インドの伝統医学で重要な食べ物、ギー
──ギーというのは日本ではなかなか珍しいですよね。
鈴木: そうですね。もともとバンクーバーで暮らしていて、日本に戻ってきたらギーがなかったので、「ああそうか」という感じでした。
──ギーを作るきっかけはどんなことだったのでしょうか。
鈴木: 出産を機にかなり体調を崩してしまったことです。今までにないほど体力を失った実感があり、さまざまなことを試すうちに食事の見直しを考えました。これまでも、ベジタリアンやマクロビなどいろいろな食べ方をしてきましたが、そこでアーユルヴェーダというインドに伝わる伝統的医学に着目して、そこで重要とされているギーをもう一度食べるようになりました。
──当時はこの商品「満月のGHEE」は誕生する前ですよね。
鈴木: そうなんです。だから、当時はバターを煮詰めて作っていました。けれど、作るのは大変だし、市販のものをいろいろと試しても質感や風味がなんだか違った。「欲しいものがない」と夫(中原さん)に言ってみたら、「作ればいいじゃない」と。
中原: だって大変そうだったからね。ギーを作るには40分くらい火を見ていないといけないんですよ。それに、当時子供が生まれたばかりで、子育て以外の楽しみな目標ができるのはいいことだと思ったんです。
鈴木: 私は、「言われちゃったなぁ」と思いました。(中原さんが)クリエイティブディレクターの仕事もしているので、「やっぱり言うか」って。
──うれしくなかったんですか?
鈴木: うれしかったですよ!
中原: あ、そうなんだ(笑)
酪農家さんに放牧をお願いするまで
──放牧している牛からとれたミルクでギーを作っているんですよね。
鈴木: そうなんです。子育てをして母乳をあげていると、ミルクを出す牛さんにも親近感が湧いてきてしまって。牛も幸せでないと、それを食べる私たちは本当の意味で健康になれないのではないかと思ったんです。
中原: 子育て中の鈴木に代わり僕が酪農家さんを訪ねて回りました。はじめはインターネットで探しましたが、なかなかうまくいかず、出身の岡山県の県庁の方に紹介していただいた農家さんにほぼ突撃という感じで直談判したのです。それが今一緒にこの「満月のGHEE」を作ってくれている山本英伸(やまもと・ひでのぶ)さんです。ストーリーや高付加価値のものであることに共感してくださって、前向きに検討してくださることになったんです。最後に意を決して「放牧でやってみたいんです」とお願いしたら、とても喜んでくれました。
──実際に放牧が開始された時、どうでしたか?
鈴木: 放牧開始は2018年の9月だったのですが、それはもううれしかったですよ。その時のムービーも撮ってあるのですが、牛も最初はおっかなびっくりだったのが、だんだん自分たちの思いのままに歩き始めて。
中原: 会社員がフリーランスになった時のような感じですよね。
──商品の「満月のGHEE」という名前も放牧に由来しているのですか?
鈴木: 満月という言葉に、“女性性”のイメージを込めて私がつけました。放牧されている幸せな牛さんの上には満月が浮かんでいるんだろうなぁというイメージもありましたね。
多角的な視点を持ったメンバーが商品を見つめること
──同じように加工品を作ろうとする人に、何かアドバイスなどがあれば聞きたいです。
中原: 僕らがよかったことは、このプロジェクトを、酪農家の山本さん・鈴木・僕の異なった立場から見ていることですね。鈴木はウェルネス、僕は企画やデザインやマーケティング、山本さんは酪農。
鈴木: この3人のそれぞれの背景には、他の人にはない知見や経験がある。それを合わせてみたらこんなことができました、というのがこの商品だと思っています。
中原: 実際の製造工程としても、僕と鈴木がブランディングとマーケティング、酪農家の山本さんが生産ときれいにわけられていて、その上でコミュニケーションがとれています。
鈴木:でも実際は、私たちのような出会いが起きるのってあまりないことなのだろうと思います。なので、これから何か商品を作るには、そういうコラボレーションをどんどん起こすことが大切なのではないかと思います。
──なるほど。実際の経験から、お二人のようにアイデアを持ち込むのも良いと思いますか?
鈴木: そうですね! 実感としては、ありなんじゃないかと思います。
中原: 僕らも相当なリサーチをしました。少なくとも自分たちでできる限りのリサーチをするのはもちろん大前提です。生産者さんと一緒にコラボレーションを起こすには、リスペクトしあえる間柄を保っていかなければならないというのは、僕らが日々思っていることですね。