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京大卒・非農家の女性が「振り売り」事業 京野菜を伝えるワケとは

京大卒・非農家の女性が「振り売り」事業 京野菜を伝えるワケとは

京都で今も続く「振り売り」。農家が店を持たずに野菜を運搬し、得意客を訪れて直接売りさばく販売方法です。そんな昔ながらのスタイルで京都の地野菜を販売するのが、京大卒で農業と無縁の世界にいた角谷香織(すみや・かおり)さん。提携農家である森田良彦(もりた・よしひこ)さんと共に、それぞれの立場から感じる振り売りの価値や、消費者の動向についてお話いただきました。

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「ものづくり」から「コトづくり」へ

――角谷さんは京大で建築学を専攻されていたそうですね。なぜ全く違う分野の振り売りに興味を持たれたのですか?

角谷さん:自分で建築物を作り上げるより、良い物の価値を伝えたり、プロデュースをする方が好きだと気付いたんです。
振り売りに興味を持ったきっかけは、大学時代に福島でお手伝いした、東日本大震災のチャリティーライブです。当時、福島県出身のシンガーのアシスタントをしていたため、縁あって関わらせていただきました。
イベントの一環で、農家さんに野菜を持って来てもらって会場内で販売したのですが、それが農家さんとの出会いでした。はじめて野菜の販売に携わったのもこの時でしたね。

――福島の農家さんとの出会いがきっかけなんですね。

角谷さん:はい。その後も福島の農家さんとの交流が続いて、明るくて面白くて、素敵な人たちが農業を支えていることを知りました。
当時は風評被害で福島の野菜が全く売れず、苦しいはずなのにとても前向きで……。「こんな素敵な人たちがおいしい野菜を作っていることを、もっと現地以外の人にも知って欲しい!」と思い、当時流行りはじめていたSNSで発信したのが始まりです。

その頃、私自身も、震災を機に働き方や生き方を考え直していました。悩んだ末、就職しようと思っていた内定先を辞退して、「Gg’s(ジージーズ)」と名付けて本格的に福島野菜のPRを始めることにしたんです。

――反響はいかがでしたか。

角谷さん:農家さんのことを知ってもらうと野菜にも関心を持ってもらうようになり、少しずつですが、福島野菜の食事会を企画したり、企業さんとコラボするようになり始めました。
そんな活動をしているうちに、野菜そのものや、京都の農家さんにも関心が広がっていったんです。

様々な場所で野菜のPRを行う

――野菜のことはどうやって勉強していったのですか?

角谷さん:本当に野菜の知識が無かったので、上賀茂の八隅農園さんでお手伝いをさせてもらうことにしました。畑で学ぶ感じですね。
京都の農家さんが今も振り売りをされていることも、その時に知りました。それで、面白そうだなって思ったんです。

――昔ながらの振り売りを「面白い」と感じられたんですね。

角谷さん:スーパーやネットで物を買う時代に生まれた私にとって、1軒1軒周って野菜を売る販売スタイルは、新鮮に映りました。
市場と違い、何をいくらで売るかも全て自分で決めます。
どう伝えられるかで、農家さんや野菜の価値を高められる。それってすごく楽しそうだなとい、2015年から振り売りを始めました。

農家、消費者、振り売りの関係

――お客さんはどうやって開拓したんですか?

角谷さん:知人の紹介やSNSで広げていきました。今は、一般家庭から料理店、レストラン、ホテルまで幅広くお付き合いさせてもらっています。そこで野菜のリクエストをもらって、栽培している農家さんを探しての繰り返しです。

――森田農園さんとの出会いも紹介ですか?

角谷さん:はい。ある野菜を探していた時に、料理人さんからご紹介いただきました。

――森田さんに伺います。角谷さんから振り売りの話を受けて、最初はどう思われましたか?

