農業女子の輸出手記~お茶・原木しいたけ農家、貫井香織(貫井園)の場合

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農業女子の輸出手記~お茶・原木しいたけ農家、貫井香織(貫井園)の場合

農業女子の輸出手記~お茶・原木しいたけ農家、貫井香織(貫井園)の場合
最終更新日:2019年09月05日

貫井(ぬくい)園は、埼玉県入間市でお茶と原木しいたけの栽培を手掛ける家族経営の農家です。私が就農したのは2008年、29歳の時。当時から両親と私・貫井香織(ぬくい・かおり)、それに2~3人の短時間労働スタッフという労働力は今も大きくは変わっていません。家族経営の小さな農家が2012年からフランスや香港への輸出を手掛けるようになったのは、些細なきっかけからでした。

偶然の出会いからフランスへ

貫井園は、埼玉県入間市でお茶と原木しいたけの栽培を手掛ける家族経営の農家です。私が就農したのは2008年、29歳の時。当時から両親と私、それに2~3人の短時間労働スタッフという労働力は今も大きくは変わっていません。
入間市は、“狭山茶”というお茶の地域ブランドの主産地です。今でこそ、お茶農家自身が製茶や小売りまで手掛けることが増えてきていますが、もともとお茶業界は、茶農家と製茶加工と問屋・小売りが、それぞれ別に独立してなりたってきました。その中で、狭山茶の茶農家の多くは、大消費地東京に近い地の利をいかし、茶の生産から販売までを一貫して手掛けてきました。貫井園も、父の代から自宅に店舗を構えていて、お茶だけでなく原木しいたけやその他季節の野菜などを直販しています。

私が就農しようと思った理由の一つは、両親が手掛けてきたお茶と原木しいたけをより多くの人に味わってほしいから。当時の商圏は主に入間市内のお客様でしたが、それを埼玉県、東京、日本、海外へ広めたいと思うのはごく自然な流れでしたし、それまでの人生で20カ国以上訪れたなかで、もし貫井園の商品を売るなら美食の国フランスで売りたいと考えていました。
ただ、具体的に海外への販路開拓を強く意識するようになったきっかけは、都内で開かれたマルシェに出店した際の出会いでした。たまたま立ち寄ったお客様が海外での食品展示会を手掛けている方で、2009年1月にフランス・リヨンで開かれる大きな外食産業見本市「SIRHA(シラ)」への出展を誘われたから。考えるより先に動くタイプの私は、「フランス語できないし」とか、「輸送ってどうするのかしら」とか、流通ノウハウとか、全てわからないままに、「出てみよう」と出展しました。
で、大敗北だったんですよね。
フランス語・英語ができないなら、通訳できる人を手配しなくては商談にならないし、日本国内よりも、物流関係者が増えて物流コストがあがる分、ウチの出荷価格は変わらなくても現地での小売価格は2~3倍になるということがわかっていなかった。フランスで日本食材を扱っている会社やお店にどんなところがあるのか、同業他社がどういった価格帯・商品パッケージで展開しているのかも知らなかった。いま振り返ると下調べと準備不足で最低限必要なこともできていなかったように思います。

さまざまな経験を経て、現在、販促の際は現地語リーフレットや写真入りPOPを作るようにしています

小さな個人農家が海外で販路開拓をするのは難しいなあという実感とともに、当時は加工品開発などに力を入れ始めた時期だったので、海外熱が一旦冷めます。

その海外熱が再燃したのは2011年。東北の震災があり、出荷制限などもあって、販路をもう一度見直さなくてはいけない状況に直面して、“あ、またフランスに行こ”という気持ちになりました。逆境の中、自分自身でも難しいと思っていることに取り組んだのはなぜだったのか、私自身不思議な感覚ですが、この渡仏が輸出スタートへのきっかけになりました。
出展したのは、2011年秋にパリで開かれた総合食品見本市「SIAL PARIS(シアル・パリ)」。この時、現在も取引していただいているパリの老舗日本食材店「KIOKO(京子食品)」の方と個別商談をして、深蒸し茶の輸出がスタートします。
2011年秋といえば、震災発生後の混乱の中で、日本から海外に食品を輸出する際は、出荷証明や放射能検査が必要でした。海外の小売店からしてみると、今まで何も問題なく運んでいた物流がストップする。物流がストップするということは、店の棚が空いてしまう。なので、棚が空かないよう新たな取引先を積極的に探している時期だったともいえます。逆境だった事象がむしろウチが輸出するきっかけをくれました。

