神戸で“食と農”に携わり20年
──安藤さんは、どういった経緯で料理研究家になったのでしょうか。
私は大阪府豊中市出身で、大学卒業後に文具メーカーに入社しました。この会社のアンテナショップ担当部署に配属されて、仕入れやディスプレイ、ショップ経営全般を2年間ほど担当していました。今思えば、そこで食器を販売するためにディスプレイ用のパンを作ったことなどが、フードコーディネーターになる動機になっていたのかもしれません。その後、本社へ異動になり事務職を担当し、事務仕事ではなく手に職をつけたいと退職したんです。
料理やお菓子を何でも手作りする母の影響で、私も子供の頃からお菓子作りが好きだったこともあり、食に関わる仕事に就きたいと、退職後に神戸のフランス料理店「コム・シノワ」でアルバイトをしました。26歳の時です。そこでワインとの出会いがあり、ワインの勉強をしながら、やがてワインショップで働くことに。そのワインショップでさらに2年ほど働いてワインに関する資格をとりました。料理やワイン、食を通してつながっていく、人と人との関係性にとても興味を引かれました。
当時、たまたまショップのイベントに来ていた雑誌の編集者と知り合い、食品のスタイリング(食品を撮影する際に、器や雑貨などを組み合わせてコーディネートすること)や撮影用の料理を作るというフードコーディネーターの仕事をするきっかけができました。これが料理研究家としてのスタートとするなら、今から20年ほど前のことです。
──少し前までは「マルメロ」というカフェで料理教室もやっていましたよね。
フードコーディネーターをしながら、自分が体調を崩したこともあり、マクロビオティックの普及・啓発活動を行っている正食協会に通ってマクロビオティック(以下マクロビ)を学びました。マクロビは、玄米菜食で健康と平和をもたらそうとするもので、食の大切さを改めて知りました。自分でも畑を借りて野菜作りを体験し、農家さんの大変さを知りました。
2010年に、住宅街の中にある古い小さな一軒家で「マルメロ」を立ち上げました。そこでマクロビをテーマにした料理教室と、天然酵母パンを作っていた友人のパンの販売やパン作り教室も行いました。2014年に繁華街へ移転してからは、カフェ営業もしました。マルメロでは、農家さんを応援することをコンセプトのひとつとしていて、店内でファーマーズマーケットをしたり、規格外野菜で加工品を作ったり、畑へ出向いていくようなイベントの企画もしました。
たくさんのお客さまにご愛顧いただいていましたが、2018年にマルメロを閉店しました。現在は、食のセレクトショップ「ネイバーフード」が私の拠点です。
地産地消とマクロビの共通点「地元のもの、旬のものを食べて」
──活動の拠点になっている「ネイバーフード」のコンセプトは?
お店の向かい側に主人が経営しているワインショップがあって、2014年のオープン当初はワインに合う食材が中心の品ぞろえでした。でも実際にお店をやってみると、地元のおいしい食材や健康に良いものを求めているお客さまが多いと分かってきました。
今では、お店の商品は、市内の農家さんから直接届く野菜や果物と、その食材を使った自家製のデリやスイーツ、きちんと味見をして仕入れた国内、海外からの質の高い加工品が中心です。私は「食で街と田舎をつなぐ」をずっとテーマにしていて、それがネイバーフードのコンセプトでもあります。仕入れた食材をより良い形に変えて、農家さんの思いと一緒に街の人に届ける、そんな場所を目指しています。
──農家と消費者をつなぎ、地産地消を強く根付かせるということですね。
私はアメリカの料理家「アリス・ウォータース(※)」に感銘を受けて以来、地産地消の普及について考えてきました。マクロビには「身土不二(しんどふじ)」というテーマがあります。「その土地のもの、その季節にとれるものを中心に食べていると、住んでいる場所に適応できる」というような意味で、マクロビと地産地消は通じる部分があるんです。
実際にネイバーフードでも、なじみの農家さんの野菜を買いに来られるお客さまはたくさんいます。ふだん食べる野菜もですが、毎年春先に届く淡路島の農家さんの葉タマネギや、篠山の黒豆の枝豆なども。旬のおいしいものは、農家と消費者をつないでくれます。
お店では、店内で販売しているデリの他にも、企業向けの仕出し弁当を作ることもあります。オフィスで仕事している方にも、地産地消を料理で伝えることができて、うれしく思っています。お客さまには、野菜の保存法、切り方、食べ方、どんな農家さんが栽培しているかなど、いろんな背景をお話しします。
※ アリス・ウォータース:アメリカ・カリフォルニア州でオーガニックレストラン「シェ・パニース」を経営し、地産地消の普及に大きな影響を与えた食の活動家。食育教育活動「エディブル・スクールヤード」でも知られる。
──他にもファーマーズマーケット運営や食育イベントなど、安藤さんはさまざまな分野で活躍されていますね。
(一社)KOBE FARMERS MARKET(神戸ファーマーズマーケット)事務局のメンバーとして運営に携わったり、NPO法人 風の楽舎が主催する「里がワンダーランド」という親子里山プログラムの企画運営に関わったりしています。他に自身の企画で、Eco Friendly Club marmelo(エコフレンドリークラブ マルメロ)として、街と里山をつなぐ活動をしています。
安藤流「My農家さん」のススメ!
──長年にわたって食に関わってきた安藤さんですが、地産地消を普及させるためには、今後どんな取り組みが必要だと思いますか。
これからは、農家と消費者が直接つながることが大事になると思います。消費者は農家さんの顔を見て買うと安心しておいしく食べられるし、農家さんはお客さんの顔を思い出して農作業を頑張れる。ものを介してではなく、人と人が直接つながることが大事。
いろんな農家さんと知り合えるとなお良いのですが、その中に「うちの野菜はこの農家さんが作ってくれている」みたいな「My農家さん」がいて、親戚付き合いのような関係性を築けたらいいなぁと思うんですよね。農繁期には畑を手伝いに行ったり、一緒にアウトドアクッキングをしたり。
他には、CSA(Community Supported Agriculture)という、代金を先払いすることで農家さんの経済的な負担を軽減し、旬の野菜を受け取るというサポ―トシステムがありますが、これに参加するのも良いと思います。
──理想的ですが、「My農家さん」は難しい面もありそうです。街の生活者は、気の合う農家さんをどう探せばいいでしょう。
農家さんが直売を行うファーマーズマーケットや、里山活動、農業体験などのイベントに参加されるといいのではないでしょうか。情報はSNSなどで探すことができます。
私は2年ほど前から参加型のイベントをはじめました。場所は、神戸の街なかから車で30分ほどの神戸市北区淡河(おうご)町にある、地域の方々の力で再生した歴史ある建物「淡河宿本陣跡」をお借りしています。里山に街の人を呼んで、地域の方々や農家さんと一緒に農業体験や料理教室、ワークショップを楽しんでいます。イベントの告知はSNSを利用し、参加者は10~20人ほど集まります。今後は竹林整備などにも挑戦する予定です。
食を通じて農や里山と出会い、街で暮らしている人でも農的な暮らしができる。そのきっかけ作りのお手伝いができれば……と、いつも思っています。