もしかすると彼女たちが将来、エイチアイ株式会社ベトナム支社の農場長になっているかもしれませんね。

農家レストラン「CROSS~農家の食卓~」として6次産業化

コマツナ、ミズナ

稲吉さんが経営する飲食店、“CROSS”の外観

エイチアイ株式会社の経営は、農業だけにとどまりません。
6次産業化にももちろん着手しており、これがすばらしいクオリティーです。まず立地から伝わる本気度が違います。久留米市市街地の中心地にあるアーケードに農家レストラン「CROSS(クロス)~農家の食卓~」はあります。

コマツナ、ミズナ

おしゃれな外観だけではなく、筆者も実際に食事してみましたが、本当に単純にオススメです!

コマツナ、ミズナ

サラダバーの圧倒的クオリティー

まずこのサラダバーです。自社農園で取れた新鮮な野菜と、近隣農家と連携して産地直送で仕入れた食材をふんだんに使用しており、サラダバーで満足してしまうくらい盛りだくさんです。
近場にあればサラダバーを食べ尽くすためだけにでも通いつめたいレベル!
とにかく野菜がおいしい!
今後は全国各地で知り合った農家の人たちと提携しながら、店舗数を増やしていきたいと考えているそうです。

農家レストランCROSS

日替わりランチは肉か魚を選択できます。こちらは魚コースのメインディッシュ

農家レストランCROSS

コマツナアイス。コマツナの風味を生かすために試行錯誤された会心の一品です

料理長は和食の修行を積んできた本格派で、野菜との相性がよく考えられたとても満足度の高いつくりになっていました。
筆者は久留米を訪れる際にはまた必ず寄ることになるでしょう。

やらない後悔よりもやってみて後悔したい

稲吉さん

稲吉さんは、農業を中心に飲食店の経営をするだけでなく、学生時代から続けてきた柔道家として(あの強豪・国士舘大学の柔道部出身です)、柔道選手の育成、彼らが柔道に打ち込める環境をつくるための事業も手掛けています。
このガッチリとした体形は柔道から来ているのですね。
スポーツ団体に属する選手が競技だけで稼ぐことはなかなか難しく、選手自身がアルバイトで生計をたてながらの活動になってしまうのが現状です。しかし、農業事業も手掛ける稲吉さんならば、チームを優先する農場での雇用を用意することができます。

稲吉さんはまだ20代の若さですが、これだけのスピードで投資し続けてきて、怖いと思うことはありませんか?
お世話になっている先輩がたは、投資するだけする、金は借りられるだけ借りるという考え方をしていて、私自身も就農当初に怖さはありませんでした。
大学卒業と同時に先代の父が亡くなって、すぐに継がなければなりませんでしたが、研修先も周りの先輩農家も大規模に事業展開されていて、迷うことなく初年度から飛ばしていきましたね。

ただ、飲食店を立ち上げたときなんかは、朝起きたときに“俺、相当やっちゃってんなぁ”とふと怖くなったこともあります(笑)
人間なので、気分の上下は当然ありますよね。でも気分が上がっているときにどれだけ前に進められるかじゃないですか?

稲吉さん

取材中、稲吉さんは何度も「やらないで後悔することがないように」と言っていました。思いついた楽しそうなことをスピード感を持って実行できるかどうかがすべての分かれ道なのかもしれません。

CROSS~農家の食卓~

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