【全国酪農業協同組合連合会(全酪連)とは】 酪農家を支える全国組織として1950年に創立。生乳の流通や、情報や生産資材の提供、運営指導など、日本の酪農と乳業の振興・発展に貢献してきた団体です。研修会の開催等の活動を通じ、後継者育成にも取り組んでいます。 |
酪農の仕事
酪農とは、乳牛を育て、搾ったお乳(生乳)から生計を立てる仕事です。
生乳から作られる主な製品は、生乳を加熱殺菌した牛乳。他にも、バターやチーズ、ヨーグルト、アイスクリームなどの食料品、また、医薬品や化粧品など、さまざまなものが作られます。
これら生乳を生産し、酪農を営むのが酪農家です。
酪農のビジネスモデル
経営手法と飼育方法で差別化
「酪農は自由度が高い仕事だとも言えます」と話すのは、全酪連の総務部組織対策課の課長、吉村薫(よしむら・かおる)さん。
「牛は飼育環境で違いが出るので、どう特色を出していくかを酪農家自身で考えて、いろいろなスタイルで経営を組み立てていますね。育成方法を一つとっても、牛を外部環境から守るために牛舎で育てる場合もあれば、草地に放牧してのびのび育てる方法もあります。餌の種類や食べさせ方もさまざまで、有機栽培された飼料を与えて育て、食の安全性を打ち出して販売するケースもあります。
また、生乳を得る酪農だけでなく、肉にする子牛を産ませる“繁殖”や、大きく育てる“肥育”といった仕事を組み合わせることもあります」
さらに吉村さんは続けます。
「畜産関係では、日銭が入る仕事は酪農だけでしょう。生乳は毎日出荷できるため、売上が毎日あがるからです。また、牛乳は海外製品に取って代わられるリスクが少ない。牛乳は国内自給率が100%の製品。TPPや日欧EPAなどによる影響で、加工された乳製品の輸入が増える可能性はありますが、牛乳に関して言えば、なかなかシェアなどは崩されにくいとも思われます」
こうした背景も、酪農の自由度の高さを後押ししているのかもしれません。
一日のスケジュール
では、酪農家は具体的にどのような一日を過ごすのでしょうか。グラフはその一例です。
こうした仕事に、さらに一つ一つの作業が発生します。
例えば、搾乳では、まずは前搾りでお乳の状態をチェック。そしてタオルで牛の乳房を拭いて、次にディッピング(乳頭消毒)。終わると、ミルカーという機械を使ってお乳を搾ります。牛は1日に20~50キログラムの牛乳を出します。そのため、搾乳には、とても時間がかかります。その後、もう一度ディッピングをして、終了です。
また、朝食後の作業は、まちまち。シーズンによっては、餌にするデントコーン(トウモロコシの一種)や牧草などを育てる畑作業も。他にも、たい肥を作ったり、機械のメンテナンス、牛舎の補修といった作業をすることもあります。
さらに、これらの合間に、牛の出産があれば立ち会います。深夜でも早朝でも、出産はいつ始まるか分かりません。
近年の実態
酪農も他の農業と同じように、国内の生産戸数が減ってきています。
現在ではピークの1963年(41万7600戸)の3.8%である1万5700戸(農林水産省、平成30年畜産統計)。近年は、高齢化や後継者不足などによって、毎年約1000戸ずつ減っています。
しかし、そんな中でも、酪農への就農希望者は少なくないと吉村さん。
「動物が好きだからという理由で、就農したい方も多い気がしますね」
メリット・デメリットから見る3つの働き方
自分の力で経営していく「自営」
では、酪農にはどのような働き方があるのでしょうか。
一つ目として、自分で経営する方法があります。
「自営には、家族でやっているところや、ある程度規模が大きくなると法人化しているところもあります。自営は、すべての作業を自身で管理することになります」(吉村さん)
自分で経営方針を決められるメリットがある一方、新規就農の場合は、初期投資が大きいことがデメリットに挙げられると吉村さんは話します。
「廃業農家の施設を譲り受ける場合でも、機械はあっても牛はいないことがほとんど。すると、牛を購入する出費が発生します。地域ごとに行政からの補助もあるでしょうから、調べてみると良いでしょう」
酪農家に勤める「雇用」
二つ目が雇用です。
「雇用されている場合は、作業の全般ではなく、雇い主から指示された仕事を行うことになるでしょう。搾乳関係が多いですね。牧草や添加剤などを混ぜたTMR(混合飼料)の調整作業なども、雇用先によってはあると思います」
自営の場合の初期投資がないことはメリットですが、自身で経営スタイルを決めづらいというデメリットがあります。
酪農家を要所で支える「酪農ヘルパー」
三つ目は、酪農ヘルパー。
「酪農ヘルパーは、酪農家さんがケガをしたり、身内の冠婚葬祭などで休みをとりたいときなどに代わりに作業します」
その需要は高いものの、現在は人材不足の状態。賃金の問題で成り手が少ないという課題もある中、酪農ヘルパーになるメリットを吉村さんは次のように話します。
「酪農ヘルパーになると、その地域の特色や人などを知ることができます。ですから、新規就農への道筋として、酪農ヘルパーになるというのはよく聞く話。だからこそ、酪農ヘルパーは定着しないとも言えますが。一方で、酪農ヘルパーとして開業するという道もあります」
酪農に求められる人材とは
年齢に関係なく「牛への愛情をかけられる」人
最後に、酪農には、どのような人が向いているのでしょうか。
「新規就農者には、若い方もいれば、脱サラした50代の方もいる。年齢問わず、やはり動物と接する仕事ですから、かわいがって、しっかり面倒を見られる人が良い。ちゃんと餌をやって、やり方を改善していけば、乳量も乳質も上がっていきます」(吉村さん)
手をかけたら応えてくれる牛だからこそ、愛情は大切です。
体力がなくても大丈夫、必要なのは経営感覚
ただし、「牛が好きだという気持ちだけでは続かない仕事」だと吉村さん。
「好きという気持ちだけで就農するとミスマッチの可能性も。餌をきちんと食べているか、反すうは何回行っているかなど、事細かに観察することが大事です」
細かな観察が重要なことや、先の一日のスケジュール例などから、体力ばかりが求められていると思う人もいるかもしれません。
ですが、それよりも経営感覚を持っていることが大事だと吉村さんは言います。
「機械の導入、燃料費、餌の相場の一つ一つが、コストに影響します。また、餌を作るか、買うかもコスト検討が必要です。餌の値段は変動しますから。牧草も天候で左右されますし、収穫タイミングを誤るとコストに差が生じます」
酪農とは、牛にかける愛情を胸に抱き、酪農を成り立たせる経営感覚を持って働く、他に変えられない仕事。消費者に届けられる生乳から生まれた製品には、酪農家の思いが詰まっています。