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地域おこし協力隊から原木シイタケ農家へ。

千田 一徳

ライター:

地域おこし協力隊から原木シイタケ農家へ。

静岡県伊豆の国市地域おこし協力隊、農家志し中のちだです。農業に興味がある、農家になりたい! そう思った時にあなたはどうやって農家を目指しますか? いろんな方法がありますが、今回は地域おこし協力隊を経て原木シイタケ農家への第一歩を踏み出した野本さんを取材しました。

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野本さんの紹介

野本さんは高知県出身の37歳です。なんと、元警察官です。

現在は静岡県伊豆市の地域おこし協力隊で、2020年1月に協力隊の任期を終えます。
これまで原木シイタケ農家さんの研修をしていた野本さんは、任期後も原木シイタケ農家として伊豆市で暮らすことを決めました。

奥様ともうすぐ2歳になるムスメさんがいます。

すでに任期終了後に住む家も確保し、必要な機材も揃えて暮らしも農業も準備万端!

なぜ地域おこし協力隊から農家になろうと思った?

ちだ

なぜ、そもそも警察官から農家になろうと思ったんですか?
昔から農家への憧れがあって、地元の農業高校に進んだんです。
でも、当時自分の周りには親や親戚が農家で自分も農業を継ぐという人がほとんどだったんです。

野本さん

ちだ

ゼロから農業をやるっていう人がいなかったんですね。
そういう印象ですね。土地も機械もない人間が農業をやるっていう人は僕の周りにはいませんでした。農家出身じゃなくても農業大学に進んで研究職になるという人はいましたけど。

野本さん

今でこそ都会から移住しての新規就農や継業(第三者が事業を引き継ぐこと。この場合は農業)は一般的になりつつありますが、20年前は状況がかなり違ったようです。

大学進学の話もあったんですが、諸事情で進学せず地元企業に勤めて、その後警察官になりました。そのまま11年ちょっと勤務しました。

野本さん

警察学校入校当時の野本さん(右)。

ちだ

そんなに長く勤めたのにやめるなんて。農業への思いが大きかったんですね。
そうですね。それに今は補助金も充実しているので、なんとかなる! 飛び込んでみよう!!と前向きに決断できる環境になっていたというのも大きな理由です。

野本さん

地域おこし協力隊を選んだ理由

ちだ

では、なぜ地域おこし協力隊を選んだんですか?
大きいのは、月々のお給料がいただけて、技術も学べてかつ家賃などの補助もいただけるという点ですね。

野本さん

元々は地元高知県で農家になろうと決意していた野本さん。高知で農業研修をしている時に現在の奥様と知り合い、結婚を機に奥様の地元である静岡県沼津市へ移住しないかと提案されたそう。

経営準備型(農業次世代人材投資事業・準備型)の給付金をいただきながら研修ということも考えたんですが、家賃などの生活費を考えると二人ではどう考えても生活が回らなかったんです。

野本さん

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何かと物入りとなる新規就農。これから就農を考えている皆さんの中には、国の補助金を利用したいという人も多いのではないでしょうか。代表的な例として、就農前後の資金繰りをサポートする「農業次世代人材投資資金」が挙げられますが…

ちだ

経営準備型をいただけたとして、年間150万円ですもんね。1/3以上が家賃でなくなっちゃいますね。
そのタイミングで、以前から相談していた県の移住担当の方などに「伊豆市が農業分野で地域おこし協力隊を募集している」ということを教えていただいたんです。

野本さん

ちだ

地域おこし協力隊であれば報償費や経費(家賃やその他活動に使用したもの)で最大400万円いただけますもんね。
家族で暮らすことを考えると非常にありがたいです。また、妻の実家がある沼津市と僕が働く伊豆市は隣り合っているので立地面でも条件が合いました。

野本さん

ちだ

一方で、農業系の地域おこし協力隊の募集は「○○農家になりませんか?」といったように作れる作物が限定されていることが多いんですが、その点は気になりませんでしたか?
実は、収益性などを考えて最初はイチゴ農家を目指していたんです。

野本さん

当初、高知県でも伊豆でもイチゴ農家を希望していた野本さん。実際、イチゴ農家の新規就農者が多い伊豆の国市での研修も視野に入れたそうです。

でも、伊豆市の地域おこし協力隊の募集はワサビ農家でした。イチゴではないけど、それはそれでいいかなって。

野本さん

ちだ

それは、やっぱり生活を優先させた、ということですか?
生活もありますが、地域おこし協力隊になることで、地域の方との交流が多く生まれると思ったんです。その中で生まれたつながりが、例えば継業の話を生んだり、という可能性もあるかなと考えたんです。

野本さん

ちだ

なるほど。農業を始める時に一番大変なのが農地の確保ですけど、そういったご縁があればスムーズに話が進みそうですね。

原木シイタケ農家を選んだ理由

ちだ

元々イチゴ農家になりたくて、でも地域おこし協力隊の募集はワサビ農家で、って原木シイタケという文字が一つも出てきませんが。
ここも地域おこし協力隊の制度の柔軟なところかもしれませんが、協力隊として合格した後に急きょ変更になったんです。ワサビから原木シイタケに。

野本さん

静岡県伊豆市の地域おこし協力隊として合格した野本さん、移住して役所や関係各所との打ち合わせをしている際にこんなことを言われたそう。

「ワサビもだけど、原木シイタケも後継者不足が非常に深刻だ。収入も確保可能なので、原木シイタケを活動のメインにしてはどうか」

木で育つ原木シイタケは伊豆の名産品の一つ。

そこから話がいろいろ進んで、僕は原木シイタケをやる、ということになったんです。

野本さん

ちだ

かなりの変わりようですが、話が違うぞ的なことにはならなかったんですか?
やっぱりびっくりはしましたが、ワサビも原木シイタケもどちらも自分にとっては経験していないものです。それに後継者が不足しているという社会的な課題が目の前にあるのだから、自分が役に立てるならという思いが強かったですね。

