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2019新春座談会「女性と農業」Vol.1 女性は売るのが上手ってほんと?

2019新春座談会「女性と農業」Vol.1 女性は売るのが上手ってほんと?

女性は農業就業人口の約半数を占めています。また、女性が農業経営に参画することが収益や利益率を向上させるという調査結果もあります。一方で、2015年の農林業センサスによると、農業における女性経営者は全体の6.7%。日本の農業界で女性たちはいま、どのように強みを生かし活躍しているのか。また、女性が自分らしく活躍できる環境は日本の農業をどのように変えていくのか。各方面で活躍される4名が、「農業と女性」を出発点に、農業の未来を語り合います。

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今回の座談会参加者のみなさん

澤浦彰治さん ◆澤浦彰治さん(群馬・昭和村)
グリンリーフ
群馬県利根郡昭和村で農家の長男として生まれる。社員の7割、役員の半数を女性が占める、農業生産法人グリンリーフ株式会社など農業関連法人4社の代表を務める。2016年8月に、農業法人でははじめての試みとなる事業所内託児所を開設。著書に「小さく始めて農業で利益を出し続ける7つのルール―家族農業を安定経営に変えたベンチャー百姓に学ぶ」「農業で成功する人 うまくいかない人――8つの秘訣で未経験者でも安定経営ができる」

三浦綾佳さん ◆三浦綾佳さん(茨城・水戸市)
グリンリーフ
ドロップファーム
広島県出身。妊娠・出産をきっかけに、2013年にフルーツトマトを栽培・販売する株式会社ドロップを創業。栄養士・野菜ソムリエプロの資格を生かし、トマトの生産・ブランディング・販売を担う。平成28年度「農業の未来をつくる女性活躍経営体100選」に選定される。子育て世代の女性が働きやすい環境を追求し整えながら、人材育成も含め女性がキャリアアップできる職場を目指す。

大津愛梨さん ◆大津愛梨さん(熊本・南阿蘇村)
02ファーム
ドイツ生まれ東京育ち。4児の母。慶応大学時代に熊本出身の夫・耕太さんと出会い結婚。その後二人でドイツの大学院で「持続可能な農業」を学ぶ。阿蘇の農家代表としてイタリアの国連食糧機関で行われる会議でプレゼンテーションを行い、阿蘇の世界農業遺産認定に貢献。日経ウーマン「ウーマンオブザイヤー2008」のリーダー部門受賞。NPO法人「田舎のヒロインズ」理事長。再生可能エネルギーの事業にも取り組む。

三浦綾佳さん ◆圓地隆夫さん (日本政策金融公庫 農林水産事業本部 情報企画部)
02ファーム
レポート:「農業経営における女性の存在感強まる 収益増にも寄与」
日本政策金融公庫で、農業経営における女性の活躍についてのレポートを2016年に発行。農業経営の観点から、農業における女性の活躍について独自の聞き取り調査にも参加。

倉石真理 ◆倉石真理 (マイナビ農業編集長)
マイナビ農業

それぞれの立場から、女性の活躍できる農業を実践

倉石: 本日ファシリテーターをつとめさせていただきます編集部の倉石といいます。よろしくお願いいたします。

澤浦: 群馬で農業をやっています。生まれも育ちも群馬の箱入り息子です。昭和の時代は家族で両親と自分で農業をやっていて、平成に変わるころ、家業が立ち行かなくなったことをきっかけに直接販売を始めて今に至っています。現在はグループ5社の代表をしていまして、グループ全体で36億円の売り上げ、働いている人も210人くらいになりました。よろしくお願いします。

