上和田有機米生産組合は、“選ばれる農業”を実践
山形県の高畠町は1970年から有機農業に取り組む先進地域で、上和田有機米生産組合は1986年に高畠町和田地区で発足。自然豊かな環境を次代に引き継ぐため、一貫して農薬や化学肥料に頼らない、安全で美味しい米作りに取り組んでいます。
今回、お話を伺った前組合長の遠藤五一さんは、同組合の立ち上げからのメンバーで、米・食味分析鑑定コンクールで最高位の金賞を四年連続(2003年~2006年)で獲得。2007年には、殿堂入りともいえるダイヤモンド褒賞(現在までに8名しかいない)を受賞した米作りの匠です。
――上和田有機米生産組合が考える米作りについて教えてください
有機米において一番重要なのは、味なんです。いくら安全・安心の有機米といっても、美味しくなければ買い手が付きません。
私たちの組合では、美味しさを客観的に伝えられるように、早くから食味計と味度計を導入し、旨味やコクを数値化しています。米・食味分析鑑定コンクールへの挑戦も、生産者の自己満足で終わらないよう、外部評価として取り組んでいます。
また、消費者の方から信頼を勝ち取るために、栽培基準の明確化にもこだわっています。
そのために組合のホームページには、使用している肥料や土壌改良資材、除草方法や米の乾燥方法まで、こと細かに栽培基準を公開しています。さらに、組合で混米せずに生産者名を付けて販売し、メンバーそれぞれが責任を持って米作りに取り組む体制をとるなど、私たちは、“選ばれる農業”を実践しています。
多くのお客様に選んでいただくことで、米の付加価値が高まりますし、なにより食は命の根源。食事は人が一番幸せを感じられる瞬間なので、これからも安全で美味しい米作りを行っていきたいですね。特に若い世代の方には、もっと食に関心を持ってほしいと願っています。
有機米作りは雑草との闘い。雑草の抑制効果が、一番高かったのが紙マルチ田植機
上和田有機米生産組合の発足に参加し、それまでの慣行栽培から有機栽培に切り替えた遠藤さん。やはり苦労したのが除草作業だったといい、現在は紙マルチ田植機を使用しています。
米作りの匠である、遠藤さんにその導入効果や田植え時の注意点などを伺いました。
――紙マルチ田植機を導入した経緯を教えてください
無農薬や減農薬での米作りというのは、本当に大変な仕事で、雑草との闘いです。
組合の発足当時は、虫や病気などに関するノウハウもなかったので、周囲からは「近代化の流れに逆行してまで、なぜ有機米作りに取り組むのか…」と、見られていましたね。
除草については、手押し式や機械式の除草機はもちろん、合鴨や鯉、墨汁を使う方法など、ありとあらゆる方法を試してきました。その中でたどり着いたのが、三菱マヒンドラ農機の紙マルチ田植機です。
紙マルチは、活性炭が入った黒い紙を田んぼに貼り付けて、その上から専用の田植機で苗を植え付ける技術です。紙が日光を遮断することで雑草の生長を抑えることができるので、除草作業の負担を軽減してくれます。
組合の中には以前から導入しているメンバーもおり、収量や品質の確保に効果的だということで、組合で紙マルチ田植機を購入してやってみようということになりました。
――紙マルチと一般的な田植機では、注意する点など、違いはありますか?
大きな圃場ほど難しいことなのですが、整地や代かきの作業で、田んぼをいかに均平に整えるかが、一番重要です。紙マルチを敷き詰める際に、田んぼが均平でないと田面と紙の間に隙間が生じ、雑草が生長してしまいます。そのため、丁寧に代かきし、さらに1週間ほど落ち着かせてから田植えを行っています。
また、田植え時の水位も気を配るポイントです。水で紙マルチが浮き上がらないように注意し、トロトロの田面と紙マルチが密着するようにします。しっかり密着させないと、強風で紙マルチがめくれたり、雑草が出てきたりする原因になるので、田植え直後の水管理も重要です。
もちろん田植え時の天候にも気を遣っています。紙マルチが風で飛ばされないように強風の日は避け、西風の場合は東側から、東風の場合は西側から植えるというように、田植えを始める位置も風向きなどを考慮して決めています。
――紙マルチ田植機の導入効果はいかがでしょうか?
雑草の抑制に関しては、とても効果的で、これまでの中では一番です。
私は、紙マルチ田植機というのは、プロ中のプロが使う田植機だと考えています。一般的な田植機よりも気を配るポイントが幾つもありますし、田んぼの中でのロール紙の交換作業は大変です。
長年利用している私たちでも1日あたりの作業上限が60aですが、収穫から逆算して苗作りまでをきちんとコントロールできる方には、最適だと思います。また、一般的な田植機よりも少し値が張るので、個人よりもグループで導入するのがよいのではないでしょうか。
――最後に、有機米作りを考えている方にメッセージをお願いします
有機米作りには、仲間の存在が大切だと思います。これから紙マルチ田植機を使って有機米を栽培したいと考えている方は、ノウハウなどを情報共有しながら、個人ではなく、地域全体で有機米作りに取り組んでほしいですね。
今回、田植え作業を見学させてもらった吉田さんはIターン者で、農業経験ゼロからスタートして無農薬栽培に力を入れています。勇気を持って努力を怠らずに、農業が楽しいと感じていただけたらと思います。
<取材協力>
上和田有機米生産組合
〒992-0246
山形県東置賜郡高畠町大字馬頭127-1
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