持続可能な農業のカギは、人材育成と経営力。安全・安心な農産物の安定供給が使命
会津盆地の西縁北部に広がる低地と丘陵性山地からなる喜多方市慶徳町。この地域には国の重要文化財の新宮熊野神社長床や重要無形民俗文化財の慶徳稲荷神御田植祭、国史跡の新宮城跡,会津盆地西縁を通る会津まほろば街道などが現存し、今に伝えられています。この歴史と伝統にあふれる地で水稲、キュウリの栽培を行っているのが会津農匠株式会社です。代表取締役の大川原義男社長は代々続く農家の10代目。30歳で家業を継ぎ、同社を設立しました。現在、水稲は18ha、全面積雨よけ栽培のキュウリはハウス面積75aという広大な圃場で、7人のスタッフと共に農作物を育てています。
長い間、家族経営で営んできた農業を、法人化したきっかけは、農業を仕事にしたいという若い世代の声と大川原社長は話します。「農業指導員として指導にあたった際、意外にも20代の若者たちが農業をやりたいという情熱を持っていることに驚きました。後継者不足は農業の大きな課題だったので、やる気のある若者を育てることが急務と考え、雇用を生むために法人化を決意しました」。
雇用を生むことで栽培技術を組織として繋いでいくことを目的の1つに掲げスタートした会津農匠は2012年の設立以来、20代を中心としたスタッフが従事。農業研修生も広く受け入れ、関東からの就農希望者も招き入れているそうです。
良い農産物選びは、良い農場選びから。『JGAP』取得でさらなる安全性を追求
農業を職業として確立し、求められる品質の農産物を求められる数量で供給することを2つ目の目的とする同社は、持続可能な農業のためには安定した経営が必要不可欠と考えています。「そのために心がけているのは、安全と安心、さらには安定した価格の維持です。ニッチな市場を攻めるのではなく、消費者が求めている安全・安心な農作物を、少しでも安く供給するための努力を惜しまないことが私たちの務めだと思っています」。その証となるのが食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証「JGAP」の取得です。2019年に取得した同社は、さらなる安全性と品質向上を追求し続けています。
また、通年雇用を実現するために、水稲とキュウリが農閑期に入る冬場の収益確保にも積極的に取り組んでいます。東北の春の味覚、タラの芽の促成栽培のほか、現在新たに建設中のハウスでは、菌床シイタケ栽培を行う予定です。
挑戦し続ける匠の背中に農業の可能性を見た、若きファーマーたち
会津農匠で汗を流す10名のスタッフのほとんどが農業経験がない20代の若者たち。水稲とキュウリ、それぞれが役割を担い、作業の効率化を実践しています。水稲を任されている大川原大輝さんも、非農家から就農した1人。大川原社長の娘さんとの結婚を機に、夫婦で会津農匠の一員になりました。「それまで農業はキツイ上に儲からないというイメージがありました。その意識を変えたのは社長のアグレッシブな姿です。農業にはチャンスがあると思わせてくれました」。
圃場の整備や安定供給のための設備投資、栽培技術向上のための研修などに積極的に取り組む姿勢は、若い世代の希望になっていると大樹さんは言葉を続けます。「農業は確かに大変な面もあります。でも、収穫の喜びはそれを上回り、何より自然の中で仕事ができることがとにかく気持ちいいんです」と、さわやかな笑顔で農業の楽しさを語ってくれました。
社名の会津農匠には、ふるさと会津の魅力を、農産物を通して知ってもらいたいという願いが込められています。農業の匠として次世代にバトンをつなぐことに、農業の未来があると考える大川原社長は、独立就農に向けた研修生の受け入れも含め、今後も人材育成に力を注いでいきたいと話します。「農業をやっていて嬉しいのは、消費者から美味しいと言われること、そして会津農匠のような農業をやりたいと言ってもらえることです。ここから巣立った若手たちが次の世代にバトンをつなぎ、日本の農業を支える存在になってもらえたら嬉しいですね」。
取材に訪れた9月中旬、穂を実らせた水稲は間もなく収穫の時を迎えようとしていました。黄金色のその輝きは、明日の農業の道を照らす光のよう。会津農匠はその光を灯し続け、これからも邁進していくことでしょう。
会津農匠株式会社
住所:福島県喜多方市慶徳町山科字巻3403
電話:0241-23-5708
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