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圧倒的スケールの農業大国オーストラリアで、最先端農業に触れてきた【Vol.3】

連載企画:農業大国オーストラリアで、最先端農業に触れてきた

圧倒的スケールの農業大国オーストラリアで、最先端農業に触れてきた【Vol.3】

マイナビ農業企画制作部員による、オーストラリア農場視察ツアーの体験記第3弾! 規模も生産量もピカイチのオーストラリアですが、生産者を悩ませるのが渇水問題。世界でもっとも乾燥した大陸とされる同国は、降雨量が年によって激しく変動し、干ばつや洪水が頻繁に発生します。収量も天候に大きく左右され、2006年の大干ばつの際は、コメの収量が前年度に比べ84%(※1)も落ち込んだことも。連載ラストとなる今回は、農業大国オーストラリアの水事情と、そこに挑む生産者の取り組みをご紹介します。

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干ばつで生産量が大きく変動

国土の2/3以上が乾燥地帯のオーストラリアでは、国土の半分が農用地でありながらそのほとんどが放牧地。灌漑農業を行っている土地は全体の0.5%(※2)ほどしかありません。

視察で各地を車で移動していると、「本当に農業大国なのか」と疑うほど、目に入ってくる景色はほとんどが半砂漠で茶色く乾いた土地。緑豊かな圃場はとても限られている印象でした。

車窓から。場所によっては20分くらいこの風景が永遠に続くことも

車窓から。場所によっては20分くらいこの風景が永遠に続くことも

降雨量も少なく、干ばつが頻繁に発生しては国内全体の農業生産が大きく減少します。干ばつが直接的に影響するのは小麦やコメといった穀物の生産ですが、飼料用の穀物が不足することで、畜産業にも影響を与えます。ある干ばつの年には飼料用の穀物を優先して確保し、食用の穀物は輸入する、なんてことも行われたそうです。

クイーンズランド州・グンディウンディで小麦や大麦、ひよこ豆などの穀物を生産している『Carpendale Group』では、水分を少しでも確保するべく、地中深めに種を撒いているとのこと。さらに栽培コストを考えて年2回の作付から年1回に変えました。「収入より栽培コストの方がかかることもあり、作付自体を諦める生産者もいる」と、視察に同行したクイーンズランド州職員のケリーさんが教えてくれました。

『Carpendale Group』の穀物貯蔵庫。港までの輸送以外栽培から販売まで一貫して行う

『Carpendale Group』の穀物貯蔵庫。港までの輸送以外栽培から販売まで一貫して行う

ケリーさんによると、作付しない農地は荒れるので、生産者は羊を飼って草を食べさせているのだそうです。作付を再開したら羊はどうなるのかと聞くと、「売って収入にする」とのこと。オーストラリアはニュージーランドと1、2を争う世界最大の羊肉輸出国(※3)であり、国内の需要も高いです。なるほど、うまくできています。

羊は枯草も食べるし、乾燥に強い生き物です

羊は枯草も食べるし、乾燥に強い生き物です

水管理には細心の注意を払う

クイーンズランド州は、豊かな土壌と比較的容易に農業用水を確保できることにより、灌漑農業における野菜の生産額はオーストラリア全体の32%を占めています(※4)。天水に頼らざるを得ない穀物の栽培に比べ、灌漑農業は干ばつの影響を受けにくいと言われており、とくに野菜は安定的な生産が期待できるそうです。

『Moonrocks』のブロッコリー畑。その場で収穫したものを試食。みずみずしさに感動しました

『Moonrocks』のブロッコリー畑。その場で収穫したものを試食。みずみずしさに感動しました

とはいえ、灌漑農業も干ばつの影響をまったく受けないわけではありません。生産者の元を訪れると、圃場の水管理にこだわったり、工夫する姿が見られました。

セント・ジョージで野菜を大規模に栽培する『Moonrocks』では、国内最大手のスーパーチェーンと直接契約し、国内の消費を支えています。圃場近くには川が流れており、近くの生産者とルールを定めて共同で利用しているとのこと。限られた水を無駄なく使うためにも、自動かん水チューブを圃場内に巡らせ、ICT技術を活用しながら管理しています。

