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「断根・摘心ダイズ苗」から始まった私の直売所ライフ

「断根・摘心ダイズ苗」から始まった私の直売所ライフ

今回は珍しく私自身の話。「出勤7時、帰宅19時」を週6で続けていた植木屋さん時代は、夜な夜なヘッドライトを照らして畑をいじっていた。その時の主力品目は野菜苗。苗というものは、最短1カ月で売り物になるし、野菜や花そのものと違ってその日に売り切らなくても直売所に置き続けられる、という兼業農家向けの商品なのだ。ただし、いいものじゃなきゃ売れない。ということで、今回はド素人の私が「唯一」自信を持っている、ダイズ苗のつくり方をご紹介!
(画像は「断根・挿し木苗」のキモのひとつ、断根)

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いきなり「売れる野菜」をつくるのは難しい

直売所デビュー1日目で現実の厳しさを知った。頑張って育てたズッキーニが夕方になっても、ただのひとつも売れなかったのだ。
売り場をのぞきにいくと、先輩方がつくったズッキーニはピシーッとまっすぐで、ツヤツヤで「これぞ、プロ」というほどに美しかった。それと比較すると、大きさも不揃い、曲がったモノが入った私のズッキーニは「売り物のレベル」に達していなかった。消しゴムハンコのラベルを貼っているところも小手先感が出ていて、なんだかツラい……。
「これじゃダメだ」と早速、直売所のスタッフに何が売れるか相談した。売れなきゃ何も始まらない。自分のつくりたい欲はさておき、お客さんが欲しがるモノをつくることにした。
スタッフさんいわく「最近だと、野菜やお花の苗をつくるおばあちゃんたちが引退していって、商品が少ないのよ。お客さんも喜ぶかもね」。
なるほど! 確かに苗なら、小さな畑でも十分な量がつくれるし、すぐにタネをまけば翌月には売りものになる。その日に売れ残ったとしても、水やりなどの管理さえすれば、毎日引き取りに行かなくてもいいという。残業もある兼業の身には好都合だ。

ダイズ苗にだけは自信があった

その翌日にまいたのが丹波黒大豆(たんばくろだいず)だった。
丹波黒は、大粒で味がよいことから「ダイズの王様」と呼ばれる。だが、他のダイズ品種と比べるとツルボケ(枝葉がやたら大きくなり、実がほとんどつかない現象)しやすく、梅雨時期の日照不足や長雨の影響でヒョロっと徒長しやすいという厄介な特徴がある。
放っておくと、その厄介な特徴通りの姿になってしまい、これまでうまく育てられたことがなかったが、苗づくりを少し工夫したとたん、ズラリとサヤがついた立派な丹波黒ができるようになって感動した。
農業ド素人の私が唯一自信のあるワザ。そのやり方を紹介したい。

「断根・摘心苗」のつくり方

その苗が「断根・摘心苗」。文字どおり、根を切って、芯を止めて(生長点をつまみ取って)つくるのだが、芯を止めることでツルボケを抑えられる。梅雨後に来る台風にもめちゃくちゃ強く育つ。
しかもダイズの育苗は、トマトやナスなどの夏野菜と比べるとはるかに易しい。6月初旬だと加温する必要もないし、タネが大きくてまきやすく、不器用な私でもうまくやれる。
また、大きなタネにたくさんの養分をたくわえているおかげか、枯らすことのほうが難しいんじゃないか、というくらいに頑丈な植物だ。「断根・摘心苗」はダイズのその図太さを生かす。

タネまきの土はなんでもいい、まき方もテキトーでいい

タネをまく土はキツイ粘土じゃなければなんでもいいと思う。一度使った培養土や、庭の土でも、ほぼ100パーセント発芽する。
厚さ数センチの底土にタネをバラまいて、タネが隠れるくらいに覆土をし、たっぷりと水をまく。その水が3日間乾かないくらいの日陰に置いておけば、3〜5日で発芽してくる。

この写真くらいまで大きくなったら「断根・摘心」のタイミング。この時点ではモヤシのようにヒョロンとしているが、大丈夫

頭と足を潔く切る

発芽し、ハの字に開いた子葉から出てきた葉(初生葉)が5センチ以上になったら、この苗づくりのキモである「断根・摘心」をする。
やり方は簡単。初生葉(頭)を摘むと同時に、茎(足)を地際で切ってしまうだけ。「なんと残酷な!」と言う人もいるかもしれないが、覚悟を決めて、スパッと切る。切り口がキレイなほうがうまくいく。

地際をハサミで切ったら、右3つの苗のように伸びている葉っぱをとり、左3つの苗のように仕上げる。これを挿し芽する

新しい葉が伸びてきたら植え替え

頭と足を切った苗を、セルトレイに1本ずつ挿し込んでからたっぷりと水をまく。いわゆる「挿し芽」だが、樹木はもちろん、挿し芽が簡単なキクやアジサイよりも活着率(成功する確率)がずっと高い。たぶん、分厚い子葉に養分を蓄えているからだろう。

挿し芽をしているところ。挿し床は、肥料分が少なく、乾きにくいバーミキュライトを主体にしている。風が吹いてもコケないように、深く挿す

完全に乾いてしまわないように適宜水まきをして1週間ほどたつと、子葉の脇から1本ずつ、合計2本の葉が伸びてくる。それが数センチ伸びたらもう大丈夫。その頃には茎の根が復活して土をつかんでいるので、肥料入りの培土を入れた9センチポットに植え替える。
しばらく養生して、ポットに根が回れば出荷する。
2本立ち(脇芽が2本伸びていること)なので見た目にも寂しくないし、徒長せず、どっしりとしたカッコイイ苗になる。畑に植えてからも、茎が太く、どっしりとした格好に育つのでツルボケはしないし、サヤつきもよい。

左が「断根・摘心苗」、右が同じ日にタネまきをして、そのまま育てた苗。断根・摘心することで草丈が抑えられ、図太く育つ。復活した根は、勢いのある太いものが目立つ

マメ1粒が80円になる

こうしてつくったダイズ苗は、私にとって初めてのヒット商品となった。つくった約80ポットは1週間足らずで売り切れてしまった。
下世話な話だが、枝豆として売るなら1粒のタネを4カ月かけて育てて1株350円ほど。それが苗だと1カ月で80円になる。
もちろん何千個と売るのは厳しいだろうが「プランター菜園用に」「タネまきを失敗した畑の補植に」とまとめ買いしていく人が多いので、200個出しても半月ほどで売れてしまう。
サラリーマン時代には味わったことのなかった「自分がつくったものを知らない人が買ってくれる喜び」を教えてくれたダイズ苗。「興味はあるけど平日は仕事してるしな」という方には、まずは苗販売をオススメしたい。直売所、おもしろいですよ。

わが家のダイズ苗。2本に増えた葉っぱがやがて枝となり、どちらにもサヤがびっしりつく

 
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