地域で大切に育まれてきた『南郷トマト』の更なる品質向上を目指して
『南郷トマト』生産者 小野孝さん
目に映るのは、青い空と緑がもえる山々。初めて訪れたのに、どこか懐かしい原風景が広がるのが、福島県南会津郡南会津町。この地域の特産品である『南郷トマト』は、福島県を代表する夏秋トマトとして7月中旬~10月下旬まで生産されており、南会津特有の気候と高い標高、昼夜の気温差が、市場でも高く評価されている味と品質を生み出しています。
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小野孝さん
「1962年に旧南郷村(現南会津町南郷地区)で栽培が始まり、発祥の地にちなんで『南郷トマト』と呼ばれるようになったそうです。移住者である私の暮らしは、今までもこれからも『南郷トマト』と共にあります」。
そう話す小野さんは、東京での6年間のサラリーマン生活を経て、1992年に旧南郷村に移住。きっかけは、就農者向け雑誌に掲載された南郷村のトマト農家募集の記事でした。
「出身は宮城県仙台市ですが東京の大学を卒業し、福祉関連の会社に就職しました。サラリーマン生活にこれといった不満があった訳ではありません。でも、その雑誌を手にしたということは、心のどこかに田舎での暮らしや農業への憧れがあったのだと思います」。
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就農の経緯を話す、小野さん
移住を決意してからの行動は早く、1年間は仕事を続けながら年に数回、農業体験という形で旧南郷村を訪れていたという小野さん。1年後、奥様と共に移住し、20aのビニールハウスを借りて『南郷トマト』の栽培をスタートさせます。
「当時は今のように研修制度がしっかり確立していなかったので、先生は、近隣のベテラン農家さんやJA・県の指導員さん。最初の数年は教えてもらったことをこなすだけで精一杯。幸いなことに1年目から実が付き、真っ赤なトマトを収穫できたときは、本当にうれしかったですね」。
『南郷トマト』に情熱を注ぎ続けた小野さんは努力の甲斐あって、技術向上を目的とした生産者組合内の共励会で高い評価を得ることに。表彰式では、2年連続表彰台という成績を手にします。以降も、122戸の生産者と共に更なる品質向上に努めた結果、『南郷トマト生産組合』は、2014年に日本農業賞大賞を受賞。ブランドトマトとして、全国に知られるまでに成長しました。
最初は20aから始まった『南郷トマト』の栽培は現在、35aまで広がり、取材に伺った7月上旬は、トマトの苗を支柱で支える誘引作業が行われていました。7月下旬には、たわわに実った『南郷トマト』の収穫が始まり、南会津に本格的な夏が訪れます。
移住から27年。57歳となった小野さんの目標は「現在の作付面積を維持しながら、より良い『南郷トマト』を届けること」。四季折々の自然と共に暮らす小野さんの表情は、南会津で生きる喜びに満ち溢れていました。
親子2代で目指す「強い」農業 時代のニーズをとらえた挑戦が今、花開く!
『株式会社土っ子田島farm』 湯田浩仁さん、浩和さん
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湯田浩仁さん、浩和さん
暮らしのさまざまなシーンを彩る花。それらは花き農家によって大切に育てられた後、生花店に並びます。
『土っ子田島farm』は、南会津が織りなす豊かな自然の恩恵を受けながら、さまざまな花を栽培しています。代表者の湯田浩和さんは、12代目。歴史ある農家ですが、意外にも花き栽培を始めたのは35年ほど前と最近のことなのだとか。
「もともとは水稲を行っていたのですが、国の減反政策に伴い、新しい事業を始める必要がありました。そこで、最初にトライしたのが、ワイン用ブドウの栽培でした」。当時を振り返るのは11代目の湯田浩仁さん。
山梨のワインメーカーの契約農家として約10年間、ブドウ栽培を行います。しかし、年によって品質にムラが生じ、やがて先細りに。再び、新たな作付け品目を模索する中、2010年に家業を継いだ浩仁さんは花き栽培に着手します。
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浩仁さん
雪深い南会津は、冬に花を栽培するには厳しい環境。ビニールハウスの温度を保つための暖房費もかさみます。そこで次に浩仁さんが着手したのが『みそ加工』でした。原料となる糀や大豆は地元産を使用。無添加と手作りにこだわった古里の味は、口コミから徐々に広がり、冬の事業として確立。花きとみその二本柱で、安定した経営が見込めるようになりました。
2012年設立の『土っ子田島farm』は、12代目の浩和さんによって法人化されました。2010年に、地元に戻った浩和さんですが、以前は発電所の建設に携わり、世界中を飛び回っていたとのこと。「高校から11年間、親元を離れて暮らしていました。発電所建設はやりがいのある仕事でしたが、祖父が他界したことをきっかけに家業と地元への思いが強くなりました。11代も続く農家を途絶えさせてはいけないという使命感もあったと思います」。
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浩和さん
最初は浩仁さんが立ち上げたみそ加工業を継ぐことからスタートした浩和さんのファーマー生活。加工業に従事するうちに、南会津の特産品で、農産加工に携わりたいと考えるようになります。思えば、花きやみそ加工も浩仁さんが新たに開拓したこと。そのチャレンジ精神は息子である浩和さんにも確実に受け継がれていたのです。
「家族経営の農家はほとんどの場合、同じ作物を受け継ぎます。技術の継承はもちろん大切なことですが、時代のニーズを察知し、新しいことにチャレンジすることで枝葉が広がり、強い農家になれると思うのです」。
浩和さんが考える『強い農業』とは、基盤産業として収益をしっかり確保し、雇用を生み出すこと。リンゴやモモ、トマトなど南会津の豊富な農産物に新たな価値を見出す加工業にはその可能性が十分にあると設備を導入。現在はみそのほか、ジュースやジャムなど自社製品の製造販売のほか、周辺の生産者からの受託加工も受けています。
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小野さんのトマトも、『土っ子田島farm』が加工しています
「農業が大きな幹であるなら、加工業は枝葉の1つ。自分で作った作物を提供する飲食業をやりたい、直売所を作りたいなど、農業にはさまざまな枝葉をつける魅力がある」と浩和さんは言葉を続けます。
「若者の地元離れは仕事がないことが大きな理由。地元出身者や新規就農者、移住者も含め、自分たちが受け皿になって雇用を生むことが古里への恩返しだと思っています。やがてそこから枝葉が生まれ、地域全体が元気になればうれしいですね」。
農業という大きな幹から育った枝葉は、やがて実を結び、新たな幹となって南会津に力強く根付くことでしょう。
【問い合わせ】
福島県南会津農林事務所 農業振興普及部
〒967-0004
福島県南会津郡南会津町田島字根小屋甲4277-1
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