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高温によるキャベツの発芽不良は「クーラー催芽」で防げ!

斉藤 勝司

ライター:

連載企画:農業テクノロジー最前線

高温によるキャベツの発芽不良は「クーラー催芽」で防げ!

キャベツの生産では機械移植の普及により省力化が実現していますが、盛夏期の育苗ではしばしば発芽不良が発生し、セルトレイに苗を補う作業をしなければならなくなります。そこで愛知県東三河地域のキャベツ生産者がセルトレイをスポットクーラー(冷風機)などで冷やす「クーラー催芽」を考案。同地域で野菜生産を指導している東三河農林水産事務所がその効果を確かめた上で、盛夏期のキャベツ育苗の暑さ対策として普及させています。クーラー催芽による発芽促進はどのように行われるのでしょうか。同事務所主任専門員の伊藤好正(いとう・よしまさ)さんに聞きました。(画像提供:愛知県東三河農林水産事務所)

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発芽不良が起こると作業が増えてしまう

キャベツの生産では、セルトレイで育てた苗(セル成型苗)を自動移植機で定植する機械移植が普及しています。人の手で定植するのに比べて大幅な省力化ができるため、キャベツの生産においては欠かせない技術になっていますが、発芽不良が発生して苗が欠けたまま機械移植すると、本圃(ほんぽ)でも株が欠けることになります。それを避けるためには定植前に発芽しなかった穴に良苗を補う作業をしなければならず、省力化ができるという機械移植の利点が目減りしてしまいます。

そのためキャベツの育苗では確実に発芽させることが求められるのですが、キャベツの発芽適温は15~25℃であり、30℃を超えると発芽率が低下し、35℃を超えると著しく低くなります。盛夏期を避けて育苗できればいいのですが、冬に収穫する作型では7~8月に播種するため、高温による発芽不良が問題になっています。今後、地球温暖化が深刻化していけば、さらに発芽率が低下して、欠けた苗を補う作業が増えるかもしれません。

そこでキャベツの生産が盛んな愛知県東部の東三河地域では「クーラー催芽」が推奨されています。東三河地域で野菜の生産を指導している愛知県東三河農林水産事務所田原農業改良普及課主任専門員の伊藤好正さんにお話を聞きました。
「キャベツのセル成型育苗では、種をまいたトレイを直射日光の当たらない場所に1日半程度積んでおいて発芽を促します。ただし、盛夏期の育苗では発芽不良が問題になるため、当事務所では今から10年ほど前にクーラー催芽の実証試験を行いました」

クーラーの冷気で発芽率が大幅に向上

クーラー催芽とは、その名が示す通り、スポットクーラーやエアコンを用いて播種したセルトレイを冷やす方法です。トレイ周囲の温度を室温より5℃程度下げることができ、盛夏期であっても発芽不良を抑えることが期待されます。

その効果を確かめるために行った実証試験では、作業場内に農業用ポリフィルムで覆った発芽室(3×2×1.5メートル)を設置し、その中にキャベツの種をまいたトレイを積み上げ、一般的な冷却能力2.5キロワットのスポットクーラーの冷気を送り込んでトレイを冷やしました。播種してから翌日の夕方まで冷やす「冷却区」、播種当日と翌日の昼間だけ冷やす「昼冷区」と、クーラー催芽を行わない「対照区」、それぞれの方法の発芽率の推移を下のグラフに示します。明らかにクーラー催芽を行ったほうが、キャベツの発芽率が大幅に向上することがわかりました。

クーラー催芽を行ったほうが発芽率は大幅に向上した(出典:ネット農業あいち「スポットクーラーによる夏まきキャベツの発芽促進対策(クーラー催芽)」)

セルトレイの発芽状況を見ても(下写真)、クーラー催芽を行ったトレイ(左)と行っていないトレイ(右)では、クーラー催芽を行ったトレイのほうが確実に発芽していることが見て取れるでしょう。

クーラー催芽を行った左のトレイのほうが確実に発芽している(出典:ネット農業あいち「スポットクーラーによる夏まきキャベツの発芽促進対策(クーラー催芽)」)

段ボール紙で覆って乾燥対策

実証試験の結果を見る限り、スポットクーラーで冷やすだけで発芽率を大幅に高められそうですが、セル成型育苗においては、どのように冷やせばいいのでしょうか。伊藤さんが説明してくれました。

「クーラーの冷気を溜め込む空間を作って、そこにトレイを積んでおくだけでいいんです。例えば、ホームセンターで売られている直管パイプで枠を作って、農業用フィルムを覆って冷気を溜めておくことでトレイを冷やすことができます(冒頭の写真参照)。キャンプ用のテントを利用して冷やしている生産者もいますよ(下写真参照)」

キャンプ用のテントを利用してもクーラー催芽を行える(画像提供:愛知県東三河農林水産事務所)

ただし、一般的にクーラーの冷気は乾燥していると言われています。冷気にさらすことによる乾燥がキャベツの発芽に悪影響を及ぼすことはないのでしょうか。

「種をまいてから充分に水を与えれば、1日半ほどクーラーの冷気にさらしても、乾燥して発芽しなくなるということはまずないでしょう。それでも心配ならトレイを積み上げた一番上に段ボール紙を重ねておけば乾燥を防ぐことができます」(伊藤さん)

東三河地域では盛夏期に出荷する農産物が少ないため、農協の保冷庫をキャベツの発芽促進に利用しています。下の写真は農協の保冷庫に入れる前に撮影されたセルトレイですが、積み重ねたセルトレイの上から段ボール紙を重ね、周囲をラップフィルムで巻くことで乾燥を防いでいます。

段ボール紙で覆って、周囲をラップフィルムで巻くだけで乾燥を防げる(画像提供:愛知県東三河農林水産事務所)

このようにクーラーの冷気にさらすだけで、盛夏期であっても安定してキャベツの発芽を促せるのですから、高温に弱い他の農産物でも同様に発芽促進が期待されます。伊藤さんは「例えば、セロリも高温には弱く、30℃以上になるとほとんど発芽しなくなってしまいます。そのためセロリに対しても実証試験を行っており、クーラー催芽の有効性が確かめられています」と話してくれました。

セロリに対する実験の結果を下の写真に示します。盛夏期の室温では多くが発芽しなかったのに対して、クーラー催芽によって発芽が促進されていることが分かります。

セロリに対してもクーラー催芽の効果が確認されている(画像提供:愛知県東三河農林水産事務所)

地球温暖化が深刻化すれば、作物ごとの発芽の適温から外れてしまい発芽不良が発生する心配がありますが、クーラー催芽を取り入れることで、真夏の猛暑に負けずにキャベツやセロリを安定生産する助けとなるでしょう。

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