「新春座談会『女性と農業』 Vol.1 女性は売るのが上手ってほんと?」では、「女性は消費者目線を取り入れるのが上手」と言われる理由について、また、女性の経営参画が業績を上げる理由について様々な角度から分析がありました。
今回は、それぞれのどのように「女性の視点」を農業経営や商品開発、ブランディングに生かしているのか、具体的な取り組みに話が進みます。
「ライフスタイルを売っている」
倉石: では、具体的にはどのように「女性の目線」を商品開発に生かしているのですか?
三浦: 私は何か売られている場所に行ったら一通り見ますね。地方に出張に行ったら、その地域の百貨店を必ず見て、どこで何がどのくらいの価格で売られているのか、何が今流行っているのか情報収集します。今の時代はとにかくスピード感。SNSで誰かが「これいいよ」って発信とたんバーンと売れることもある。パクチーとかも今やレギュラーの野菜として使われるようになっているし。そういうスピード感をキャッチできるのが百貨店で、いい市場調査の場ですね。
大津: 私は真逆で、百貨店に入るだけでクラクラする(笑)。子供のトイレとかでは入りますが、人が多すぎてダメ。二極化ではないですが、私が目指しているものの根本には、子供に美味しいものを食べさせたいというところがある。日本はマスメディアや広告代理店がマーケットを決めている。生き方やライフスタイルの提示までできてしまう状態。それはそれでいいけど、そのスピードの速さに疲れてきている人もいるのではないかと思うんです。
倉石: えりさんは講演をすると必ず売ってくるというお話もありましたよね。
大津: 農業を軸にしたこんな生き方もアリだな、という共感を持ってもらえているのかなと思います。うちの場合は北海道から沖縄までの個人のお宅に産地直送でお届けしています。それで、たぶん農家としては珍しいケースだと思うのですが、うちのおコメを食べていただいている方の半分以上は直接知っているんです。顔もお名前もわかるので、アナログなお付き合いなのですが、手書きのメッセージをいただいたりこちらも毎月こんなことがあったとお便りにして最後に必ず手書きで一言書いてお送りしています。とても関係が近いんです。
現在は平均して月々150のお宅に送っていますが、それで子供4人を育てていける。だから、それぞれの農家さんに100~200件のファンがついていれば農業だけで生活してやっていけますよということをつらつらと通信に書いています。そんな基本的な生活の様子を伝えていて、それに共感してくれている人が買ってくれている。商品開発はしていないけれど、ライフスタイルを売っているという感じです。
売れ行きを追う「男性的視点」と、商品を広めたい「女性的視点」と
倉石: 消費者も多様化しているので、お客さんに合わせてどのようなことが刺さるのか、様々な売り方がありますね。澤浦さんのところでは、女性が商品開発をした商品がヒットしているとお聞きしました。
澤浦: いま、商品開発専門の女性は3人くらいいて、やはり彼女たちが作っているものは売れていますね。特に「糖しぼり大根」はうちの大ヒット商品で、今の開発部長の女性がパートで来てくれていた時に家から持ってきた漬物を商品化しました。
ただ、どう売っていくかには苦労がありました。いろいろなお店に置いたんですが全然売れなくて。試食では「美味しいね」というが手に取らないんですよ。なんでだろうと考えて、やっぱこれ伝え方だよな、と。どうやって漬けたのか商品の特徴や背景を伝えなくちゃいけないと考えました。パルシステムでの取り扱いが決まったことで、パッケージではうたえなかった商品の特徴や背景を伝えることができて大ヒット商品になりました。
ちなみに、ここ数年で一番売れているのが高知のあるスーパーなんですが、漬物売り場の女性店員がいろいろと工夫をしてくれたことで売れるようになったんです。先ほどもお話がありましたが、いいものを作るだけじゃなくて、商品の背景といった情報やお店の人がどう売るかという売り方まで工夫しないと、商品は動かなくなっていることは実感しています。
倉石: どう伝えるか、どう売るかということでも、女性が力を発揮しているんですね。
澤浦: そうですね。だから、「糖しぼり大根」はいろいろなところから置きたいと声がかかるけど、一気に大量に売りたいチェーン店は断ってしまうんです。戦略的にやらないと売れませんよと言っています。戦略的に、売れ行きを追いかける男性的視点と、もっと広めたいという女性的視点が必要だと感じます。
ポップ広告は100通り「服装もメイクも接客方法も使い分けます」
倉石: 三浦さんは消費者との距離が近い規模で生産されているのかなと思うのですが、消費者に「届ける」という点はどう考えていますか?
三浦: 考え方はまったく同じですね。結局押し売りするものではないので、選んでもらえることが大事。弊社にはフラッグシップの「美容トマト」以外に10種類くらいの商品があります。その中で、この地方のこの場所の消費者に刺さるものは何なのか、どうやってストーリーを組み立てると刺さるのかを常に考えています。自分で試食販売を行うこともありますが、生産者と消費者が近いというのはメリットがあって、消費者はこの値段を高いと感じるのか、とか、パックの取り方一つでも「このパックは手に取りにくいのかな」「中が見えにくいのかな」と現場でしか拾えない情報があります。ですので、試食販売は常に私だけでなくてスタッフも連れていくようにしています。
倉石: 例えばスーパー向けの商品と富裕層向けの商品を分けるのに、どのような工夫をしているのですか?
三浦: スーパー向けは、百貨店向けとお買い物に行くときのお客さんのモチベーションが違うので、カジュアルに提案しています。例えば「子育て中のママに安心安全なものを届けたい」というコンセプトで、パッケージはカジュアルなトマトちゃんのイラストだったりします。うちは安心安全にもこだわっているという説明を前面に出します。逆に百貨店で「安心安全を前面に出しても刺さらなかったりするので、どこにどう出していくのかは市場調査が必要ですね。
倉石: 消費者の設定から、商品を作りどう売るかまで細かい設定が必要ですね。
三浦: 商品のポップ広告も100パターンくらい作っていて、接客するときの服装もスーパー、百貨店、直売所と場所によって全部変えますね。例えば直売所では農業者っぽい服装の方が親近感を持ってもらえるんです。メイクも接客方法も、カジュアルか上品か全部使い分けています。
倉石: 圓地さんも、決算書の調査だけでなく、実際に農家を訪問して聞き取り調査もされたとお聞きしました。商品開発以外にはどんな場面で女性が活躍していましたか?
圓地: そうですね、お話にでてきたように、女性の場合商品にストーリー性を持たせるようなところも得意かと思いました。消費者にどういう形で製品を届けるのかというイメージがついている方のお話は具体的で面白く、かつそういった農家さんの商品は売れている。スピード感と臨機応変さが求められる時代なので、細かな商品の設定に女性が力を発揮している印象ですね。
Vol.3は、子育て世代を含む女性の定着率を上げるための、具体的な工夫について語ります!
託児所から交換日誌まで、試行錯誤の末にたどり着いたそれぞれのスタイルとは…。
【2019新春座談会「女性と農業」】
2019新春座談会「女性と農業」 Vol.1 女性は売るのがうまいってほんと?
2019新春座談会「女性と農業」 Vol.3 定着率を上げるための工夫と環境づくり
2019新春座談会「女性と農業」 Vol.4 家族にとって幸せな農業は?
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