91年続くお茶屋さんで小さな頃から販売に親しんだ
──お家が91年続くお茶屋さんて、すごいですね。どんなお店なのですか?
ありがとうございます。1928年に高田馬場で創業した日本茶の小売店です。私の父で三代目になります。日本茶の小売りの他に、併設の和カフェの経営と和雑貨の販売などもしています。
──やはり小さな頃からお茶の販売には親しんでいたんですか?
そうですね。子供の頃からお客様にお茶を出したり、袋にお茶を詰めたりする作業をしていました。楽しかったです。一方で、日本茶を飲む人が徐々に減っていって、日本茶だけでなく和雑貨なども仕入れて販売するようになった様子もそばで見ていました。
学生時代の経験から提案した新しいパッケージ
──ご自身が意見を出してお茶のパッケージを作られた経緯を教えてください。
お茶のパッケージを決めているのは主に父なのですが、海外に行った時に感じたことや学生団体で学んだSDGsの視点から、うちのお店にはこういう課題があるんじゃないかと父とよく話していました。それがだんだん具体的になってきて、新しいパッケージを作ることを提案し、最終的には父がいいよと言ってくれたという感じです。
──SDGsとお茶のパッケージの課題とは、どんなことなのでしょう。
SDGsというのは、2015年に国連が定めた持続可能な開発目標のことで、2030年までに「誰も取り残さない」世界にするため、17のゴール(目標)・169のターゲット(方法)から構成されているものです。例えば、目標1「貧困をなくそう」目標5「ジェンダー平等を実現しよう」目標15「陸の豊かさも守ろう」などの国際目標と、それを実現するためのターゲットがあります。これらに照らして考えてみると、ひとりで消費しきれないほどのお茶を一つのパックにして売ったら、廃棄が出てしまうかもしれない、といったようなことが課題でした。これは目標12「つくる責任・つかう責任」と対応すると思います。
もう大量消費する時代じゃない。
──だから小さいパッケージのお茶を提案した?
そうです。それまではひとつのパッケージの量は100グラムでした。でも、それでは若い人は飲みきれないし、自分自身も少しずついろいろなお茶を試したいという気持ちがありました。それで、これまでよりも小さいパッケージを提案しました。
──デザインなども一新したのですよね。どのようなプロセスで新しいパッケージを考えたのでしょうか?
父とよく話し合って、パッケージを変えてみようということが決まってから、まずお店の中をよく観察しました。「茶のつたや」の店舗は黒を基調とした内装で、飾り棚も黒い。それに対して、派手なデザインだった従来の茶袋が浮いているように見えました。日頃からコーヒー屋さんなどのおしゃれな小売店を見かけるとパッケージを観察する癖があり、素敵だなと思うデザインは店内の内装とマッチしていることが多いため、お茶のパッケージには黒を提案しました。お茶のパッケージはこれまでと同じ業者の方にお願いして、さらにそれにシールをつけてお茶の名前を見せることにしました。この時自然に意識したのが、海外の方にもわかりやすいということです。
──だからパッケージにアルファベットの表記があったのですね。
そうなんです。高田馬場の街は、10年ほど前と比べて外国の方がかなり増えました。私自身がイベントで日本茶をPRした時に海外の方が興味を持ってくださった実感や、自らの少しの海外経験もあって、外国の方にフレンドリーという点には自然とこだわっていたように思います。
──同じようにパッケージを見直したり、農産物を小売りしようという時に、気をつけたほうがよい点などはあるのでしょうか。
おしゃれな小売店を見かけると観察していたというお話をしましたが、スーパーや百貨店と同じことをやろうとしないことです。規模によってできるパッケージングや狙いが違ったりするため、観察する時には同じ規模の小売店に着目すること。そして、自分の実感値を信じることです。私の場合は、何かを買うときに自分のこだわりで物を選んでお買い物をする人が周りに多いように感じました。そのため、少しずつ違う味を試せるお茶のパッケージを選んだのです。
最終的にはパッケージすらなくして、本来のお茶屋さんの姿に
環境破壊してしまうのは矛盾している。段階的にパッケージ販売を減らしていって、いつか日本茶をおしゃれに量り売りするお店にするのが、私の理想です。
今までのモノ消費の流れではパッケージ売りのほうが適していましたが、これからはストーリーや中身を知った上で何かを買いたいという若い人が増えていくと思いますし、そういう実感があります。持続可能な未来を考えられて、地球にやさしく、そして生産者のストーリーや中身を知った上で買い物できる。そんなお茶屋さんをやりたいなと思っています。
SDGsは国連が定めたグローバル目標ということで、個人やちいさなお店や農家さんで取り組む必要があるのか?またどうすればいいのか?という問いもあるかと思います。ですが私は、SDGsが「誰も取り残さない」世界を志しているのであれば、私たちのような小さな個人の力こそ必要だと思っています。そして、小さな力、小さなお店だからこそ、すぐにいろいろなことを変えてみたりトライできる。そんな素敵な利点を生かしながら、私たちの日常的に行う選択で世界の誰かが困っていないかを考え、少しずつできることを始めることが、SDGsに取り組むことでもあるのかなと思っています。
【清水真由さん プロフィール】
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1928年に高田馬場で創業した日本茶小売店「茶のつたや」の三代目の長女。大学では史学を専攻し、学生団体でSDGsと出会う。以降、持続可能な社会とは何か?を考えながら、家業に生かせる取り組みを模索している。 |