数撃ちゃあた……らない。ピントを合わせていく

棚ぼた的に始まった輸出事業ですが、2012年にスタートしてから7年が経ちました。その間、だいたい年1回ペースで渡仏しています。フランス以外では、スペイン、イタリア、シンガポール、アメリカなどで開催される展示会や商談会に出展したりもしています。
展示会などに出れば、お試しの注文につながったりもするのですが、なかなか継続には至りません。フランスの小売店には年一回とはいえ定期的に訪問し、店頭の陳列具合や店内の様子を見ながら、現地の方と話をする機会を設けています。話をすれば、新たなニーズの発掘にもなるし、ウチの商品の課題点も見つかります。新商品の提案もしやすくなります。最初、深蒸し茶だけだった商品ラインアップは、今は、ほうじ茶、柿の葉ミントティー、目覚めのハーブティー、原木干ししいたけ、だし粉、有機つゆと増えています。

フランスの店舗用の商品POP

全てが順風満帆であるわけではありません。継続取引に至っていない国もたくさんあるし、継続していない商品もある。場数を踏むことでレンズのピントを合わせるように、徐々に合わせ方がわかってきた気がします。

周りを巻き込む 農業女子フェアin香港

数々の展示会や商談会に出てみて、小さな農家自身が生産から販促まで手掛けることの大変さもしみじみ感じていました。それに、海外で販売してみたいという農家の声をチラホラ聞いていましたが、家族経営の農家がチャレンジするというのはやはりハードルが高い。そんな時、香港のイオンと香港そごうの方との縁ができ、店頭販売の話が持ち上がります。ここで私は、貫井園単独での販促ではなく、女性農業者(いわゆる“農業女子”)という切り口で販促イベントを開きたいと提案しました。食品フェアの多くは都道府県別や品目別です。きっかけさえあれば、既存の枠組みを越えて、“海外で販売したい”という意欲で同志を募れるのではと思ったからです。この時点でどれぐらいの農業女子が参加してくれるか未知数でしたが、決めてしまえば後は走るだけです。

日程を決めたら、農水省の農業女子プロジェクト事務局や埼玉県、香港の日本総領事館等々を巻き込み、出展農業女子を募りました。結果的に、2017年1月開催の農業女子フェアin香港には、日本各地から9県15人の農業女子が参加し、第2回10月のフェアには、11県17人の農業女子が参加しました。

秋の農業女子フェアin香港のリーフレット。総勢17人の農業女子が香港で農産物をPRした

イオン、そごうそれぞれの店頭での農業女子立ち会いによる販売会の他、秋の2回目開催の際は、ABCクッキングスタジオでの料理デモンストレーションとレセプション、1カ月間にわたるシャングリ・ラ ホテルなだ万、香港の日本料理店・三笠屋での農業女子特別メニューの提供と盛りだくさんの企画内容です。日本総領事館の日本秋祭りと連動して、秋祭りの開催レセプションにも登壇させてもらいました。
このフェアをきっかけに、独自に香港への輸出の道すじを見つけたり、新たな商談・販路へのきっかけになったり、参加した農業女子同士の新商品開発につながったり、副次的効果もありました。きっかけさえあれば、一人一人は小さな農家でもまとまって取り組むことで大きな活動になる。その実績を残せたと思っています。

香港イオンのキッチンステージで、試飲試食販売をする私(右から2番目)と農業女子メンバー

“海外への販路を広げる”というと、とかくハードルが高く、未知のものと捉えられがちですが、埼玉からすると北海道も沖縄もフランスもアメリカもペルーも“海の外”という意味では一緒です。自分が育てる農産物を、どういう人に、どういった場所で、どう食べてもらいたいか。どこで販売をしていきたいか。それを考えていった先に、私にはフランスへの強い憧れがあり、フランスで売るには、と商品を合わせていきました。きっとそれは、ひとそれぞれ違うはず。皆が取り組むから、国の後押しがあるから、国内消費が落ち込むから、海外に。という発想ではなく、皆と同じことをしない、補助金に踊らされない、売りたいように売る。そのように思えたら、難しい販路開拓も、とても面白い仕事になると思っています。

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いま、販路拡大の活路として農産物の海外輸出に熱視線が注がれています。日本の農産品は、どのくらい、どこに輸出しているのでしょうか。実際の統計から分析した、人気の農産物とは? また、個人農家が海外取引を継続させるまでの体験…

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