森田さん:「知り合いから聞いた」と、ある日ひょっこりやってきたんや(笑)。うちは息子と二人で人手が無いから、集荷に来てくれるんならええよ、と。
若い子がやろうって言うんやから、駄目ってことはないよ。

森田さん

――新しい挑戦も受け入れて下さる農家さんがいてこそですね。角谷さんとはどんな連携をされているのでしょうか。

森田さん:まず、角谷さんがお客さんから注文をとって、その連絡が入る。それを見て朝収穫する。わしらが畑に出てる間に集荷に来ても分かるように、うちのストックヤード(一時的に野菜を保管しておく冷蔵庫)の一部を貸して、メモと一緒に野菜を置いておくことにしてな。収穫が忙しい時は、「あそこの畑にあるから穫って行って」と言うこともあるね。

角谷さん:私は、朝早くから提携農家さんを順番に回って、注文内容を確認しながら軽バンに積んでいきます。仕分けをしたら、お得意様の元へ届けにいきます。丸一日かけて京都市内を回っていますね。

畑に入って自ら収穫することも多い

――信頼関係があるから成り立つ方法ですね。売り方や価格についてはどんな話をしますか?

森田さん:そこは角谷さんの腕次第や。わしらが口を挟むところやない。
ただ、京都の伝統的な漬物「すぐき漬け」を乾燥させた「ドライすぐき」を作った時なんかは相談して、レストランに紹介してもらったりするね。

すぐき漬けを乾燥させた「ドライすぐき」

角谷さん:仕事の話をするというより、一緒に畑に入って収穫したり、栽培以外の話もします。森田さんはアイデアマンなので、婚活イベントを開催したり、化粧品への展開も考えているんです。色んな話をしますよね。

森田さん:角谷さんは音楽をやっているから、休みの日にライブに誘われたりしてな!家族が増えた気持ちや。

角谷さん:農家さんともそうですが、お得意様も家族のような存在です。野菜を買える場所はたくさんあるのに、冷蔵庫のスペースを空けて私を待っていてくれる。そんな相手だからこそ、信頼する農家さんがどういう思いで作ったものなのか、物語と共に届けたいと思っています。

お得意様を周る軽バンには穫れたての野菜が積まれている

消費者が求めているもの

――非農家の角谷さんが振り売りをする利点は、どこにあると思いますか?

角谷さん:情報整理と調整ができる点です。複数の農家さんと提携することで、需要と供給を調整して欠品や売れ残りを防ぐことができます。また、去年よく売れた野菜を農家さんに伝えて、多めに作る準備をしてもらうことも出来ます。

森田さん:農家が振り売りをすると、自分の畑で穫れたものしか扱えん。お客様に「今日は結構です」と言われたら、そこで話が止まってしまう。だから農家もお得意さんが求めているものを聞いて、少しずつ色んな野菜を作るようになった。川上にいる農家と、川下のお客さんが繋がることが大事なんや。

――その橋渡しをしているのが角谷さんなんですね。

振り売りをする角谷さん

――お客様の傾向に変化を感じますか?

森田さん:食生活が変わって、人気の野菜も変わってきてるな。今は核家族で共働きの家庭が増えたから、忙しくてもぱっと作って食べられて、栄養価も高い野菜が人気やと思う。ミニトマトなんかは切らなくてもええし、女性も子供も一口で食べられるからええと思うよ。

角谷さん:地のものを食べたいという要望も高いです。京都の人でも、意外と京野菜を食べられていないという人がいるんです。忙しいからこそ、「もっと身近な部分で繋がりを持ちたい」「地元の生産者が作る新鮮な野菜を味わいたい」と願うのかもしれません。

――最後に角谷さんから、今後の展望をお聞かせください。

角谷さん:振り売りは、家族のような関係の人と、対話をしながらゆっくり買い物を楽しめる良さがあると思います。忙しい時代だからこそ、そんな時間が求められているのかなとも感じます。
そのため、今後も規模を大きくしたりシステム化にとらわれず、上賀茂で地産地消ができるような取り組みをしていきたいですね。

【関連リンク】
Gg’s(ジージーズ)

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