規格外の就農者が登場「有機農業はもうかる。しかも楽」

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規格外の就農者が登場「有機農業はもうかる。しかも楽」

連載企画:農業経営のヒント

規格外の就農者が登場「有機農業はもうかる。しかも楽」
最終更新日:2020年07月31日

新規就農者で、農薬や化学肥料を使わない有機農業をやりたがる人は少なくない。ではなぜ有機農業なのか。おいしい野菜ができる。作物が安全で安心。環境に優しい。いろいろな動機はあるだろうが、「もうかるから」という理由で有機農業を選ぶ人はそう多くはない。今回はそんな珍しい例を取り上げたい。茨城県つくば市で2015年に就農した伏田直弘(ふしだ・なおひろ)さんだ。

「丸っこいマーク」が付加価値になる

最初に伏田さんの強烈な一言から紹介しよう。
「あの丸っこいマークのシールが貼ってある野菜はそんなに多くない。マークの意味を消費者に知ったもらったうえで、一般的な農法で作った野菜と同じような値段で店頭に出せば、きっとこっちを買う。そんなことが世の中にほかにありますか。ビジネスチャンスとして素晴らしいじゃないですか」

ここでいう「丸っこいマーク」とは、JAS法に基づいて、有機栽培で作ったという認定を受けた農産物に貼ることができる「有機JASマーク」を指す。伏田さんは続いて「このマークを取る労力はたいしたことないです」とも話した。有機栽培は難しくないと言うのと同じ意味だ。
公害などの社会問題を背景に1970年代に日本で有機農業を始めた人たちの中には、有機農業を「お金もうけの手段」と考えることに強く反発する人がたくさんいた。もちろん、そういう価値観を持って有機農業に取り組むことを否定すべきではない。

経営を急拡大している伏田直弘さん

一方、伏田さんは環境問題には「まったく関心ない」という。では「素晴らしい」と評したビジネスチャンスをどこまでつかむことができたのか。

栽培品目はコマツナとミズナ、ホウレンソウ、ロメインレタス、リーフレタス、パクチーなど。多品種少量栽培が多い一般の有機農家と違い、品目を絞って栽培の技術と効率を高めてきた。栽培ハウスは39棟で、面積は合わせて90アール。露地栽培も60アールでやっている。
売り上げは初年度が1000万円強で、今年は7000万円超を見込んでいる。まだ就農して5年弱。ふつうの新規就農でもまれな急成長と言っていい。しかも1億円まで増やすこともそれほど難しくないという。

一般の農法と比べて栽培が難しく、収益性は必ずしも高くないと言われることが多い有機農業で、伏田さんはどうやって異例の成長を続けているのか。これまでの歩みをたどりながら、そのことを説明していこう。

主力の栽培品目のコマツナ

生まれは1978年。実家は非農家だが、大学に入るころには将来、農業経営を手がけることを考え始めていたという。そこで九州大学で農業経営学で修士を取得、外食チェーンを運営している企業に就職した。この企業が農業参入を計画していたからだ。希望が通り、2年目から農業を担当した。
作った作物はミズナやリーフレタス。会社の求めに応じ、有機JASの認証も取得した。このとき伏田さんは二つのことを実感した。一つは、想像したほど栽培が難しくなかったこと。もう一つは、会社が仕入れる価格が高かったことだ。伏田さんはこのとき、「これはもうかる」と思ったという。

ここを4年で辞めると、次は農林漁業金融公庫(現日本政策金融公庫)に転職した。農業関係の金融の仕組みを知りたかったからだ。農家や農業法人向けの融資を担当し、簿記や財務、税務などを勉強した。自分が手掛けた融資案件を上司に説明する作業を通し、どうすれば融資を受けることができるかも理解していった。

ここまでの経歴で、いかに戦略的に就農に備えてきたかがわかるだろう。そして公庫を7年で辞め、農業を始めた。

栽培で失敗。「自分は何もわかっていなかった」

公庫を辞める前につくば市で農地を借り、ハウスを何棟か建て、カブとホウレンソウ、コマツナのタネをまいておいた。就農した2015年1月の中旬か下旬ごろには、収穫できると思っていた。ところが、ある日ハウスに入ってみると、小さな虫がいっぱい付いていた。アブラムシだった。
ホウレンソウとカブはほぼ全滅状態だった。外食企業のハウスでやってみて「簡単だ」と思った有機農業だったが、いざ独立してやってみるとそう甘くはなかった。ここで選択肢は二つあっただろう。品目を増やしてリスクを分散するか、とりあえず栽培できそうな品目に絞るか。伏田さんが選んだのは後者。無事だったコマツナに絞り、栽培技術の向上を目指すことにした。

小祝政明さんが講師を務めた勉強会。左奥が伏田さん(千葉市、2015年8月撮影)

