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【害獣対策】専門家が教える!効果が高い電気柵の選び方

【害獣対策】専門家が教える!効果が高い電気柵の選び方

日本全国で野生鳥獣による農作物被害が発生しています。被害を食い止めるために農家さんは農業系の新聞や雑誌、インターネットなどから情報を集め、被害対策グッズを購入すると思います。しかし、田畑を囲うための柵一つとってみてもさまざまな製品が販売されており、何を選んでいいのか迷ってしまいます。そこで、被害対策の効果が高い電気柵の選び方を紹介します。

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電気柵の肝は“設置”

電気柵の仕組みや動物の行動をよく知る方なら、どの電気柵を使ってもいいでしょう。
電気柵は本体の電柵器、電気を流す柵線、柵線を支える支柱、柵線を支柱に固定する碍子(がいし)、アースを取るためのアース棒で構成されています。

商品価格は、原材料費や製造費、流通運搬費、宣伝費、人件費やサービス費、さまざまな費用が計算されて決められます。原材料費の差は価格に直結しますが、最も価格差が出るのは、アフターフォロー等のサポートで生じる人件費です。そのため、アフターフォローの有無によっても価格が変わってきます。
電気柵の効果の分かれ目は正しく設置できるかどうかにかかっていますので、安いだけのものより、メーカーが直接アドバイスしてくれる製品が良いでしょう。

少し前は、電気柵の電気を通す柵線(ワイヤー線)を比較して選ぶこともできました。柵線の多くは、ナイロンコードにステンレス線を編み込んだ物が出回っていますが、低価格の電気柵のセットの中にはこのステンレス線が少ないものがあります。
通常は6本のステンレス線が編み込まれているのですが、3本や4本、中には2本しか編み込まれてないものも存在します。ステンレス線が少なければ、その分価格を抑えたり、もうけを出したりできますが、ステンレスがナイロンコードの中に埋もれやすく、それだけ動物に電気ショックを与えることが難しくなります。最近ではステンレス線の少ない商品はめっきり減りました。

仕様書にも購入のヒントがある

柵線の質で選ぶこともできますが、電柵器本体の構造は複雑でさまざまな原材料が使われており、その性能差を見極めるのは簡単ではありません。しかし、製品に付属している取扱説明書やその中に記述されている仕様書を見ると、そのメーカーがどのような考え方で製造販売しているのか、ある程度理解することができます。

例えば、電池の寿命です。
単一電池を同じ8本使うタイプの電柵器でも、メーカーによって電池寿命が1カ月と記述されているものと3カ月と記述されているものがあります。
電柵器は命に危険がないように、さまざまな技術が導入されています。その一つは電気を間欠で流す技術です。電気が流れ続けている電線を手で握ると、筋肉が硬直して線を握り続けてしまいます。すると、多くの電流(致死電流。電圧ではない)が体内を流れて死に至ってしまいます。
獣害対策用や畜産用の電柵器は電気が流れ続けることはなく、約1秒間隔で電気が流れます。したがって、ショックを受けてもすぐに柵線から離れることができます。

電気柵の電池寿命が十分にある時は、どのメーカーの電柵器も1秒程度の間隔で電気を流します。しかし、電池の寿命が近づいてきた時に電柵器によって電気の流し方に違いが出ます。
電池の寿命が尽きるまで1秒間隔で電気を流し続け、潔く1カ月で止まる電気柵と、電池の容量が減ってくると2秒間隔そして4秒間隔と電気を流すまでの間隔を伸ばし、なんとか3カ月間作動し続ける電気柵があります。
2秒間隔や4秒間隔では野生動物の侵入を防ぐのは難しくなります。

また、電柵器には連続モード(24時間モード)と夜間モードの切り替えスイッチが付いています。
野生動物の行動研究が進み、電気柵は24時間通電することが常識となった今は、この機能はすでに過去のものになっていますが、説明書に電池寿命3カ月と記述し、注意書きで「夜間モード使用時」と記してある場合があります。

以上のように、電気柵の効果を十分に発揮させるために設計された製品と、電池交換を忘れても、なんとか電池寿命が延びるように設計された製品があります。

3種類の充電方式

ソーラーバッテリー式の電気柵本体

電気柵の電池寿命について説明しましたが、電池式以外にもバッテリーに充電して使うものや、ソーラーパネルを利用して電池やバッテリーの交換の手間を省けるものもあります。
ソーラーパネル式は他の方式より数万円高い価格設定です。電池交換式の方が安いですが、こまめな電池交換を行う必要があり、これを怠ると野生動物に農作物を食い荒らされてしまう危険性が増します。また電池費用も、ちりも積もればかなりの費用になりますので、十分に検討することをお勧めします。ソーラーパネルの後付けキットを販売しているメーカーもありますので、後からソーラー方式に変更することも可能です。

支柱の選び方

支柱は、素材や構造の違うものが数多く販売されています。基本的には各メーカーの電柵器本体とセットで購入することが多いと思いますが、使用中に支柱を追加購入する方も多く、近くのホームセンターなどで購入する場合もあるでしょう。

