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「クーラーボックス発芽」で秋に咲かせるパンジー・ビオラ

「クーラーボックス発芽」で秋に咲かせるパンジー・ビオラ

皆さんはパンジーやビオラを年内に咲かせようとして失敗したことはないだろうか? 私・伊藤雄大、2年前から直売所で花や野菜を売っているが、農業はド下手くそ。今年の秋はパンジーとビオラをつくろうとして大失敗し、目標の「直売所で月3万円稼ぐ」がまた遠い夢となってしまった。そこで、来年こそはうまくいくように、ご近所の大先輩、大阪府・能勢町の上芝昇(うえしば・のぼる)さんに、パンジーなどを真夏に種まきする時のコツを聞いてみた。
(写真は上芝昇さんが作るビオラで、7月にまいたもの<11月中旬撮影>。どことなくあのキャラクターに似ている「ミッキー」というこの品種がとても人気。)

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夏の播種(はしゅ)は難しい!

パンジーやビオラは、庭が殺風景になりがちな冬から春先にかけて咲く貴重な花。秋の植え込みシーズンに合わせて出せば、寄せ植えにする人たちが10個以上まとめ買いして、じゃんじゃん売れるはず。「これは儲かる!」と踏んだ私だったが、秋に間に合うようタネを7月にまいたところ、ほとんど芽が出てこず惨敗(涙)。
パンジーやビオラはスミレの仲間。本来は涼しい気候が好きな植物なので、真夏に普通に発芽させるのが難しいようだ。よく見ると、タネ袋にも「気温が高いと発芽率が極端に悪くなる」とちゃんと書いてある。しまった……。
原因はわかったけど、実際、秋にいち早くパンジーやビオラを出す人はどんな工夫をしているんだろう。ご近所さんであり、パンジーを一番乗りで直売所に出す上芝さんに相談すると、「失敗しない方法があるから、見に来たらエエ」とのこと。それはぜひとも教えてください!ということで、早速お宅にお邪魔した。

上芝昇さん。家の敷地内だけで直売所に出す鉢花を育てる

自宅の敷地が「畑」

いつも道の駅にたくさんの鉢花を出している上芝さんのことだから、てっきりビニールハウスを持っているものだと思っていた。でもじつは、ハウスどころか畑もなく、全て自宅の敷地内だけでつくっているという。
「家の周りに花をいっぱい植えとったら『そんなに好きなんやったら、道の駅に出してみたら』って、近所の人が言うんよ」
それで始まった上芝さんの直売所ライフ。今でも敷地内は花だらけだ。今回、教えてもらいにきたパンジーとビオラは、お手製の棚はもちろん、エアコン室外機の上にまで、所狭しと並べてある。今年はパンジーとビオラだけで2000鉢以上出すそうだ。
玄関の鉢植えを踏まないように気をつけて歩き、家に入れてもらう。
「伊藤くんが苦労しているパンジーやビオラの発芽やけどな、あいつらは涼しいところやないとうまく芽を出さんから、うちではいつもこれを使っとんねん」
上芝さんが指差したそれは、靴箱の横のクーラーボックスだった。

クーラーボックス発芽のやり方

クーラーボックスの中を開けると温度計と保冷剤と、プラスチック製の食品保存容器。その中には濡れたキッチンペーパーが敷かれており、その上にタネがまいてある。
「もう、発根しとるやろ」
どのタネからも1〜3センチほどの長さの根が出ている。温度計はちょうど15度だ。

キッチンペーパーの上で根を出したパンジーのタネ

パンジーが発芽しやすいのは15〜20度の涼しいところ。これくらいの温度を維持できれば、発芽はほぼ100%成功し、3〜5日で確実に根が出るという。逆にそれ以上の温度だと、私が失敗したように極端に発芽率が悪くなり、タネが腐ってしまう。
上芝さんはなんと6月の終わりからパンジーやビオラをまき始めるそうだ。薄めた発根促進剤(メネデール)で湿らせたキッチンペーパーにタネをバラまきし、容器に入れて密封する。

クーラーボックスに保冷剤を入れ、15〜20度を保つ

お手製ミニポットで底面給水

「ほんで根が出たらな、今度はこっちで管理するんや」
次に案内してもらったのはリビング。窓際には小さなトレーがずらりと並ぶ。
土を入れた小さなポットに、根っこが出たタネを3粒ずつまく。せっかく出た根っこを乾燥させないように、水を張ったトレーの上にポットを並べて「底面給水」にし、水を切らさない。そして、「本葉が、子葉よりも大きく」なったら、7.5センチポットに1本ずつ植え替える。

窓際に並べられた手作りポット。材料はなんと毎日食べているヨーグルトカップ! 下から水を吸えるようにハサミで側面に切り込みを入れ、長さ1センチのスリットを4つ作る

それにしても、こんな白い小さいポットは見たことがない。底に穴が開いているのではなく、側面にスリットが入っているのも根腐れしなさそうでいいなぁ。
──これ、どこで売ってるんですか?
「うちとこで毎日食べとるヨーグルトのカップや。ただ捨てるの、もったいないやろ」
上芝さんの愛用するトレーにピッタリ30個入るサイズでちょうどいいのだとか。モノもスペースも無駄にしたらもったいない、というわけである。

植え替えたらカリをいっぱい、花芽がついたらリン酸を

7.5センチポットに植え替えたら、家の外に出し、できるだけ日当たりの良いところに並べる。まだ暑い時期なのでヒョロっと徒長するのが心配だが、どうしているのだろうか。
上芝さん曰く、ポイントは、植え替えてから花芽がつくまではカリが多めの液肥(成分は窒素6.5-リン酸6-カリ19)をかけて、丈夫な葉や根をつくることだそうだ。週に1回ほどまくが「まいた次の日に葉が上向きに立つ」ほどの効果。植物を大きくする窒素を控えめにし、細胞を引き締めるカリを多めにすることで徒長が抑えられるのではないか、と上芝さんは考えている。
花芽が見えたら、花つきがよくなるようにリン酸が多めの液肥(窒素6-リン酸10-カリ5)に切り替え、同じ頻度で散布する。こうやって育てたパンジーやビオラは秋の植え込みシーズンには満開となり「飛ぶように売れよる」と、上芝さんは言う。

取材を終え、直売所に向かうと、またもや上芝さんとばったり遭遇。「午前中で5000円売れたからな、急いで持ってきてん」と商品補充に向かう。「秋の植え込みシーズンにパンジーはよく売れる」という私のもくろみは間違っていなかったが、来年こそは「皮算用」にならないよう、クーラーボックス発芽を極めたい!

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