「自分は素人だ。何もわかっていなかった」。そう感じた伏田さんは、ただちに次の行動に出た。専門家の指導を仰いだのだ。向かった先は、農業教室「フォトシンセシス」を運営する高橋有希(たかはし・ゆき)さんが、プロの農家を対象に千葉市で開いた勉強会。講師を務めたのは、有機農業の技術指導で知られる小祝政明(こいわい・まさあき)さんだ。
伏田さんはこの勉強会に継続して参加した。学んだことの柱は土作り。天候の影響で他の農家が貧弱なコマツナしか育てられないときでも、伏田さんはしっかりと育てることができるようになった。「うちが今もうかっているのは、間違いなく小祝さんのおかげです」と話す。

小祝さんの指導は、植物が栄養素をどんな状態で吸収しているかという基本から説き起こし、土壌分析に基づく施肥設計などを指導する。伏田さんはそれを「こうやればうまくいくという夢を見せてくれる」と表現する。
ただし、同じことを聞いても全員がうまくいくとは限らない。農場の環境は場所によって違うからだ。伏田さんは「小祝さんの話を聞いて、何か起きたときに原因を自分で把握し、解決策を考えるようになった」という。肝心なのは、小祝さんの説明をもとに自ら仮説を立ててみる努力だ。
こうして伏田さんは栽培技術を高め、2017年には有機JASの認定を取得した。

独自の効率化と鮮度を保つ方法

設定した重さを超えるとブザーで知らせる計量器

農場運営の効率化も徹底的に追求していった。例えば、学校給食用などまとまった量を出荷するコマツナは、ハウスの中で収穫しながら箱に入れて計量し、そのまま出荷できるようにした。作業場に戻り、袋に小分けにする必要がないからだ。
一方、スーパー向けなど袋に小分けにして出荷する分のために、作業場に特殊な計量器を導入した。専用の台の上に野菜を乗せていき、所定の重さに達するとブザーが鳴る仕組みだ。ふつうのはかりと違い、いちいち目盛りを見る必要がなく、作業が簡単なためにスピードがアップした。

では野菜の品質で重視しているのは何か。伏田さんは「味などの特徴に対する好みは人によって違う。誰もが共通して価値を認めるのは鮮度」と話す。ただし、収穫してすぐに出荷すれば鮮度は高いが、それでは一定量を安定して出荷することはできず、契約を増やすことは難しい。
必要なのは、鮮度を保ったまま保管することだ。そのために、電磁波を発する機械を冷蔵庫の中に設置した。野菜を仮死状態に置くことで、呼吸などで栄養分が使われるのを防ぐのが目的だ。実際、別の冷蔵庫で貯蔵しておいた野菜と食べ比べてみると、味にはっきりと違いがあったという。

伸び悩む有機野菜の市場では勝負しない

栽培と並ぶ焦点は、狙うべき顧客層だ。有機野菜の市場は、生産者や販売会社が長年拡大に努めているが、伏田さんはかつて自分が外食企業で有機栽培を始めたときと比べ、市場はそれほど拡大していないと感じていた。

そこで狙ったのが、農薬や化学肥料を使う一般的な栽培方法で作った野菜の中で、比較的高い値段のものを買う顧客層だ。高くても買う理由は「味がいい」「品種が珍しい」などいろいろある。伏田さんは野菜の品質に加え、「有機JASの認証を取っている」という付加価値でその層を開拓していった。
伏田さんが狙った価格帯は、一般的な有機野菜と比べるとやや安い。だがその分、買いやすいので顧客数は有機野菜よりずっと多い。伏田さんはそこをターゲットにしたからこそ効率化を追求し、その値段でも十分利益を出せるようにした。急成長できたのは、伸び悩みが顕著な有機野菜の市場に限定しなかったからだ。

この先の経営戦略を練っている

じつは1億円の売上高が目の前に迫った今、伏田さんはこの先の事業構想を練り始めている。しかもそのうちのいくつかは、すでに手を打っている。だがそれらは現時点では「オフレコ」。農業の世界で、秘密にすべき戦略があることはそう多くはない。そこも、伏田さんを取材して感じた面白さだった。
最後に伏田さんの経営努力の動機に触れておこう。
「できるだけ面倒くさいことはしたくない。できればずっと動かずにいたい。何もしたくない。でもそういうわけにはいかないし、食べていかないといけない。だから、極力しんどくないようにやっているんです」
この言葉は「有機JASのマークを取る労力はたいしたことない」という言葉と重なる。大きな労力をかけずに栽培できるように技術を高め、効率化のために努力し、「しんどくない」と言える状況をつくる。「楽をするため」という理由で他の人がやらないような創意工夫をこらし、経営を発展軌道に乗せる。エッジのきいたこの農業観がこれから何を実現するかに注目したい。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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