1. 作業性の違い

支柱は、設置方法の違いにより大きく分けて2種類あります。支柱の頭をハンマー等で叩いて地中に入れる、いわゆる普通の支柱と、支柱の下部に突起があり、これを足で踏んで地中に固定する支柱があります。
突起物等のない普通の支柱は、比較的軟らかい地面に深く差し込んで使うのに適しています。硬い地面の場合、ハンマー等で打ち込むことになりますが、支柱の頭が潰れてしまい、その後のクリップ碍子の設置と取り外しができなくなる場合があります。打ち込む場合はゴムハンマーを使用するようにしましょう。
突起を足で踏んで設置するタイプの支柱は、硬い地面でも比較的容易に支柱を設置できますが、あらかじめ、地中に差し込む深さが決まっているため、とても軟らかい地面には適さない場合があります。

2. 碍子

一般的な支柱は碍子と別に独立しており、碍子を支柱に取り付けて使用しますが、初めから支柱と碍子が一体になったものがあります。
一般的な支柱は碍子を一つ一つ取り付ける手間がかかりますが、電気を通す柵線の位置(高さ)を細かく調整することができます。
碍子と一体型になっている支柱は、碍子を取り付ける必要はなく、作業時間は節約できます。しかし、柵線の位置(高さ)を細かく調整することはできません。

支柱と碍子にもさまざまなタイプがある

3. 構造(樹脂型/グラスファイバー絶縁素材/鋼管皮膜型)

支柱に使用される素材は数種類あります。
電気を通さない絶縁素材である樹脂製のものやグラスファイバーを束ねたものもあります。また、鋼管に絶縁素材で皮膜した鋼管皮膜型の支柱も多く利用されています。
絶縁素材を用いた支柱は柵線が接触しても漏電が発生しないので安心して使えます。グラスファイバーを束ねたダンポール(トンネル栽培用の支柱)を短く切断して利用する方法もありますが、切断面や長期間の使用で破れた皮膜からむき出しになったグラスファイバーが刺さるケガをしやすいので注意が必要です。
鋼管に皮膜したもの(例えば園芸用のイボ竹)が利用されることもありますが、長期の使用により皮膜が傷ついたり、柵線と接触することにより小さな穴が開いたりすることがあります。
このような傷や小さな穴に柵線が触れると漏電が発生し、1000ボルト以上電圧が下がることがあります。こまめな点検が必要です。

電気柵に必要な電圧

製品によって出力できる電圧が異なります。しかし、電圧が高ければ良いわけではありません。
3000ボルト通電していれば、鼻先で柵線に触れたイノシシは退散します。一般的に4000ボルト流れていれば、多少の漏電があってもイノシシなどにショックを与えることができるので、7000ボルトの製品でも1万ボルトの製品でも効果にそれほど差はないと考えて良いでしょう。
電圧の強さにこだわるよりも、農地のサイズに適合しているかどうかをしっかり確認しましょう。

製品によって違うアース形状

電気柵のセットには必ずアース棒が含まれています。イノシシなどの動物が鼻先や口元で電気柵に触れた時、電気が動物の体の中を通過し、足先から地面に抜けていきます。その時にアース棒がその電気を拾うことで回路が成立し、電気ショックを与えることができます。したがって、アース棒の設置は重要です。

アース棒は製品によって形状が異なります。電柵器の下にアース棒がつけられて、電柵器を設置する支柱の役目も果たすタイプは、比較的小型で簡易な商品に多い構造です。
電柵器本体から線でつなぐタイプには、1本の長い金属のアース棒を地面に打ち込むものと、比較的短いアース棒をタコ足のように5本以上地面に打ち込むものがあります。それぞれの使い方のポイントを見ていきましょう。

広くアースを取るタコ足(写真左)と地中深くに刺す一本式(写真右)

1本の長いアース棒

長いアース棒が付属している場合はできるだけ深く打ち込みます。地上に余らせる必要はありません。地面は層状になっていることが多く、乾燥しやすい地表や石や砂利の層ではアースが効きにくくなります。そこで、アース棒を深く打ち込んで、アースの効きが良い層に当たる確率を高めるために長くなっています。

タコ足のアース棒

タコ足のアース棒が付属している場合はアース棒同士が線でつながっていますが、できるだけ線を伸ばしてアース棒同士が離れるように打ち込んでください。タコ足型はできるだけ広範囲にアースを設置してアースの効きが良い場所を確保する方式です。

電気柵は決して安いものではありません。以前に比べれば性能も上がり、購入し易い価格帯の廉価版も売られています。それでも数万円から10万円の投資が必要です。安い買い物ではありません。気軽に購入できる数千円の追い払いグッズを使用しても毎年被害にあうのであれば、10年間で数万円を使った上に被害も減りません。しかし、電気柵は正しく管理すれば5年10年その効果を発揮し、農作物被害を防ぐことができます。初期投資のコストはかかりますが、5年、10年と使えれば一年あたりのコストは数千円になります。

また、電気柵は設置してからの点検が一番大切です。テスターも同時に購入して、定期的に電気柵の通電状況を把握しましょう。

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