野本さん

こうして、警察官から農家を志した野本さんは伊豆へと移住し、地域おこし協力隊として原木シイタケの生産に携わることになりました。

実際に協力隊から農家を志して、実情。

原木シイタケ農家のきつさ、意義を実感

ちだ

原木シイタケって、山の中にある木で作るじゃないですか。ということは仕事の大半は山ですよね?
ほぼ、林業ですね(笑)協力隊として、原木シイタケ農家さんのお師匠さんのところに付いたんです。で、今までずっと一緒に仕事をしてきました。毎日、山に入るんです。

野本さん

ちだ

体がきつそう……
山の傾斜がきつくて、四つん這いにならないと登ることができないんですよ。そこで一日中、山の中で作業をしてるんです。最初の数カ月は筋肉痛がひどくて、夜寝返りをうつたびにうめき声をあげてましたよ。

野本さん

ちだ

やめたくなりませんでした?
体はきつかったですけど、お師匠さんは本当によくしてくれました。今でも独立を気にかけてくださっていて、お師匠さんの知り合いで機械を安く譲ってくれそうな方を紹介してくださったりします。そういった縁や、後継者不足という課題に立ち向かう、という意識が強かったので続けられました。
また、原木シイタケが本当においしいんですよ。農家として、自分がおいしいと思うものを作りたい、という意識があるのでこの仕事を続けたいという思いもありました。

野本さん

野本さんの娘さんをまるで自分の孫を見るような笑顔で見つめるお師匠さん。関係性の深さがうかがえる。

地域に溶け込む努力

ちだ

地域おこし協力隊となると、農業以外の部分も期待されてくるのではないかと思うのですが。
もちろん、地域おこし協力隊なので意識的に地域に関わるようにしていました。
消防団に自ら志願してつながりを作ったり、お祭りのお手伝いをしたりと地域とのコミュニケーションを多くしていました。

野本さん

伊豆市土肥(とい)地区のお祭りに参加する野本さん。

ちだ

地域おこし協力隊だからこそ求められるものもありますもんね。逆に農家にはなりたいけどそういうのが苦手な人は辛いかも……
そういうこともあってか、おかげさまで今ではありがたいことに、いろんな方が協力してくださっています。
例えば、家の庭は購入当時かなり荒れていたんですが、ここを同じシイタケ組合の方々がみんなでやってきて、木を切って砂利をひいて立派な駐車スペースにしてくれました。

野本さん

野本さんの新居の駐車場。なかなかの荒れ具合だった。

チェーンソーを持った方々が木を切ってまとめ、ダンプで運び出し、ユンボで整地して、砂利をひいてくれたそうです。

工事後。何ということでしょう。1日でこうなったそう。

ちだ

これ、一人じゃ永遠に終わらないですもんね。
シイタケの研修先のお師匠さんはじめ、いい方々と巡り会えたのがありがたいです。

野本さん

ちだ

野本さんの懸命な姿勢や行動を見て、みなさんが野本さんを応援したい!という気持ちになったんでしょうね。

原木シイタケ以外の作物にも挑戦

ちだ

同じ家族持ち、同じ農業志し中として伺いたいのですが、原木シイタケ農家として生計は立てられそうですか?
一人でできる量の限界までやったとして、ぜいたくをしなければ暮らせるかな、という感じです。
また、原木シイタケは季節もので、夏場はその仕事がありません。
その間は別の仕事やホップの生産などを組み合わせてうまくやりくりできればなと。

野本さん

野本さんは、地域おこし協力隊として何か地元に新しい農産物を定着させて農家の所得向上に貢献したいという思いから、ホップの生産を始めています。

野本さんのホップ畑

緑の丸いものがホップ。さわやかでとってもいい香り。

ちだ

ホップってビールの原料に使われるやつですよね? なぜまたホップを?
伊豆市に地ビール会社があって、そこでは敷地内でホップを少し生産してるんです。
実は国産ホップって生産量がまだ多くないんです。
それに、地ビール生産が全国的に定着しているので需要が高いかなと考えました。

野本さん

ちだ

なるほど。先ほどおっしゃってましたが、原木シイタケを生産しない夏場に作れるというのもポイントですね。
そうです。さらに、ホップは乾燥させて販売もしますが、同様に原木シイタケも乾燥させて販売します。つまり、原木シイタケを乾燥させる機械を使わないタイミングでホップに利用できるんです。

野本さん

ちだ

これはナイスアイデアですね!!
まだまだ試験段階ですが、これから頑張っていこうと思っています。

野本さん

まとめ

農家を志す人にとって、地域おこし協力隊を経由して農家になるというのは考えるべき選択肢ではないでしょうか。

ちだ的にポイントだと思う点をまとめました。

ポジティブな点

  • 協力隊の活動に対してのお給料、経費がいただける
  • 人との縁が生まれる

考慮しておくべき点

  • 「地域おこし協力隊」としての活動が求められる
     (好き勝手できるわけではない)
  • 人とのコミュニケーションも重要
  • 農作物が限定される
  • 募集されている地域でしか活動できない
     (住みたい地域に協力隊の募集があるとは限らない)

野本さんはいいご縁に恵まれ、農家としての生活を始めることになりました。
これは、協力隊の期間中に野本さんが一生懸命活動をした結果です。

地域おこし協力隊になったからと言って、必ずしも自分が思い描く生活を手に入れられるわけではありません。

しかし、地域に貢献したい、農家になりたいと思う方にとっては魅力的な選択肢かなと思います。

地方、農業に興味がある方は一度調べてみてはいかがでしょうか。

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