大津: 南阿蘇村で主にコメをつくっています。5町歩という大きくはない規模ですが家族経営でやっています。私は東京育ちです。大学4年生の時に出会った九州男児と結婚後、夫婦でドイツに留学して、環境と農業とか、農家が果たす多面的役割とかを勉強し、16年前に南阿蘇に夫婦で移住しました。南阿蘇村は本当に素晴らしいところで、農業現場からの情報発信が少ない時代にブログを書いていたところ、今の農的暮らしとか農村の暮らしの駆け出しとして注目してもらうことが増え、今に至ります。夫と4人の子どもたちと、大きくはない規模だけれど家族で農を糧に暮らしている立場で参加したいと思います。

三浦: 茨城で2015年からフルーツトマトの生産を始めて、いま4期目です。全て直接契約直接販売で売っています。働いているスタッフも8割がたが子育て中のママということで、女性の働きやすい環境の整備を進めている会社です。よろしくお願いいたします。

圓地: 公庫で調査を担当しています。お客様からいただいた決算書の分析などしているのですが、その中にアンケートを組み込んで、「女性がどのように経営に参画しているか」「女性が参画されたときに経営がどう変わるのか」という調査をしたことがありました。本日は「女性と農業」がテーマということで、その結果も含めてお話しさせていただければと思います。

女性の働きで、農家の経常利益がアップ?

倉石: 日本政策金融公庫の調査では、女性が農業経営に参画することが業績のアップに貢献しているという結果が出たそうですね。

圓地: この調査では、もともと女性が経営に関わることが売上に貢献するという仮説があったんです。調査の対象になった農家さんは、女性が経営に関与しているところとしてないところが大体半々。経営に関与というのは、経営者が女性の場合や役員に女性がいる場合などです。
しかし集計しはじめると、売上はそれほど差が出ませんでした。むしろ経常利益率で差が出たんです。3年間でどれくらい経常利益が伸びたのかを比べると、従業員における女性の割合が増えているところの経常利益増加率はそうでないところに比べ47.3ポイント高く、さらに経営者が女性だったり女性を管理職に登用しているところでは、そうでないところに比べ経常利益増加率が71.4ポイント高いという結果がでました。

日本政策金融公庫 圓地隆夫さん

倉石: 興味深い結果ですね。日々の農業の現場で、この結果について実感していること、または、いやいや実際はそんな事は感じていないなどありますか?

大津: 食べ物や農産物が満ち足りている現在、女性が消費者目線を持っているというのはよく言われる話ですよね。使いやすい、バリエーションある、小分けになっているなど、自分(女性)が買いたいものを逆算して作るという。粗利が多くなっているのは、付加価値を高めることにも貢献しているのかなぁとも思います。目標を設定して逆算することが男性の得意なことだとすると、女性は「わぁ!いいね」と共感の生き物なので、共感してもらえるものをつくる、または作ったものの価値をメッセージとして伝えられるという強みはあると思います。

安心・安全、商品のストーリー、伝えやすい

大津: 実際、私も売り上げには完全に貢献しています。16年前に夫婦2人で月10万円の収入から始めて、環境・命・子育てをキーワードに環境に配慮した安心安全なコメを作ってきました。「男が命とか子育てとか言うとセールストークに聞こえてしまいそうだ」と考えている夫に代わって、私が伝えることで共感を得やすいような気がします。講演とかの仕事で私が外に出るたびに必ず売っているので(笑)。

02ファーム 大津愛梨さん

倉石: 三浦さんも売れるものを見極めて栽培をされているとか。

三浦: そうですね、あらかじめ「こことここに置きたい」という商品を「じゃあどうしたら売れるのか」という発想で作っています。こういうのはやはり女性ならではですね。今はいいものが売れるという時代ではなくて、ものを売る作業がすごく複雑化して、情報を付加価値としてつけないとモノは動かない。どういうストーリーがあるのかお客様に伝え、お客様が生活に取り入れたときに「あ、幸せだなと感じるだろうな」というところまでイメージさせて、はじめてモノが動く。現在市場には女性に向けて作られたものが必然的に多いので、日常生活の中で「これがいくら位だったら買うのか」という視点を常にもっているのは女性だと思います。

倉石: 澤浦さんは女性を雇用されている立場ですが、経営面で変化はありましたか?