圃場近くの川。「ルールを破ることはないのか」と尋ねると「周りの仲間を裏切ってまで得たいものはない」とのこと

圃場近くの川。「ルールを破ることはないのか」と尋ねると「周りの仲間を裏切ってまで得たいものはない」とのこと

同じくセント・ジョージでブドウを栽培する『Riversands Vineyards』は、イスラエル製のかん水装置を使用。農業専門のコンサルタントと相談して土地や栽培物に一番合った機械を購入したのだそうです。「水管理設備はとても重要だからいろいろ見比べた」とオーナーのディビッドさんは話します。

『Riversands Vineyards』オーナーのディビッドさん。ワイン用と生食用の2種類を作付時期をずらして上手に栽培している

『Riversands Vineyards』オーナーのディビッドさん。ワイン用と生食用の2種類を作付時期をずらして上手に栽培している

オレンジ色のタンクがかん水装置

オレンジ色のタンクがかん水装置

“農・官・民” 協働で課題に挑む

生産者がそれぞれ工夫をする中、国内のアグリテック企業も動きを見せます。クイーンズランド州・グンディウンディに会社を構え、AIを活用した画像解析サービスなどを生産者向けに提供する『infarm』では、衛星を使った圃場診断の実証実験をイスラエルで行っているそうです。実験が成功すれば作物の水分量などの状態を細かく把握できるため、必要最低限の水の使用で栽培が可能です。

「イスラエルはオーストラリアと同じように乾燥して雨量も少ない国。協力し合うことで、両国の農業に貢献していきたい」と、同社の常務であるジェロムさんは意気込みます。

『infarm』のジェロムさん。ドローンを活用したサービスも実施しているそう

『infarm』のジェロムさん。ドローンを活用したサービスも実施しているそう

オーストラリア国内の水の7割弱は農業用水(※5)として使われているため、干ばつ時には国民の節水への協力も不可欠です。オーストラリア政府は、2004年の国家水憲章の制定をはじめ、2007年の連邦水法の改正など、効率的で効果的な水資源管理を行っており、日本においても参考になること間違いありません。その他にも気候の変動に強い品種の改良を進めるなど、政府も渇水問題に取り組んでいることが伺えます。

違いこそが新しい商機に

視察中、現地企業とのミーティングの様子。オーストラリアの会社では、午前10時頃と午後3時頃におやつタイムがあることが多い

視察中、現地企業とのミーティングの様子。オーストラリアの会社では、午前10時頃と午後3時頃におやつタイムがあることが多い

これまで、クイーンズランド州の農場視察ツアーに参加した様子を全3回に分けてご紹介してきました。第1回ではオーストラリア農業の規模や主要作物をざっくり紹介し、第2回ではスーパーや農場で出会った農産物から、オーストラリアと世界の消費者のトレンドを探りました。そして今回は、オーストラリア農業の最大の課題である渇水問題を取り上げました。

セント・ジョージで綿花栽培を行う『Rogan Pastoral Company』の圃場を視察。白い塊は収穫したてのコットン

セント・ジョージで綿花栽培を行う『Rogan Pastoral Company』の圃場を視察。白い塊は収穫したてのコットン

視察時も、記事を3本書いている時も「日本とはいろいろ違う」と感じることは変わりません。違うからこそ、日本の生産者や農業関係企業にとって、オーストラリアの農業は新しい商機で満ちているはずです(その逆もしかりです)。マイナビ農業ではこれからも「違い」に着目しながら、各国の事例を紹介していきます。


※1 日本貿易振興機構 農林水産部「平成20年度 コンサルタント調査 オーストラリアにおける農産物の生産・貿易政策の現状」より引用
※2 2008年。ABS(Australian Bureau of Statistics)「Agricultural Commodities, 2007-2008」より引用。
※3 2012年。FAO調べ。
※4 2006年。ABARES(Australian Bureau of Agricultural and Resource Economics and Sciences)「Australian vegetable growing farms: an economic survey, 2007-08」より引用。
※5 2005年。ABS「Water Account, Australia, 20004-05」より引用。

(参考資料)
・八丁 信正・松野 裕「オーストラリアの農業と水市場を通した水取引」(2011)

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