小規模農家の現状
開発のきっかけは、大矢社長と明石農園との出会いだったそうです。
「無肥料・無農薬の明石農園では、土力を上げるために大豆を作っていますが、できた大豆を流通させることが難しい状況でした。その理由は選別の手間です。一定の規模を持つ農家は、選別機を購入するか農協で選別してもらいますが、明石農園のような小規模農家は農協に卸せず、選別機も高額なため、全て目視と手作業で選別していました。
農水省の基準である色や形、被害粒の混入割合などから3等級に選別する作業は手間がかかります。
作業に時間を費やせない農家は、肥料として土に戻してしまったり、成長途中で収穫して、枝豆として販売しているそうです。
ところが、私が明石農園の大豆を食べさせてもらったところ、深い味わいがあり、一般流通しないのが勿体ない程おいしかったんです。
明石農園では、固定種という何世代にも渡ってその地域で受け継がれた種を使い、その年に一番出来の良い大豆の種を取って栽培を繰り返す「自家採種」にこだわっているため、独特の風味がありました。
小規模農家の収量に見合う、低価格でコンパクトな選別機があれば、おいしい大豆を販売できるようになるかもしれない。地域の特産品として大豆が普及すれば、農家や地域の光となるかもしれない……。そう思い、開発を決意しました」
大矢さんは、地元の町工場の若者が集う「高津工友会青年部」で協力者を募ることに。大矢さんの熱意に渡辺製作所とヒラミヤが賛同し、大矢製作所と3社で開発が始まりました。
横田式選別機で収量が5倍に!
開発を始めると、明石農園の園主・明石誠一(あかし・せいいち)さんから、既に選別機を手作りして完成させている農家がいるらしいとの耳より情報が届きました。
噂の凄腕農家は、横田農場の横田茂(よこた・しげる)さん。日本でも有機農業が盛んな町として知られる埼玉県・小川町で野菜を栽培しています。ご自身も大豆の選別に苦労しており、ベニヤ板で試しに作ってみたところから始まったそうです。
以前は木工屋として働いていたことから、市販の選別機を見てその仕組みは大体理解できたそうです。良い豆と悪い豆を選別する機械はすぐに作れたそうですが、大きさを選り分ける仕組みづくりに苦労し、なんと2年がかりで完成させたのだとか。完成された横田式選別機の仕組みを見せてもらうと、実にシンプル且つ実用的な仕組みでした。
まず、奥のハンドルをくるくると回しながら上部の投入口から大豆を入れます。すると、大豆が水色のシートの上を移動し上っていきます。絶妙な傾きによって、形が悪い大豆は上手く転がらない仕組みになっており、良い形のものだけシートを上っていきます。シートの上に移動した大豆は側面に付いているドラム型に入り、ふるいにかけられて大小3種類に分けられます。
この選別機を作ったことで、横田農場の大豆の収量は5倍になったといいます。
目視と手作業で選別をしていた時は30kgの大豆を選別するのに1日がかりで、年間300kgの出荷が精一杯だったそうです。この選別機が完成してから、30kgの選別は30分でできるようになり、今では1.5トンを近隣の豆腐屋や醤油屋に卸せるまでになりました。
「どこかに選別を依頼すると、手数料と輸送費がかかるんです。1.5トンの大豆を軽トラックで運ぼうとすると、5台借りるか1台で5往復しなければならない。自宅で選別できれば、コストも時間も削減できます」
小川町の在来種である「おがわ青山在来大豆」は、豊かな甘みと高い風味でファンも多く、今では1.5トンでも需要に追い付かないのだとか。
選別のハードルを超えることで農家の販路が一気に広がることが分かります。
農家に優しい機能
横田式選別機を金属で再現し、安価でコンパクト、かつ高精度の選別機開発に取りかかった開発チーム。最も苦労した点は、作り手と使い手の目線の違いだったそうです。
例えば大豆を落とす作業。横田式はハンドルでくるくると回す手動式のため、開発チームは農家が機械から離れられず不便だと感じたのですが、横田さん曰く「電動にすると電気が必要になる。場所を選ぶし移動が出来ないから手動の方が不便」なのだそうです。
使い手の立場を知るために、横田さんや明石さんに実際に使ってもらいながら、何度も試作を繰り返しました。
3回の改良を経てようやく「プロトタイプ3号機」が誕生しました。横田式を踏襲しつつ、駆動に手動と電動と取り付け、使い勝手を選べるようにしました。
また、選別台の角度を調整できるようにし、転がりの様子を視認しながら角度調整ができるように。在来大豆の様々な形状にも対応できるそうです。
基本的な消耗品はホームセンターで購入できるものを多く採用し、農家自身でメンテナンスができる仕様にするなど、プロの技術が結集されています。
動画提供:大矢製作所
報酬は「大豆」!選別代行サービスも
大矢さんは、農家が気軽に大豆を作付できる環境を提供しようと、選別機開発の傍ら大豆農家から大豆を預かり、自分たちで選別をする「選別代行」もはじめました。その報酬はなんと大豆。送料のみを農家負担とし、選別手数料は送ってくれた大豆の15%を頂く“物々交換制”にしました。
その背景には、国産大豆の自給率を上げたいという、大矢さんや横田さんの思いがありました。
「日本の大豆自給率は7%です。 (平成27年度 農水省調べ) 食の安全が叫ばれるなかで国産大豆が普及しきれないのは、選別など農家の負担が大き過ぎるからです。私どもが報酬で手に入れた大豆を、大豆卸しの方が町の豆腐屋さんや味噌屋さんに卸してくれていますが、在来大豆で作った豆腐はやはり評判だそうで、豆腐屋さんも特色が出せるので喜んでいると聞きます。
こうした拡がりは大豆加工ユーザーや消費者の大豆への価値を見直すきっかけにもなると思っています。大豆の価値が見直されて取引価格があがれば、農家の作付け意欲も増しますし国産大豆の自給向上に繋がると考えています。
農家の負担を軽減するために、ひとつは選別機を購入して使ってもらうことがありますが、購入できない農家は選別代行でサポートできればと考えています」。
選別機で雇用創出も期待
完成を前にして、開発のきっかけとなった明石農園の明石誠一さんに話を伺いました。
大矢さん達の選別代行を活用し、既に大豆の畑を広げ、量産することができているといいます。
「今は大矢さんが本業の合間を縫って選別代行まで請け負ってくれていますが、選別機が普及すれば地域の人に作業を依頼できるかもしれない。大豆選別機には収量アップ以外にも色々な可能性を感じています」
一方、大矢さんも選別代行をする中で新たな希望を感じているといいます。
「物々交換制にしたことで、私の手元にはいまたくさんの種類の大豆があります(笑)。今年は総量3トン、8品種の在来大豆です。こんなに種類があったのかという位たくさんあって、味わいも様々です。十把一絡げに“豆腐は安くなければ売れない”という概念を変えて、豆腐の価値を上げていくことはできるんじゃないかと思います」。
現在は関東圏の農家のみに行っている選別代行ですが、今後は地域の各施設と連携するなど工夫をして、全国に拠点をおきたいそう。
農家の手間を削減するために開発された選別機が、地域や農家の未来を照らす光となるかもしれません。
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大矢製作所