澤浦: うちはいま、働いている人の7割が女性で、役員の過半数も女性です。ずっと農業をやってきた自分としては女性の活躍とか女性が農業をやる意味を議論しているとか、意味が分からない。当たり前でしょという感じです。家族経営の中で母親が働いていたから、女性が農作業でも経営でも関わるのは当たり前のことなんですよね。女性が会社の中で働くことは当たり前のことだけれど、男女の違いはあります。それをどのように整えていくかということが会社としての仕組み作りだと私は思っています。なおかつ、今言われたように女性の方が開発とかコミュニケーション能力とか伝達能力や共感力は強いので、それは生かしていくべきだと思います。

「急速な時代の変化」を機敏に感じ取る能力が、求められる時代

大津: 女性役員が活躍されているということでしたが、私の考えかもしれないけれど、女性って人のマネジメントやコミュニケーションは得意だと思うけれど、金額が大きい投資・回収といった経営判断って男性の方が得意な場合もあるかも。家計として把握できる範囲ならわかるんですけど、私は夫に「経営判断の相談をしたい」と言われてもわからない…。苦手なんですよね(笑)

澤浦: 女性でももちろん得意な人はいると思うんですが、確かに億単位の投資を10年以上のスパンで考えることは男性の方が得意な印象です。ただ、女性が経常利益率を向上させるというのは、その通りだなと。うちの場合、女性の方が倹約して無駄なものを買わないし、仕事の進め方も自然に効率的にやっていってくれる。男性はどちらかというとシステマティックに長期的に物事をみていく感覚かな。

グリンリーフ株式会社 澤浦彰治さん

澤浦: ただ、今でも自分が大きな投資を決定しているんですが、それが最近はあぶないなと思っているんですよ。いま男性的な長期的な物事の視点での経営が、世の中のスピードについていけないのではと思う時がある。もっと短期的な一年単位でのマネジメントが必要で、だから女性の経営参画が結果を出しているんではないかと。自分はザクっとした方向性を示して商品開発とかマーケティングは女性に任せると、そこから生まれた商品は売れる。逆に自分が「これが売れるはずだ」とやった商品はほとんど売れない。情けない話だが。

一同: (笑)。

株式会社ドロップ 三浦綾佳さん

三浦: よく講演で話をするんですが、百貨店のフロアマップを見たときに、B1が食品で、1から4階はだいたい女性用、男性のフロアは5階のみ。さらに、きちんとテナントが入っているのが女性のフロアで、男性フロアは、下着や身の回りのものがメーカーごとにテナントで販売されずにぎゅっとなっていることが多い。つまり、普段の買い物の中で、女性をターゲットにした商品の数とバリエーションは圧倒的に男性のものと比べて多いんです。

倉石: 消費者として常に目を肥やしているのが女性だということですね。

三浦: そうですね。女性は化粧品、お菓子、洋服から靴バッグと、非常に目にする範囲が広い。パッケージも女性向けの方がバリエーション豊富だし。そういうところが、「女性は消費者目線で考えるのが得意」と言われる所以なのかなと思いますね。

Vol.2は、女性の視点を生かした商品開発、販売の具体的な方法について語ります!

日ごろから「消費者目線」を鍛えられる場面も多いという女性たち。農業経営の成功者たちは、具体的にはどのように「女性ならではの視点」を商品に落とし込んでいるのでしょうか?

 
【2019新春座談会「女性と農業」】

2019新春座談会「女性と農業」 Vol.2「女性の視点」を生かした商品開発、その効果は?

2019新春座談会「女性と農業」 Vol.3 定着率を上げるための工夫と環境づくり

2019新春座談会「女性と農業」 Vol.4 家族にとって幸せな農業は?

 
>>2019年新春座談会「女性と農業」記事一覧はコチラ

 
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